今回は、計算書類等の備置きや株主への提供を怠った場合の株主総会決議の効力と、著作権法の改正のうち、平成25年1月1日に施行された、いわゆる「写り込み」等に関する内容をご紹介します。
≪今回のご紹介テーマ≫
1 計算書類等の備置き・株主への提供を怠った場合の株主総会決議の効力
2 改正著作権法、いわゆる「写り込み」等に関する規定のご紹介
3 弁護士Blog情報
1 計算書類等の備置き・株主への提供を怠った場合の株主総会決議の効力
会社法によると、定時株主総会の招集通知を行う際には株主に対し、貸借対照表や損益計算書などの「計算書類」を提供することや、さらに「計算書類」を定時株主総会の2週間前から会社に備置くことを義務付けています。これらの義務は、なにも大企業や上場会社にだけに課されたものではなく、中小企業やベンチャー企業を含む全ての会社に課された義務となっています。
しかし、多くの中小企業などでは、定時株主総会の招集・開催はともかく、その事業年度の損益計算書等「計算書類」を株主総会の前に会社に備置いて、株主に事前に提供していることは、むしろ稀ではないでしょうか。現実には、役員の再任登記のためや、役員の報酬や退職金の税務上の資料として株主総会議事録だけを作成していることが、多いことと思います。
ところで、会社法は、株主総会の招集手続に法令違反があった場合には、その株主総会による決議は取り消されると規定しています。
そして、計算書類等の備置き・株主への提供を怠った場合には「招集手続きに法令違反」があったとして、その株主総会にかかる決議の全てが取り消されるというのが裁判例の多数になっています(宮崎地裁平成12年7月21日判決、東京地裁平成22年3月24日判決など)。決算の承認決議に限らず、取締役の再任や退職金に関する決議など、すべての決議が取り消し対象とされています。
通常、このような法令違反が問題とされることはありませんが、中小・ベンチャー企業でも、いざ会社の支配権を巡る争いなどが発生した場合には、会社経営や支配権を争うために、この会社法違反を理由として株主総会決議の効力を争ってくることも考えられます。後から慌てて泣きを見ないように、常日頃から会社法などの法令を意識した経営が必要です。(佐川明生)佐川明生のなるほど
2 改正著作権法、いわゆる「写り込み」等に関する規定のご紹介
平成24年6月27日に公布された著作権法の改正に関しては、本ニュースレターでも以前、「違法ダウンロード」の刑事罰化についてご紹介していますが、今回は平成25年1月1日に施行された、いわゆる「写り込み」等に係る規定の内容をご紹介します。
(1)付随対象著作物の利用(著作権法30条の2)
写真撮影やビデオ収録の際、背景に著作物であるキャラクターが写り込んでしまうことがあります。こうしたいわゆる「写り込み」について、適法か否かについて明確な規定はありませんでした。
そこで今回、著作権法30条の2が新設され、写真の撮影等の方法によって著作物を創作するにあたり、写真の撮影等の対象から分離することが困難であり、付随して対象となる著作物(付随対象著作物)は、当該創作に伴って複製又は翻案することができ、また、付随対象著作物は写真等著作物の利用に伴って利用することができることが規定されました。
(2)検討の過程における利用(著作権法30条の3)
企業がキャラクター商品を企画するにあたり、そのキャラクターの著作権者から許諾を得る前に、企画書等にキャラクターを掲載するといった行為は日常的に行われています。
しかし、こういった行為は、当該キャラクターの著作権者から許諾を得る前に複製行為を行っているため、厳密には著作権侵害行為となる可能性がありました。
そこで今回、著作権法30条の3が新設され、著作権者の許諾を得て著作物を利用しようとする者は、これらの利用の検討過程において利用をする場合には、必要と認められる限度にて当該著作物を利用することができることが規定されました。
(3)実用化のための試験等の用に供するための利用(著作権法30条の4)
家電メーカーが録画機器を開発するにあたっては、実際に音楽や映画等の著作物を素材として録音または録画するといった行為が日常的に行われています。
しかし、録画機器自体は私的使用のための複製であるものの、録画機器の開発自体は営利行為であるため、厳密には著作権侵害行為となる可能性がありました。
そこで今回、著作権法30条の4が新設され、公表された著作物は、著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発または実用化のための試験に用いる場合、必要と認められる限度にて、利用することができることが規定されました。
(4)情報通信技術を利用した情報提供の準備に必要な利用(著作権法47条の9)
クラウドサービス等の各種インターネットサービスにおいては、データの処理速度を高める目的で、データの大量複製が行われています。
しかし、このような大量複製行為も厳密には著作権侵害行為となる可能性がありました。
そこで今回、著作権法47条の9が新設され、著作物は、情報通信技術を利用する方法により情報を提供する場合であって、当該提供を円滑かつ効率的に行うための準備に必要な電子計算機により情報処理を行うときは、必要と認められる限度にて、記録媒体への記録や翻案を行うことができることが規定されました。
(5)国立国会図書館による自動公衆送信等に係る規定(著作権法31条3項)
デジタル化の進展に伴い、国立国会図書館の電子化資料をインターネットにより広く国民が利用できるようにすることが求められてきました。
そこで今回、著作権法31条3項が新設され、絶版その他これに準ずる理由により入手することが困難な図書館資料に係る著作物について、自動公衆送信を行うことができること等が規定されました。(鈴木理晶)鈴木理晶のなるほど
3 弁護士Blog情報
会社分割と詐害行為取消権(古田利雄)
https://www.clairlaw.jp/blog/toshiofuruta/2013/02/post-24.html
株式上場の準備と労務管理 (菅沼匠)
https://www.clairlaw.jp/blog/takumisuganuma/2013/02/post-3.html
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