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今回は、労働組合法上の労働者性について判断した裁判例と、付加金について説明します。
1. 裁判例紹介-最高裁平成24年2月21日判決
音響製品の修理をする会社と業務委託契約を締結して出張修理業務に従事していた個人代行店について、原則として労働組合法上の労働者性があるとした裁判例を紹介します。
音響製品の修理をするX会社は、業務委託契約を結んで出張修理業務に従事する個人営業形態の業者(以下「個人代行店」とします)により結成される団体から、個人代行店の待遇改善を要求する団体交渉の申入れを受けましたが、個人代行店は労働者に当たらないなどとして、この申入れを拒否しました。
これに対し、大阪府労働委員会及び中央労働委員会は、X会社に対し、団体交渉に応ずべきことを命じたため、X会社が、国を相手にこの命令の取消を求めました。
一審及び原審は、個人代行店は、X会社から業務を受注する外注先とみるのが相当であって、X会社との関係において、労働組合法上の労働者に当たるということはできないと判断しました。
これに対し、最高裁は
- X会社は、自ら選抜し、約3カ月間のX会社が実施する研修を了した個人代行店に出張修理業務の多くの割合を担当させている上、1日当たりの受注可能件数を原則8件と定め、出張修理業務を各個人代行店にその営業日及び業務量を調整して割り振っていること、
- X会社と個人代行店との間の契約内容は、X会社の作成した統一書式に基づき画一的に定められ、個人代行店の側で個別に交渉する余地がないこと、
- 個人代行店に支払われる委託料は形式的には出来高払に類する方式が採られているものの、個人代行店は通常5件ないし8件の出張修理業務を行い、その最終の顧客訪問時間は午後6時ないし7時ころになることが多く、修理綱領等が修理する機器や修理内容に応じて著しく異なるという事情が特段うかがわれないこと、
- 個人代行店は、特別な事情のない限りX会社によって割り振られた出張修理業務を全て受注すべきものとされていること、
- 個人代行店は、原則として営業日には毎朝業務開始前にX会社に出向き、X会社の親会社作成のサービスマニュアルに従って所定の出張修理業務を行うのであり、その際には、親会社のロゴマーク入りの制服及び名札を着用した上、X会社の社名が印刷された名刺を携行し、毎夕の業務終了後もX会社に戻り、伝票処理や修理進捗状況等の入力作業を行っていることなどから、個人代行店については、独立の事業者としての実態を備えていると認めるべき特段の事情がない限り、労働組合法上の労働者としての性質を肯定すべきと判断し、かかる特段の事情の有無等を判断するために、本件を原審に差し戻しました。
近年いわゆる「偽装請負」が問題となっており、特に、本件のように個人事業主と業務委託契約を締結する場合には、労働者性が肯定されやすいので注意が必要です(鈴木理晶)。鈴木理晶のなるほど
参考:最高裁平成24年2月21日判決(最高裁HP)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120221142437.pdf
2. 付加金について
残業代や解雇予告手当を支払わない場合、裁判所から支払いを命じられるおそれのある「付加金」について説明します。
会社が、従業員に、残業代を支払わなければいけないのにサービス残業させて残業代を支払わなかったり、解雇したのに解雇予告手当を支払わなかったりした場合、会社にどういうリスクが生じるかご存知ですか?
従業員が裁判に訴えた場合、裁判所は、会社に対して、残業代や解雇予告手当の支払いとは別に、ペナルティとして、「付加金」(労働基準法114条)の支払いを命じることがあります。
たとえば、会社が残業代100万円を支払っていない場合、裁判所は100万の支払いに加えて、付加金の名目でさらに100万円支払え(トータル200万円の支払い)という判決を下すことがあります。付加金の支払いを命じるかどうか、命じるとして金額をいくらにするかは、裁判所が自由に決めることができます。
会社としては、従業員から残業代請求の訴訟を提起された場合、仮に敗訴して残業代を支払うことになるのはある意味やむを得ないとしても、重ねて付加金の支払いを命じられるとダメージは少なくありません。
その場合の対応として、会社は、1審の裁判所から、残業代の支払いと付加金の支払いの両方を命じられたら、すぐに残業代を支払うとともに、控訴して、付加金の支払いを命じた判決部分の取消しを求めることが考えられます。
このようにすれば、2審の裁判所が判決をする時点では会社の義務違反が解消されるので、付加金の支払を命じる前提が無くなるからです(裁判例の結論はまだ固まっていませんので、リスクはありますが、おそらく、2審ではこのような判決がされると思われます。平成23年7月27日仙台高裁秋田支部判決)。
従業員から残業代請求をされて、苦しんでいる会社は増えておりますが、くれぐれも付加金の支払い義務は負うことがないように対応する必要があります。