今回は、コンバーチブルノートについてと、自主的な申告により下請法違反の勧告を免れることができる取扱いを紹介します。
1. コンバーチブルノートについて
このところ話題の資金調達方法である「コンバーチブルノート/Convertible Note」に関する講演(株式会社ジャパンベンチャーリサーチ代表取締役北村彰さん・JVCA主催)を聞いたのでまとめてみます。
Convertible Noteは、シード期の資金調達手段として、次の資金調達時に転換を予定した株式への転換価格を明確に定めないローンです。
ITベンチャー企業のセットアップコストが低減したこと等により、シードアクセラレータ(立ち上げ間もない事業への少額投資)の成功事例が出てきたことを背景として、簡便な資金調達方法として選択されるようになっており、2012年現在、米国では、シード期の投資として50%使われているという。
基本的な設計の要素は以下の5つ。
- 次期資金調達予定日
- 次回資金調達目標金額
- 貸付利息 3~6%
- 転換価格の設定におけるDiscount 次回増資時の株式価格の20%減等
- 転換価格の設定におけるCap 転換価格の上限
Convertible Noteの大まかな例を示すと以下のようになる。
役員二人の会社A(資本金300万円/発行済株式300株)がスマートフォン向けに面白いサービスを提供するビジネスモデルを考え付いた。そこで、アーリーステージ向ファンドZは半年分のランニングコストとして500万円をConvertible Noteで出すことにした。
内容は、
- 次期資金調達予定日(返済期限)は2年後
- 次回資金調達額は1億円
- 貸付利息は4%
- Discountは20%
- Capを20万円
とする。
1年経ち、この会社の開発は上手くいって、サービスもリリースし、マスコミにも取り上げられて集客も順調に増えているので、VC(ベンチャーキャピタル)に投資してもらうことになった。
VCは、この会社の増資前の時価総額を4億円と評価して、1億円出資し、増資後に≒25%に相当する株式100株(1株=100万円)の割り当てを受けることにした。
Zが有しているConvertible Note のDiscountは20%なので、1株=80万円となるが、Capが20万円なので、ZのConvertible Noteは、結局500÷20=25株に転換される。
VC投資後の株主構成は、ファウンダー300株(71%)、VC100株(23%)、Z25株(6%)となる。
Convertible Noteの特徴
メリット
- 種類株のコスト回避
- 複数の投資家が増資手続のタイミングを合わせなくてもいい
- バリエーションの厳密な評価不要
- 清算時に貸主は債権者となり株主に優先する
- 創業者のモチベーション維持
デメリット
- 調達企業は債務超過となり入札や取引対象の条件を具備できないこともある
- エンジェル税制の適用がない
- ローンの形式であれば貸主に貸金業登録が必要(よって、登録のないVCは転換社債を使うことになる。)
私見
ベンチャー投資の方法としては、まず種類株投資を普及させるべきだと思う(つまり、種類株を使ってほしい)。
創業者とVCとは、会社の利害関係者としての役割・立場が違うので、同一の株式で利害調節をするのは難しい。
Convertible Noteでも、次のラウンドの第三者割当増資が普通株で行われるとすれば、創業者がシェア(=モチベーション)を維持していくのは難しい(内容が同じ前回の普通株と大幅に乖離した価格設定はされづらい)。
普通株投資では、創業者が特別多数をもっていれば、既存投資家に不利な増資や清算手続きも完全に有効に行うことができ、清算するとすれば、持ち株割合による残余財産の分配となる(つまり、創業者が100万円、VCが5億出していたとしても、持ち株比率が67%:33%なら、その割合で配分することになる)。
それはおかしいから、種類株で、残余財産と重要な変更についての拒否権は投資者に持たせて、投資価格については創業者のモチベーションを下げないように設計するとよい。
ベンチャーにお金が供給されやすくなるのは良いことだと思うが、米国で流行っているということで、種類株が普及していない日本で導入しても、本家と同じような効果がでないかもしれない。
「Convertible Note利用実態調査」
http://www.jvr.jp/sites/default/files/press_releases/2012convertiblenote.pdf
2 下請法リニエンシーについて
下請法は、親事業者が下請事業者に対して行う「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」を規制対象としており、資本金の額が1千万円を超える事業者を「親事業者」としていることから、対象となる事業者の幅が広くなっています。
下請法違反行為を行うと、違反行為を行った親事業者は、公正取引委員会から下請への不利益な取り扱いをやめるよう、また、その他の必要な措置を行うこと等を勧告されることがあります。公正取引委員会からの勧告が行われると公正取引委員会のHPにその情報が掲載されることになり、会社の社会的信用や評価を失墜させることになります。
これを回避する方法として、違反行為を行った親事業者自身が行える、独禁法の課徴減免制度に似た取扱いがあります。公正取引委員会は、平成20年12月17日「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」という発表を行い、次のような事由が認められた場合は、違反した親事業者に対する勧告は行わないこととしました。
- 公正取引委員会が当該違反行為にかかる調査に着手する前に、当該違反行為を 自発的に申し出ている。
- 当該違反行為を既に取りやめている。
- 当該違反行為によって下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置 を既に講じている。
- 当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講じることとしている。
- 当該違反行為について公正取引委員会が行う調査及び指導に全面的に協力している。
下請代金の額を減じていたような場合は、不利益を回復するための必要な措置として(上記事由の(3))、過去1年間分の減じていた金額を下請事業者に返還する必要がありますが、会社の社会的信用や評価を落とし、それを回復することの難しさを考えると、事業者としては、上述した取り扱いを受けるための対応を行うことを検討すべきだと思います。
公正取引委員会「下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者の取扱いについて」
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.december/081217.pdf