今回は、平成24年10月1日に施行される改正労働者派遣法、および盗難キャッシュカードによる預金払い戻し被害を受けた者が金融機関にその補てんを求めたケースを紹介します。
1. 改正労働者派遣法について
改正労働者派遣法が平成24年10月1日に施行されることになりました。
改正労働者派遣法は今年の10月1日から施行されます(もうすぐですね!)。
主な改正内容は、
- 日雇派遣の原則禁止
- 離職後1年以内の人の元勤務先への派遣禁止
- グループ企業派遣の8割以下制限
- 派遣先の都合により派遣契約を解除する場合の措置の義務付け
- 派遣元のマージン率等の情報提供の義務化
- 派遣社員と派遣先社員との待遇の均等配慮の義務付け等です。また、3年後(平成27年)に施行される改正として労働契約申込のみなし制度があります。
今回は、これらのうち特に重要と思われれる「日雇派遣の原則禁止」と「労働契約申込のみなし制度」について説明します。
日雇派遣の原則禁止
日雇派遣原則禁止の対象となるのは派遣元(派遣会社)との雇用期間が30日以内の派遣です。
但し、専門26業務(派遣期間制限の無い26種類の業務)のうちの一部業務と政令で定められた雇用の機会の確保が特に困難であると認められる場合には、例外的に日雇派遣を行うことが可能となります。
具体的には、ソフトウェア開発、機械設計、事務用機器の操作、通訳・翻訳・速記、秘書、ファイリング、調査分析、財務処理など18種類の業務及び60歳以上の人、雇用保険の適用を受けない学生、本業収入が500万円以上で副業として日雇派遣に従事する人、主たる生計者でない人(但し、世帯収入が500万円以上の場合のみ)の人が当該禁止の対象となりません。
なお、この日雇派遣の禁止は、派遣元事業者に対する禁止事項となっています。そのため、派遣先と派遣元事業者との派遣契約自体は30日以内の期間を定めることは可能であり、そのしわ寄せが派遣元に生じる可能性があります。つまり、派遣期間を30日以内として契約した場合、派遣元は派遣労働者を30日以内の期間で雇用することができませんので、派遣期間を超える期間については派遣元が派遣労働者の給与等の費用を負担することになります。
労働契約申込のみなし制度
今般の派遣法の改正により、平成27年10月1日から、違法派遣がなされた場合、派遣先が派遣労働者に雇用契約の申込を行ったとみなされます。
ここでの違法派遣とは、派遣禁止業務への派遣、無許可・無届の派遣業者からの派遣の受け入れ、派遣可能期間を超える派遣の受け入れ、偽装請負を指します。
専門26業務を担当してもらうとして派遣可能期間の制限なく派遣労働者を受け入れたけれども、実際に担当してもらっている業務が専門26業務に該当しないというような場合、上述した派遣可能期間を超える派遣の受け入れをしたことになります。
みなし規定の適用を避けるためにも、専門26業務の派遣社員を受け入れる場合は、実際の業務が専門26業務に該当するのかについて確認をとり(参考資料:専門26業務に関する疑義応答集)、専門26業務に該当しない可能性がある場合は、派遣可能期間を超える派遣契約をしないようにすべきでしょう(吉田南海子)。吉田南海子のなるほど
参考:厚生労働省HP 改正に関する資料
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/kaisei/03.html
専門 26業務に関する疑義応答集
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/dl/haken-shoukai05.pdf
2. 裁判例紹介-東京地裁平成24年1月25日判決
盗難キャッシュカードによる預金払い戻し被害を受けた者が金融機関に対して、預金者保護法に基づく補てんを求めた事案に関する裁判例を紹介します。
銀行のキャッシュカードを盗まれて、お金を引き出されたという経験がある方もいるかもしれません。
預金者保護法(偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律)は、キャッシュカードを盗まれた預貯金者が速やかに金融機関にその旨を通知する等の一定の要件を満たした場合には、原則として、金融機関は預貯金者に対してその払い戻しの額に相当する金額の補てんを行わなければならないと定めています(預金者保護法5条)。
ただし、例えば、キャッシュカードに暗証番号を書いていた場合のように預貯金者に重過失がある場合や、金融機関が不正なものではないことを証明した場合(預貯金者本人の意思により払い戻しがなされている場合等)には補てんされません。
この裁判例は、預金者の自宅から盗まれたキャッシュカードによりATMから約2000万円の預金が払い戻しされた事案で、金融機関が不正なものではないことを証明できたかどうかが争点となりました。盗難されてから約10日後に警察署に被害届を出したことや預金者がこの盗難の約1か月前に引き出し限度額を50万円から300万円に引き上げていること、盗難者は2回目に正しい暗証番号を入力できていることなどの事情があったことから、金融機関は、このカードは盗まれたものではないと主張しました。
これに対して、裁判所は、当該口座を日常的に使用していなかったことからすれば払い戻しにすぐ気付かなったとしても不自然とはいえないこと、預金者には引き出し限度額を引き上げる合理的な理由があったこと、キャッシュカードが置かれていた預金者自宅内の書類を参考に正しい暗証番号にたどり着いたことも否定できないとし、預金者が福岡にいたときにも自由が丘のATMで払い戻しがなされていることなども鑑みて、この払い戻しは盗難カードを用いて行われた不正なものではないと認められないと判断し、金融機関に全額補てんを求める内容の判決を下しました。
なお、預金者保護法は、偽造キャッシュカードや盗難キャッシュカードのみが対象ですが、その対象外である通帳盗難の場合やインターネットバンキングの不正利用の場合についても、全国銀行協会が自主ルールとして預金者保護法と同様の保護を図っています。