今回は、企業の不祥事に際して設置される第三者委員会に関するガイドラインについてと、不動産の時効取得の完成後に、第三者が元の所有者から抵当権の設定登記を受け、その時からさらに取得時効に必要な期間が経過した場合の抵当権の効力に関する裁判例を紹介します。
1. 第三者委員会ガイドラインについて
企業不祥事に際して設置される第三者委員会に関して、日弁連がガイドラインを定めておりますので、これを紹介します。
企業等が不祥事を起こした場合、最近では、当該企業が第三者委員会を設置して、発生した不祥事を調査するケースが増えています。今回は、第三者委員会とは何か、簡単にご紹介します。
第三者委員会は、法律で規定されているものではありませんが、日弁連がガイドラインを定めています(平成22年7月15日策定、同年12月17日改正)。
当該ガイドラインでは、第三者委員会について、「企業や組織(以下、「企業等」という)において、犯罪行為、法令違反、社会的非難を招くような不正・不適切な行為等(以下、「不祥事」という)が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会」と定義しています。
そして、その目的を、「全てのステークホルダーのために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復すること」としています。(ステークホルダーとは、株主、投資家、消費者、取引先、従業員、債権者、地域住民などといった、当該企業に関心を持つ者全てを指します。)
当該ガイドラインでは、上記目的を達成するため、
- 第三者委員会の活動についての指針
- 企業等の協力についての指針
- 公的機関とのコミュニケーションの指針
- 委員等についての指針等を定めていますが、さらに、第三者委員会は、その調査及び結果の信頼性を確保するため
- 第三者の独立性、中立性についての指針も定めています。
具体的には、
- 調査報告書の起案権は第三者委員会に専属する
- 第三者委員会は、調査により判明した事実とその評価を、企業等の現在の経営陣に不利となる場合であっても、調査報告書に記載する
- 第三者委員会は、調査報告書提出前に、その全部又は一部を企業等に開示しない
- 第三者委員会が調査の過程で収集した資料等については、原則として、第三者委員会が処分権を占有する
- 企業等と利害関係を有する者は、委員に就任できない
と定めています。
当該ガイドラインが策定されるまでは、第三者委員会に関して特にルールがなく、その活動に批判が生じることもありましたが、当該ガイドラインにより、実効性及び信頼性があがることが期待されます(平井佑治)。平井佑治のなるほど
参考:企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン(日弁連HP)
2. 裁判例紹介-最高裁平成24年3月16日判決
不動産の時効取得の完成後に、第三者が元の所有者から抵当権の設定登記を受け、その時からさらに取得時効に必要な期間が経過した場合、この抵当権は消滅するとした最高裁判例を紹介します。
Xさんがある不動産をYさんに売却した後Zさんにも売却した場合(二重譲渡)、YさんとZさんの関係を「対抗関係」といい、どちらが権利を取得するかは不動産登記によって決まります。
不動産を、善意無過失で10年間所有の意思をもって、平穏かつ公然と占有した場合、占有者は時効により当該不動産を取得することができますが(民法162条)、一旦時効が成立すると、上記の二重譲渡と同じように、その後に現れた第三者との関係は対抗関係になり、第三者より先に登記を具備しなければ時効取得による完全な所有権を主張できないとされています(大判大正14年7月8日)。
本件でXは、昭和45年3月にサトウキビ畑(以下「本件土地」とします)をAから購入して占有を開始しましたが、所有権移転登記手続を行っていませんでした。そのため、昭和57年1月に、Aの相続人であるBが本件土地について相続を原因とする所有権移転登記をし(但しAの死亡は昭和47年です。)、さらに、昭和59年4月に、Bにより本件土地に抵当権者Yのための抵当権が設定され、その旨の抵当権設定登記がされてしまいました。
Xは、昭和45年3月に善意無過失で所有の意思をもって占有を開始しているため、昭和55年3月に本件土地の時効取得が成立します(なお、Aが死亡したのは昭和47年であり、相続人Bは時効完成前に本件土地を取得しているにすぎないため、XはBに対しては登記を具備しなくとも時効取得を主張できます)。しかし、抵当権者Yのための抵当権設定はこの時効取得成立後であるため、かかる抵当権が設定された時点では、抵当権設定登記を先に具備されたXは抵当権者Yに対して時効取得による完全な所有権の取得を主張できないこととなります。
もっとも、Xは抵当権が設定された昭和59年4月以降も現在まで、当該抵当権の設定についても善意無過失で、本件土地の占有を継続していました。
そこでXは、抵当権者Yの抵当権設定登記後、さらに10年間占有を継続していることをもって、再度の時効取得が成立し、Yに対して、本件土地について登記がなくとも抵当権の制限のない完全な所有権を時効取得している旨を主張しました。
この点については、抵当権は、これにより履行が担保されている債務の不履行により抵実行されるまでは所有権と併存するため、抵当権の制限のない完全な所有権の時効取得を認める必要はないとする考え方もあります。しかし、最高裁は、長期にわたる継続的な占有を保護するという取得時効制度の趣旨を重視すべきであるなどとして、Xの主張を認め、Xの抵当権の制限のない完全な所有権の時効取得を認めました。
本判決のような事例が生じることは稀ですが、最高裁がはじめて判断を下したものであるためご紹介しました。