先日の環境省発表によると今年のクールビズは5月1日からになるそうです。
今回は、株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」の意義が問題とされた裁判例と基本給を月額で定めた上で月間総労働時間が一定の時間を超える場合に時間当たり一定額を別途支払うなどの約定のある雇用契約の下における割増残業代の支払について争われた裁判例を紹介します。
1. 裁判例紹介―最高裁平成24年2月29日決定
株式移転の反対株主からの株式買取価格決定申立について、相互に特別の資本関係がない会社間において、一般に公正と認められる手続きにより株式移転の効力が発生した場合は、原則として、株式移転における株式移転比率は公正であると判示した裁判例を紹介します。
2. 裁判例紹介―最高裁平成24年3月8日判決
基本給を月額で定めた上で月間総労働時間が一定の時間を超える場合に時間当たり一定額を別途支払うなどの約定のある雇用契約の下において、各月の上記一定の時間以内の労働時間中の時間外労働についても、使用者が基本給とは別に割増賃金の支払義務を負うとされた裁判例を紹介します。
3. 弁護士ブログ情報
1.裁判例紹介―最高裁平成24年2月29日決定
本件は、A社の株主Xが、A社を株式移転完全子会社、B社を株式移転設立完全親会社とする株式移転計画に反対し、Xが保有するA社株の公正な価格の決定(会社法807条2項)を裁判所に申し立てた事案です。A社の株価は、当該株式移転計画(株式移転比率はA社株式1株に対し、B社株式0.9の割当て)を発表した後大きく下落し、その後も市場全体の株価の推移と比較しても下落が大きかったという背景がありました。
今回の判決は、平成23年4月19日の最高裁決定を前提として、「公正な価格」についての判断がなされました。当該最高裁決定においては、反対株主からの株式買取請求における「公正な価格」について、以下の判断がなされました。
反対株主に「公正な価格」での株式の買取請求権が付与された趣旨は、反対株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には、株式移転がされなかったとした場合と経済的に同等の状態を確保し、さらに、株式移転により、組織再編による相乗効果(シナジー効果)その他の企業価値の増加が生ずる場合には、これを適切に分配し反対株主の利益を一定の範囲で保証することである。そして、「公正な価格」の額の算定に当たっては、反対株主を株式移転完全子会社との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生ずる時点、かつ、株主が会社から退出する意思を明示した時点である株式買取請求がされた日を基準日とするのが合理的である。
本件の原審は、株式移転計画発表後のA社株式の株価の下落が大きいことをもって、A社株1に対しB社株0.9を割当てるという比率は、経営統合による企業価値の増加を適切に反映していないと判断しました。そのため、「公正な価格」は、XがA社の株式買取請求を行った日を基準日にするのではなく、株式移転の影響を排除できる株式移転の内容が公表された前日までの市場株価を参照して算定するのが相当と判断し、株式移転計画の公表前一か月間の終値による出来高加重平均値をA社株の「公正な価格」としました。
これに対して、最高裁判所は、 上述した平成23年4月19日の最高裁決定を前提として、株式移転計画において定められていた株式移転比率が公正なものであったならば、「公正な価格」は、当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいうとしました。そして、相互に特別の資本関係がない会社間において、株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で、適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続きにより株式移転の効力が発生した場合には、総会における株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り、当該株式移転における株式移転比率は公正なものとみるのが相当であるとしました。
今回の決定で、最高裁は、株価の下落要因は様々なものが考えられることから、手続きが適正に行われた以上、株価の動きよりも企業の取締役及び株主の判断を重視するという姿勢を明らかにしました。実務上も組織再編についての反対株主による株式買取請求権の行使に対し、今回の最高裁決定を参考にしていく必要があると思われます(吉田南海子)。吉田南海子のなるほど
参考:最高裁平成24年2月29日決定
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120305155700.pdf
参考:最高裁平成23年4月19日決定
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110421110211.pdf
2. 裁判例紹介―最高裁平成24年3月8日判決
基本給を月額(41万円)で定めた上で月間総労働時間が一定の時間(180時間)を超える場合に時間当たり一定額を別途支払うなどの約定のある雇用契約の下において、各月の上記一定の時間以内の労働時間中の時間外労働についても、使用者が基本給とは別に割増賃金の支払義務を負うとされた事例を紹介します。
本件は、被告Y社に雇用されて派遣労働者として就労していた(すでに退職しています)Xが、Y社に対して、未払いの時間外労働の賃金があるとして、その支払い等を請求した事案です。
XY間の雇用契約では、基本給を月額41万円としたうえで、1か月間の労働時間の合計(以下「月間総労働時間」という。)が180時間を超えた場合にはその超えた時間につき1時間当たり2560円を支払うが、月間総労働時間が140時間に満たない場合にはその満たない時間につき1時間当たり2920円を控除する旨の約定がされていました。
Xは、月間総労働時間が180時間を超えない範囲で時間外労働をした月がありましたが、その時間外労働分も含めて、賃金請求をしました。
1つ目の争点は、Xの基本給は、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当を含んでいたといえるかであり、2つ目の争点は、Xが、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当を自由意思により放棄したといえるかです。
最高裁は、本件の基本給の約定は、基本給の一部を他の部分と区別して時間外割増賃金とした事情もなく、1か月の時間外労働時間は月によって勤務すべき日数が異なること等により相当大きく変動し得るものであるから、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とを判別することはできないとして、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働に対する時間外手当を含んでいたとはいえないとしました。
また、Xの毎月の時間外労働時間数が相当大きく変動し得るものであり、Xがその時間数を予測することが容易ではないため、Xが時間外手当の請求権を放棄したとはいえないとしました。
さらに、最高裁は、本件の賃金の約定について、「通常の月給制の定めと異なる特段の事情がない限り、...通常の月給制による賃金を定めたものと解するのが相当」と判示しています。
会社側が、「基本給に時間外手当が含まれている」と主張するためには、対象となる時間外労働時間数と手当の金額を明示していくことが必要になります。今回の最高裁判決も、いままでの裁判例に沿った判断といえます(田辺敏晃)。田辺敏晃のなるほど
参考:最高裁平成24年3月8日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120308144443.pdf