寒さが和らいでまいりましたが、その一方で花粉が気になる季節になってしまいました。
今回は、本年2月に始まった後見制度支援信託と、インターネットショッピングモールに商標権を侵害する他社商品が出品された場合における、モール運営者の責任について述べた裁判例を紹介します。
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1 後見制度支援信託について
今年の2月1日から、成年後見人や未成年後見人の財産管理に信託の仕組みを組み入れた後見制度支援信託の運用が始まりましたので、紹介します。
2 裁判例紹介―知財高判平成24年2月14日判決
インターネットショッピングモールに原告の商標権を侵害する他社商品が出品された事案について、ショッピングモールの運営者が合理的期間内にウェブページからの展示を削除したとして、商標権侵害の責任が否定された裁判例を紹介します。
1 後見制度支援信託について
今年の2月1日から後見制度支援信託が始まりました。後見制度支援信託は、後見制度の問題点を補うために導入されたものです。
後見制度には成年後見と未成年後見があります。このうち成年後見は、裁判所が選任した成年後見人が、認知症等によって判断能力が十分でない方に代わり財産の管理をし、またその心身の状態や生活状況に配慮する役割を果たすもので、もう一方の未成年後見は、親権者のいない未成年者に、未成年者の権利を保護する未成年後見人を付けるものです。
後見人には、弁護士等の専門職だけでなく、親族が就くこともできますが、親族後見人が本人の財産を不正に着服するケースが多発しています。報道によると昨年度10か月間で18億円以上が親族後見人によって着服されたそうです。このような事態は、本人の権利保護を目的とした後見制度の趣旨に反します。
そこで、最高裁判所は、昨年、親族後見人の着服を抑制するために、「信託」を利用することを提案しました。「信託」というのは、本人の財産を第三者に移した上で、財産を移した趣旨に則ってその管理運用をしてもらう制度です。今回運用が始まった後見制度支援信託は、その名の通り、後見制度の問題点を補うために、「信託」の仕組みを利用するものです。
具体的には、次のようになります。まず、家庭裁判所は、後見開始の申立てがあった場合、後見制度支援信託によることが適切だと判断したときは、親族(親族後見人)と弁護士等の専門職(以下、「専門職後見人」といいます。)を後見人に選任します。その後、専門職後見人は、本人の生活・財産状況の調査を踏まえて、後見制度支援信託によることが適切か検討することになりますが、検討の結果、これによることが適切だと判断できる場合、家庭裁判所からその旨の指示書を発行して貰い、信託銀行等と信託契約を結びます。この信託契約より本人の財産(金銭のみ)は、信託財産として信託銀行等に移ります。信託契約締結後は、信託された金銭のなかから、定期的に、後見人の管理する預金口座に本人の生活費が振り込まれ、また入院の時などに家庭裁判所に指示書に基づく一時金が振り込まれることになります。
後見制度支援信託は親族後見人の不正を防止するための制度ですが、親族後見人にとってもメリットがあります。親族後見人が適切に本人の財産管理をしていたとしても、他の親族からの疑いをもたれてしまう危険が否定できませんが、後見制度支援信託には、このような疑いをもたれる危険を軽減できるのです。
信託契約締結後、原則として専門職後見人は辞任するので、家庭裁判所が親族後見人に対してどこまで監督することができるかという問題は残りますが、後見制度支援信託の導入により、親族後見人の不正が減少することが期待されます。
以上のように、後見制度支援信託を含め、後見制度は弁護士等の専門職が関わる場合が多いので、申立ての段階で、弁護士等にご相談されたほうがよいでしょう。
(平井佑治)平井佑治のなるほど(佐藤亮)佐藤亮のなるほど
2 裁判例紹介―知財高判平成24年2月14日判決
2012年1月25日発行のニュースレター110号で紹介した事案の控訴審判決が出されましたのでご紹介します。本件の事案と一審判決の概要は、こちら(?search=%B3%DA%C5%B7&x=49&y=14)でご確認ください。
結論においては、一審(東京地判平成22年8月31日)と同じですが、知財高裁は、「ウェブページの運営者が、・・・運営システムの提供・出店者からの出店申込みの許否・出店者へのサービスの一時停止や出店停止等の管理・支配を行い、出店者からの基本出店料やシステム利用料の受領等の利益を受けている者であって、その者が出店者による商標権侵害があることを知ったとき又は知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるに至ったときは、その後の合理的期間内に侵害内容のウェブページからの削除がなされない限り、上記期間経過後から商標権者はウェブページの運営者に対し、商標権侵害を理由に、出店者に対するのと同様の差止請求と損害賠償請求をすることができると解するのが相当である。」と判示し、一審判決よりも、ショッピングモール運営者の責任が認められる場合について踏み込んだ内容となりました。ただし、本件では、楽天においては合理的期間内にウェブページからの展示を削除したということで、原告の請求を認めませんでした。
第一審では、楽天が「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡」(商標法2条3項2号)した主体であるかどうかが争われ、楽天が当該「譲渡」主体ではないとの判断がなされました。控訴審では、「譲渡」主体であるかではなく、楽天が商標権の侵害者に該当するかどうかの検討がなされ、「商標法2条3項に規定する「使用」をしている場合に限らず、社会的・経済的な観点から行為の主体を検討することも可能」として、「譲渡」などの「使用」をした主体でなくても、差止や損害賠償が認められることがあるとの判断を示しました。
この件が上告されるのかどうか、最高裁がどのように判断するのかは現時点ではわかりませんが、本件の知財高裁の判示内容からしますと、商標権の侵害者に該当する範囲が広くなったと考えられます。商標権を侵害しているかどうかの判断は非常に難しいときもあり(なお、本件は侵害主体の問題は別として、商標権侵害自体の判断は容易なケースです。)、そのようなときにインターネットショッピングモールの運営者(「運営者」)も難しい対応を迫られる可能性があります。運営者における対応を容易にするために、運営者は、利用規約等に運営者が商標権の侵害のおそれがあると判断した場合、運営者において当該侵害のおそれがある商品をウェブページから削除できる旨の条項を設けておくと良いと思います。
(鈴木俊)鈴木俊のなるほど(吉田南海子)吉田南海子のなるほど
参考:知財高裁平成24年2月14日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120216101709.pdf