今回は、名目上の取締役兼従業員が組合活動をしたことを理由とする解雇の効力について述べた裁判例と、会社分割が詐害行為に当たるとしてその取消を認めた裁判例を紹介します。
1. 裁判例紹介-佐賀地裁平成22年3月26日判決
名目上の取締役に就任した従業員が労働組合に加入し、組合活動をしたことを理由に解雇され、その解雇の効力が争われた裁判例を紹介します。
「名ばかり店長」ならぬ「名ばかり取締役」で有名になった佐賀地裁平成22年3月26日判決を紹介します。
従業員を、例えば「箔付け」などの理由で、名目上の取締役としている会社もあると思います。そのような従業員・取締役が、労働組合に加入し、組合活動をしたことを理由に解雇され、その解雇の効力などが争われたのが、この裁判例です。
この裁判で争われたのは、取締役の肩書をもつ従業員が、労組法2条但書1号所定の「役員」に該当するか否かです。「役員」に該当するとなると、その者は労働組合への加入は認めらず、組合活動は行えないので、労働組合への加入や組合活動を理由とした解雇が有効となる可能性が高くなります。
この点について、佐賀地裁は、「『役員』に該当するか否かは、問題とされた組合員の職制上の名称から直ちに決せられるべきではない。...その判定にあたっては、当該労働者の担当職務の実質的内容に即して、個別的、具体的に判断すべきものである」とし、「取締役」という肩書だけから判断せず、職務の実質的内容から判断するという立場をとりました。
その上で、「勤務時間や勤務日数についても会社から管理を受けていたというのであり、取締役に就任したとはいえ、単なる従業員とほとんど異ならない立場にあったとみることができる」と認定し、「役員」には該当せず、解雇は無効としています。
2. 裁判例紹介-最高裁平成24年10月12日判決
多額の保証債務を負担する会社がその引き当て財産である不動産を含む権利義務を会社分割により新設した会社に承継させたことが詐害行為に当たるとして取消された裁判例を紹介します。
今回は、会社分割が詐害行為に当たるとして取消した裁判例をご紹介します。
会社分割とは、自社(分割会社)の事業に関する権利義務の全部又は一部を分割して他の会社に承継させる手続のことです。このうち既存の会社に承継させる場合を吸収分割、新たに設立する会社に承継させる場合を新設分割と言います。このような会社分割は、経営状況が悪化した会社の事業再建のための有用な手段として用いられていました。
近年では、債務超過状況にある会社が債権者への支払を免れる目的で、債権者の承諾を得ないで会社分割を行い、優良事業や資産を元の会社から切り離す濫用的な利用が少なからず行われています。本件は、多額の保証債務を負担していた会社がその所有不動産以外に保証債務の引き当てになるような財産を持っていなかったにもかかわらず、新設分割を行い、保証債務を負担しない新設会社に不動産を含む財産を承継させてしまったため、債権者側から新設会社に対し、その詐害行為取消し及び不動産の所有権移転登記抹消登記手続を求める訴訟が提起されたという事案です。
本判決は、新設分割により新たに設立される会社にその債権に係る債務が承継されないため、会社法810条の債権者保護手続(会社分割に対する異議)の対象にならない債権者については詐害行為取消権によって保護する必要があること、及び、詐害行為取消権の行使によって新設分割を取消したとしても、その効力は訴訟の当事者間限りのものであって、会社設立の効力に影響を及ぼすものでないことを理由に、債権者側の請求を認めました。
本判決は、会社分割が詐害行為となる場合を最高裁としてはじめて認めたものです。なお、現在、会社法制の見直しに関する要綱案(案)が公表されていますが、そこでも、本件のような場合には、債権者が承継会社等に対して、承継した財産の価額を限度として、その債務の履行を請求することを認める方向性が示されています。
参考:最高裁平成24年10月12日判決(裁判所ホームページ)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121012115428.pdf
会社法制の見直しに関する要綱案(案)(法務省ホームページ)
http://www.moj.go.jp/content/000100819.pdf