東京スカイツリーが今月末に竣工するそうです。5月の開業が待ち遠しいですね。
今回は、厚生労働省が本年1月30日に発表した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」と、インターネットを介して開始した取引における裁判管轄の合意に関する裁判例を紹介します。
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1 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告
今年の1月30日、厚生労働省として初めて「パワハラ」について取りまとめた報告がなされましたので、この報告について紹介します。
2 裁判例紹介―神戸地裁尼崎支部平成23年10月14日決定
インターネットを介して開始した取引における裁判管轄の合意が排他的な裁判管轄を定めたものか争われた裁判例を紹介します。
1 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告
厚生労働省が、今年の1月30日、社会問題化しつつある「パワハラ」について、初めて報告書を取りまとめ、公表しました。
「セクハラ」については、男女雇用機会均等法でその予防や対策を講じる義務が明記されていますが、「パワハラ」については、現在のところ、これを予防する措置を命じる法令は存在せず、定義も曖昧なものとなっています。
そのため、単なる業務上の指導と思われる行為を「パワハラではないか!」と訴える者がいる一方で、過度に「パワハラ」にあたることを恐れて業務上必要な指導も行えない上司がいるなど、「パワハラ」の予防・解決に向けた労使や関係者の取組みが急務になっていました。
今回の「報告」は、そのような問題状況下で作成・公表されたもので、これを基にさらに議論され、本年3月を目途に、「パワハラ」の問題の予防・解決に向けた提言が取りまとめられる予定になっています。
前述のように、「パワハラ」については、これまで定義が定かではありませんでしたが、「報告」は、国の政府機関として初めてその定義を定めました。
それは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」というものです。
ポイントとしては、上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して優位性を背景に行われるものも含まれます。例えば、社内のIT設備に詳しい部下が、それを知らない上司に対し、侮辱するような発言をすることも、ここでいう「パワハラ」に該当する可能性があります。
また、「報告」では、「パワハラ」について、以下のように6個の行為類型に分類していますが、パワハラへの該当性を検討する際に参考になると思います(佐川明生)佐川明生のなるほど
? 身体的な攻撃(暴行・傷害)
? 精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
? 人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
? 過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
? 過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
? 個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
参考:職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告(厚生労働省HP)
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000021i2v-att/2r98520000021i4l.pdf
2 神戸地裁尼崎支部平成23年10月14日決定
Xは、Yとの間で、インターネットを介して外国為替証拠金取引(FX取引)の口座開設をしました。その際に、Xは、画面上に表示された取引約款の内容について、「承諾します」というボタンをクリックしています。
その後、Xは、Yに対して、自分が住んでいる場所を管轄する神戸地裁尼崎支部宛に損害賠償請求訴訟を提起したのですが、Yは、取引約款において「当社との間の本取引に起因又は関連する訴訟については、当社の本店又は支店の所在地を管轄する裁判所を専属的合意管轄裁判所とし、お客様はこのことをあらかじめ了承するものとします。」と定めており、この約款についてXが承諾した以上、Yの本店又は支店所在地を管轄する東京地裁か名古屋地裁で裁判をすべきだと反論しました。
そこで、取引約款について「承諾します」とクリックしたことをもって、専属的管轄合意(合意された裁判所以外での裁判を排除するような合意)があったといえるのかどうかが争点となりました。
本決定は、「インターネットのみを媒介とした取引において、電磁的記録の約款上の管轄条項によってなされる管轄合意については、約款に合意しなくては取引を開始することができない上、当該管轄合意を除いた合意をすることができない仕組みになっていることが多く、また、取引開始時において紛争を前提とした条項について顧客が関心を払うことが通常あり得ないこと、約款の内容は取引会社側が一方的に規定することができる上、法定管轄を有する裁判所のうち、取引会社側に有利な特定の裁判所にのみ管轄を限定することが顧客に極めて重大な影響を及ぼすものであることに照らすと、顧客において、約款による合意をした際に、直ちに排他的な専属管轄の合意までしていると解することはできないというべきである。」としました。そこで、その他の管轄を排除することが顧客にとって明らかであるとか、管轄合意について特に注意喚起がなされている等の特段の事情のない限り、排他的な管轄合意ではなく、法定管轄の裁判所と合意された裁判所の併存を認めたものと解するのが当事者の合理的意思に照らして相当であるとして、Xの主張を認め、東京地裁又は名古屋地裁への移送は認めませんでした。
インターネットを介した取引はますます盛んになっており、契約締結についても、画面上の「同意」ボタン等をクリックするだけで契約が成立するクリックオン契約が主流と言えます。もっとも、一般消費者の多くが、画面上に表示される長い約款を全文確認した上で、クリックしているかというと、そうではないのが現実でしょう。また、納得いかない部分があったとしても、対面でもないので、交渉の余地が事実上ないとも言えます。本決定はそのような現実や事業者と一般消費者間の経済力の差などを考慮した内容であり、インターネットを介した取引において参考になる裁判例として、ご紹介しました(鈴木俊)鈴木俊のなるほど