堀さん(ホープウィルグループ)のメールマガジンに、イスラム教由来市場(ハラル市場・イスラム教の教義に違反しない製品作り)の記事が掲載されていました。市場規模で2.1兆米ドルを超え、世界人口構成でも約20%以上を占めるこのマーケットは、食品の製造工程など様々なルールがあり、ハラル適合認証を受けることによって参入できるというもので、大きなマーケットであることを改めて認識しました。
今回は、会社から取立委任を受けた約束手形について商事留置権を有する銀行が、同会社の再生手続開始後に取立てた取立金を銀行取引約定に基づき同会社の債務の弁済に充当することの可否が争われた裁判例と、被告運営に係るインターネットショッピングモールに原告の商標権を侵害する他社商品が出品された事案について、被告は商品の譲渡主体でなかったとして、その商標権侵害・不正競争防止法違反の責任を否定した裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介−最高裁平成23年12月15日第一小法廷判決
会社から取立委任を受けた約束手形について商事留置権を有する銀行が、同会社の再生手続開始後に取立てた取立金を銀行取引約定に基づき同会社の債務の弁済に充当することの可否が争われた裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介―東京地裁平成22年8月31日判決
被告運営に係るインターネットショッピングモールに原告の商標権を侵害する他社商品が出品された事案について、被告は商品の譲渡主体でなかったとして、その商標権侵害・不正競争防止法違反の責任を否定した裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−最高裁平成23年12月15日第一小法廷判決
本件において裁判所が認定した事案の概要は以下の通りです。
XとY銀行は、平成18年2月15日、XがY銀行に対し債務の履行をしなかった場合、Y銀行は所持している手形等を取立てた上で、その取立金を同会社の債務の弁済に充当できるという銀行取引約定を締結しました。その後、Xは、平成20年2月12日、裁判所に対し民事再生手続開始を申立て、同月19日、再生手続開始の決定を受けました(再生手続開始の申立当時、XはY銀行に対し、少なくとも約9億6千万円の債務を負担していました。)。
Y銀行は、Xの再生手続開始の申立に先立ち、Xから、満期を平成20年2月20日〜同年6月25日とする各約束手形について、取立委任のために裏書譲渡を受けていました。
Y銀行は、Xの再生手続開始後、本件各約束手形を順次取立て、合計約5億6千万円の取立金を受領し、XのY銀行に対する債務に充当しました。
Xは、Y銀行の上記充当は、法律上の原因がないとして、不当利得返還請求権に基づき、その返還を求め、Y銀行に対し訴えを提起しました。
原審は、民事再生法上には、商事留置権は、特別の先取特権とみなす旨の規定(破産法66条)がないので、商事留置権に優先弁済権がないとして、Xの請求を認めました。
これに対して、最高裁は、まず、取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する者は、当該約束手形の取立てに係る取立金を留置することができるとした上で、上記取立金を法定の手続きによらず債務の弁済に充当できる旨定める銀行取引約定は、別除権の行使に付随する合意として、民事再生法上も有効であると解するのが相当であると判示しました。
民事再生法には、破産法66条のような規定がないため、民事再生手続上、商事留置権を行使した場合の扱いがどうなるのか争いがありましたが、本判決は、取立金を債務の弁済に充当できる旨の銀行取引約定がある場合について、債務の弁済の充当を認めたものです。
商事留置権は実務ではよく利用される担保権ですので、本判決は、実務上重要な意義を有するものです(平井佑治)。平井佑治のなるほど
参考:最高裁平成23年12月15日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111215143824.pdf
2 裁判例紹介―東京地裁平成22年8月31日判決
本件は、「Chupa Chups」の文字・図形について商標権を有し、「Chupa Chups」という名称でキャンディを販売している原告(イタリア法人・ペルフェッティ ヴァンメッレ ソシエタ ペルアチオニ)が、楽天株式会社(被告)に対して、楽天が運営しているインターネットショッピングモール「楽天市場」において、「Chupa Chups」等の表示を付した他社商品が複数販売されていたことについて、商標法及び不正競争防止法に基づいてその販売差止めと損害賠償を求めた事案です。
原告の差止め請求や損害賠償請求が認められるためには、楽天が商標法
2条3項2号「商品又は商品の包装に標章を付したものを譲渡し、・・・譲渡・・・のために展示」したといえるか、不正競争防止法2条1項1号・2号「他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の・・・商品等表示を譲渡」したといえることが必要となります。そこで、本件では、「楽天市場」を運営している楽天が、原告の類似商品等を「譲渡」した主体といえるのかどうかが争点となりました。
裁判所は、「楽天市場」の概要について詳細に検討した上で、(1)被告が運営する楽天市場においては、出店者が被告サイト上の出店ページに登録した商品について、顧客が被告のシステムを利用して注文(購入の申込み)をし、出店者がこれを承諾することによって売買契約が成立し、出店者が売主として顧客に対し当該商品の所有権を移転していること、(2)被告は、上記売買契約の当事者ではなく、顧客との関係で、上記商品の所有権移転義務及び引渡義務を負うものではないことが認められると判示し、出店者が「譲渡」の主体であって、楽天は「譲渡」の主体ではないと結論付け、原告の請求を棄却しました。
商標法や不正競争防止法における「譲渡」の主体といえるかどうかは諸事情を勘案して判断することになり、本件では、個別事情を詳細に検討した上で、楽天が「譲渡」の主体に該当しないと判断したものです。このため、個別事情によっては、インターネットショッピングモールの運営者が「譲渡」の主体に該当する可能性があります。(鈴木俊)。鈴木俊のなるほど
参考:東京地裁平成22年8月31日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100906085857.pdf