今回は、独占禁止法違反行為の公正取引委員会への申告と、高年齢者雇用安定法の改正について紹介します。
1. 独占禁止法違反行為の公正取引委員会への申告について
他社による独占禁止法違反行為を公正取引委員会に申告する際の方法と注意点を解説します。
近年、独占禁止法(独禁法)違反事件の報道を目にすることが少なくありません。
このような独禁法違反が発見されるきっかけには、一般からの情報提供(申告)、公正取引委員会(公取委)の調査(職権探知)、課徴金減免制度による報告、中小企業庁からの請求などがありますが、最近は、企業や団体が他社の独禁法違反行為について、公取委に申告するケースが増加しています。
今年の4月、川口市の商工会議所が、公取委に対し、東京電力の電気料金値上げが優越的地位の濫用であると主張して独禁法違反の申告をしたことは記憶に新しいと思います。
今回は、他社の独禁法違反行為を公取委に申告する際の方法と注意点等について解説します。
申告の方法
独禁法違反行為の申告方法は、口頭でも構わないとされています。しかし、公取委がこの申告をきっかけとして事件を取り上げ、調査するか否かの判断を容易にできるよう、申告は、次の事柄をできる限り明らかにした書面(申述書)によって行った方がよいでしょう。
具体的には、
- 申告者の住所、氏名・名称
- 違反の疑いがある行為者の住所、氏名・名称、代表者名、所在地
- 違反の疑いがある行為の具体的事実(誰が、誰と共に、いつ、どこで、なぜ、誰に対して、いかなる方法で、何をしたか)
を、申述書上で明らかにすることが望ましいとされています。
その際、独禁法違反の疑いがある行為を証明する資料があれば、これを添付します。例えば、文書の写し、写真、チラシなどです。
また、申告対象となる行為が独禁法に違反していても、いかなる排除措置が競争の回復につながるのかが一義的に明らかではない場合、望まれる排除措置について積極的に記載することも考えられます。
申告をする際の注意点等
他社の独禁法違反行為を公取委に申告する場合に注意すべき点は以下のとおりです。
まず、申述書に「違反の疑いがある行為の具体的事実」を記載する場合、市場競争に与える悪影響について説得的に記載するという点です。公取委は、公正かつ自由な競争を促進し,事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とする独禁法の運用機関ですので、申告者の私的利益が侵害されていることだけでなく、市場競争にいかに悪影響をもたらしているかを説得的に説明できるかが重要になります。
次に、申告対象行為が取引先によって行われた場合、申告の対象の中に、取引先との契約で秘密保持義務を負っている内容が含まれている可能性もあります。取引先の独禁法違反項を申告する場合、申告内容が秘密保持義務違反にならないかについて十分検討する必要があります。
また、公取委による審査が開始した場合、申告者が事情聴取を受け、供述調書が作成されることもありますが、供述者の名称や供述者の特定を可能にする記述をマスキングする手法を取ることもあるようなので、このような対応を依頼することも考えておくとよいでしょう。
申告者に対する通知
申告が書面で行われ、かつ、具体的な事実を示している場合、公取委は、通知者に対し、当該事件についてどのような措置を採ったか(採らなかったか)を通知します。そして、当該通知を受けた者は、申告の結果に納得できないなど、申告の処理に係る疑問、苦情その他の申出があれば、本局、地方事務所及び支所に設置されている窓口にこれを申し出ることができます。この申し出は審理会で点検され、その結果は、原則として申し出の日から2ヶ月以内に申出者に連絡されます。
独占禁止法に違反する事実の申告についてご不明な点があれば、いつでも当事務所にご相談ください。
参考:審査審判手続(公正取引委員会HP)
http://www.jftc.go.jp/dk/seido/sinsa.html
2. 高年齢者雇用安定法改正について
高年齢者雇用安定法が改正されましたので、主な改正内容について紹介します。
今国会で高年齢者雇用安定法が改正されました。
主な改正内容は、
- 継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止、
- 継続雇用制度の対象者を雇用できる企業の範囲の拡大、
- 義務違反の企業に対する公表規定の導入、
- 高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定等
です。
この改正は、平成25年4月1日から施行されることになっています。
今回は、これらのうち特に重要である継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止と継続雇用制度の対象者を雇用できる企業の範囲の拡大について説明します。
継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止
高年齢者雇用安定法は、60歳未満の定年を原則禁止する(8条)とともに、65歳(平成25年3月31日までは64歳)未満の定年を置いている事業主に対して、
- 定年の引き上げ
- 継続雇用制度
- 定年の廃止
のいずれかの措置をとることを義務付けています(9条1項)。
このうち継続雇用制度とは、希望する高年齢者をその定年後に再雇用したり、雇用延長などをする制度のことをいいます。
従前は、継続雇用制度を採用する場合、過半数の労働者で組織する労働組合等との書面協定(労使協定)のなかで対象者について基準を定め、この基準に適合する希望者だけを再雇用等することが認められていました(改正前9条2項)。
ところが、今回の改正により、継続雇用制度を採用する場合、原則として、継続雇用を希望する高年齢者全員について再雇用等をしなければならないことになりました。
ただ、改正前9条2項の対象基準を設けている事業者については、老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢に到達した以降の者に対し、従前の対象基準を引き続き利用することを認める形で経過措置が整備されました。
具体的には、次の各期間の間、それぞれの期間ごとに掲げた年齢以上の労働者については、従前の対象基準に基づいて再雇用等していくことができます。
- 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上の者
- 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上の者
- 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上の者
- 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上の者
継続雇用制度の対象者を雇用できる企業の範囲の拡大
今回の改正では、定年後の継続雇用を希望する労働者を自社で再雇用等する以外にも、一定のグループ企業(子会社や関連企業)で引き続き雇用する契約を締結することが継続雇用制度に含まれるものとされました(改正後9条2項)。
継続雇用制度の対象者を雇用できるグループ企業の範囲は、改正法の施行までに厚生労働省令で定められる予定になっています(佐藤亮)。佐藤亮のなるほど
参考:「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」の概要(厚生労働省HP)
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/topics/dl/tp0903-gaiyou.pdf