今回は、違法ダウンロードを刑事罰化した著作権法改正と、DocomoのiモードIDによって特定される電話番号の契約者の氏名及び住所について、発信者情報開示請求が認められた裁判例を紹介します。
1. 違法ダウンロードの刑事罰化について
平成24年6月27日に公布された著作権法の改正のうち、平成24年10月1日に施行される違法ダウンロードの刑事罰化について説明します。
今年6月に「著作権法の一部を改正する法律」が成立しました。改正内容の中でも、特に違法ダウンロードの刑事罰化については新聞やニュース等でも話題になりましたので、ご存じの方も多いかと思います。
これまでも、著作権を侵害している自動公衆送信(インターネットでの配信など)であると知って、これを受信して録音・録画することは、たとえ私的使用のためであっても、著作権侵害に該当しましたが(著作権法第30条1項3号)、刑事罰は科されませんでした。それが今回の改正によって刑事罰が科されることになりました。
違法ダウンロードの刑事罰化の条文(著作権119条3項として追加されます。)は、『私的使用の目的をもって、有償著作物等の著作権又は著作者隣接権を侵害する自動公衆送信を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行って著作権又は著作隣接権を侵害した者は、2年以下の懲役若しくは200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科することができる。』
となります。
対象となる著作物は「有償著作物等」です。「有償著作物等」とは、録音、録画された著作物又は実演等で、有償で公衆に提供が行われているものを指します。販売されているCDやDVD、有料でインターネット配信されている音楽や映画などは「有償著作物等」に当たりますが、テレビで放送されている番組は、有償とはいえませんので、「有償著作物等」には含まれません(最近は、オンデマンド放送として有償でテレビ番組を配信していますが、こちらは「有償著作物等」に該当します。)
また、対象著作物を録音又は録画する行為が刑罰の対象となりますので、YouTube等の動画投稿サイトを単に見ているだけの場合は、刑罰の対象となりません。動画投稿サイトではデータを個人のPCにダウンロードしながら再生するという形式のものもありますが、このダウンロードは電子計算機における著作物の利用に伴う複製(著作権法第47条の8)に該当するため、この場合でも刑罰の対象となりません。
既に、違法ダウンロードの改正は施行されていますので、インターネットで配信されている音楽や映像等を録音・録画する際には、上述した違法ダウンロードに該当しないかについて注意する必要があります。上記したものの他にも、文化庁のHPに今回の改正についてのQ&Aがありますので、そちらもご参照ください。
参考:違法ダウンロードの刑事罰化についてのQ&A(文化庁ホームページ)
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/download_qa/pdf/dl_qa_ver2.pdf
2. 裁判例紹介-金沢地裁平成24年3月27日判決
いわゆるプロバイダ責任制限法に定める発信者情報開示請求権に基づき、DocomoのiモードIDによって特定される電話番号の契約者の氏名及び住所について、発信者情報開示請求が認められた裁判例を紹介します。
いわゆるプロバイダ責任制限法第4条は、インターネット上で名誉棄損等の権利侵害をされた被害者が、インターネット・サービス・プロバイダに対して、発信者情報の開示を請求することができると定めています。
この発信者情報の開示は、通常の場合、IPアドレス、URL及び時刻によって問題となる通信の発信者を特定して請求します(三点特定方式)。
ところが、NTTドコモのインターネットサービスであるiモードでは、問題となった通信の発信者につながりうる情報は、携帯電話番号ごとに付与される7ケタの英数字である「iモードID」しか保有されておらず、IPアドレスを基とした発信者の特定することはできませんでした。
携帯電話の契約者と実際の利用者が異なることも考えられます。そこで、「iモードID」により特定されるNTTドコモの携帯電話サービスの利用契約者の氏名及び住所が、発信者情報に該当するか否かが争点となりました。
裁判所は、「iモードID」は、iモードを利用する顧客の携帯電話番号ごとに一つ付与されるものであり、同一の「iモードID」が異なる電話番号に付与されることはないこと、iモードは契約者自ら使用するのが通常であり、かつ、契約者以外の者がiモードを利用して問題となる通信を行った事実が窺われないことなどを理由に、「iモードID」により特定される契約者の氏名及び住所は発信者情報に該当するとして、開示を認めました。