バレエの世界において登竜門として知られるローザンヌ国際バレエコンクールで、菅井円加さんが優勝しました。熊川哲也さんや吉田都さん以来の快挙ですので、将来に期待したいですね。
今回は、システムエンジニアについて、裁量労働制の適用が認められなかった裁判例と、歌手を被写体とする写真を無断で週刊誌に掲載した行為がパブリシティ権侵害に当たらないとした裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介−京都地裁平成23年10月31日判決
システム設計等とプログラミングを併せて行っていたシステムエンジニアについて、裁量労働制の適用対象でないとして、会社の時間外手当の支払義務を認めた裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介―最高裁平成24年2月2日判決
週刊誌「女性自身」に掲載されたダイエット体操の紹介記事に、ピンクレディーの写真を無断掲載した行為が、パブリシティ権侵害に当たらないとした裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−京都地裁平成23年10月31日判決
本件は、X社が、従業員であったYに対して労働契約上の債務不履行による損害賠償を求める一方、Yが、X社に対して未払時間外手当の支払等を求めた事案です。
X社は、コンピュータシステム及びプログラムの企画・設計・開発等を行う会社で、システムエンジニアについて、専門業務型裁量労働制を採用していました。また、A社はX社の顧客ですが、X社には、A社からの委託業務を担当するチームがあり、Yはこのチームに属していました。
なお、X社では、システムエンジニアとプログラマを区分しておらず、各技術者に、システム設計・分析とプログラミングの両方を担当させていました。
裁判所は、専門業務型裁量労働制の対象となる「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(1)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定(2)入出力設計、処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウエアの決定等(3)システム稼働後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等であるとしたうえで、プログラミングは、その性質上、裁量性の高い業務ではなく、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないとしました。
そして、プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容される理由は、システム設計が、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき、裁量性が認められるからであるとした上で、委託者であるA社は、X社に対し、システム設計の一部しか発注していないこと、相当厳しい納期を設定していたことから、下請であるX社において業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性は、ほとんどなくなっていたと認定しました。
更に、X社が、Yに対し、専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき、未達が生じるほどのノルマを課していたこと、A社への営業活動にも従事させていたことも認定し、Yの業務は、「情報処理システムの分析又は設計の業務」ということはできず、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていないと判断しています。
システムエンジニアに専門業務型裁量労働制を導入する場合、システムエンジニアとプログラマの区分がしっかりとなされていることや、システムエンジニアに専念させている場合でも、業務遂行の裁量性が与えられていることが重要です。このような対応をしっかりとしておかないと、予想外の未払時間外手当の支払義務が発生することにもなりかねません(佐藤未央)佐藤未央のなるほど。
参考:京都地裁平成23年10月31日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111129185940.pdf
2 裁判例紹介―最高裁平成24年2月2判決
本件は、昭和51年から昭和56年まで活動していた女性デュオ「ピンクレディー」の二人が、ピンクレディーを被写体とする14枚の写真を、無断で週刊誌「女性自身」に掲載した雑誌社に対して、ピンクレディーのパブリシティ権が侵害されたと主張して、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案です。
本判決は、いわゆるパブリシティ権を「肖像等が有する顧客吸引力を排他的に利用する権利」と定義した上で、人格権に由来する権利の一内容を構成するものということができるとした一方で、肖像等に顧客吸引力を有する者は、社会の耳目を集めることも多く、その肖像等を時事報道、論説、創作物等に使用されることもあり、これらを正当な表現行為等として受忍しなければならない場合もあるとし、肖像等を無断で使用する行為は、(1)肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用し、(2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付し、(3)肖像等を商品等の広告として使用するとき等、「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とするといえる場合」に、パブリシティ権を侵害するものとして違法となるとしました。
その上で、本判決は、雑誌社の掲載した各写真は、ピンクレディーの曲の振り付けを利用したダイエット法を解説し、これに付随して子供の頃に当該振り付けをまねていたタレントの思い出等を紹介するに当たって、読者の記憶を喚起するなど、当該記事の内容を補足する目的で使用されたものであるから、「専ら他人の肖像等が有する顧客吸引力の利用を目的とするもの」とはいえず、違法であるとはいえない旨判示しました。
本判決は、パブリシティ権を侵害するものとして違法となる場合として、3つの類型を例示しており、今後の実務にも一定の影響を与える可能性がありそうです。
(鈴木理晶)鈴木理晶のなるほど(佐藤亮)佐藤亮のなるほど
参考:最高裁平成24年2月2日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120202111145.pdf