早いもので今年も残りわずかです。本年最終回は、インターネット上の
求人・求職者情報提供サイトと職業安定法で規制される職業紹介との
関係と、顧客名簿が「営業秘密」に該当するか否かが争われた事案を
紹介します。
記事に関する御意見やご質問がありましたら、「コメント」欄
にご記入下さい。当事務所の弁護士がコメントさ
せて頂きます。 みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。
1 インターネット上の求人情報・求職者情報提供と職業紹介との区分
インターネット上の求人・求職者情報提供サイトと職業安定法で規制
される職業紹介との関係について説明します。
2 裁判例紹介―東京高裁平成23年6月30日判決
LPガスを販売する会社が配送業務のために委託先に提供した顧客
名簿について、パソコンを使用することができる従業員であれば誰でも
閲覧でき、秘密である旨も明示していなかったことなどから、「営業秘密」
に該当しないと判示した事例(東京高裁平成23年6月30日判決)を紹介します。
3 年末年始の営業期間
弊事務所における年末年始の営業期間についてご案内します。
1 インターネット上の求人情報・求職者情報提供サイトと職業紹介との
区分について
リクナビ、マイナビを筆頭に、インターネットによる求人情報・求職者情
報提供が広まっていますが、職業紹介事業についてルールを定める職業
紹介法との関係が問題とされております。
もし、インターネットによる求人情報・求職者情報提供が、職業安定法
が定める「職業紹介」に該当するとなると、厚生労働大臣の許可が必要
になるだけでなく、手数料の金額が規制され、「職業紹介」に公共性が求
められていることから、取り扱える職種を限定するのが難しくなり、年収
や役職などを限定することもできなくなってしまいます。
職業安定法4条1項は、「職業紹介」を「求人及び求職の申込みを受け、
求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすること」と
定義しています。
求人情報又は求職者情報を提供するのみで、求人及び求職の申込み
を受けず、雇用関係の成立のあっせんを行わない、いわゆる「情報提供」
は、職安法の「職業紹介」には該当せず、これを業として行う場合にも法
による許可等の手続は必要ありません。
しかし、最近、情報提供事業者のホームページ上で、求人情報又は
求職者情報の閲覧を可能にするだけでなく、併せて求職者と求人者と
の間の双方向的な意思疎通を中継したり、求職条件又は求人条件に
適合する求人情報又は求職者情報を自動的に送信する仕組みとする
など、従来の「情報提供」の態様と大きく異なるものが出てきています。
これらは、特に管理職や高所得者層のみをターゲットとするなど、
「職業紹介」では行い得ない情報提供を行っている業者に多く見られます。
ただ、実際、「職業紹介」に該当するか否か容易に判断しがたい事例も
多いため、厚生労働省は、「民間企業が行うインターネットによる求人
情報・求職者情報提供と職業紹介との区分に関する基準」を定めています。
当該基準は、インターネットによる求人情報・求職者情報提供が、
次のいずれかに該当する場合には、「職業紹介」に該当するとしています。
(1)提供される情報の内容又は提供相手について、あらかじめ明示的に
設定された客観的な検索条件に基づくことなく情報提供事業者の判断に
より選別・加工を行うこと
(2)情報提供事業者から求職者に対する求人情報に係る連絡又は求人者
に対する求職者情報に係る連絡を行うこと
(3)求職者と求人者との間の意思疎通を情報提供事業者のホームページを
介して中継する場合に、当該意思疎通のための通信の内容に加工を行うこと
(1)については、情報提供事業者が、自ら積極的に求職者又は求人者に
連絡を行い、応募又は採用の勧奨、採用面接日時の調整、情報の追加的提
供等を行うことは、雇用関係成立のための便宜を図るものといえ、「職業紹介」
に該当することになります。
なお、これらを全てオンライン上で行うとしても、情報提供事業者と求職者又
は求人者との連絡手段として従来の面談、電話、ファックス、郵便等の代わり
に電子メールを用いるに過ぎず、「職業紹介」に該当するか否かの判断に影響
を与えるものではありません。
(2)については、情報提供事業者のホームページ上にある求人の求人者又
は求職者に対し、求職者又は求人者が当該ホームページを経由して電子メール
を送信することにより直接オンライン上で応募又は勧誘できる仕組みを設ける
場合には、情報提供事業者が通信内容に加工を行うものではなく、求職者又は
求人者に対して必要なメールアドレスを提供しているに過ぎず、このことによって
職業紹介に該当するものではありません。
なお、当該電子メールについて情報提供事業者がフォームを定め、求職者
又は求人者が当該フォームに必要事項を順次入力して作成する方式による
場合も同様です(佐川明生)。佐川明生のなるほど
2 裁判例紹介―東京高裁平成23年6月30日判決
本件は、X社がLPガスの配送業務のためにY社に提供したX社の顧客名簿
}を、Y社が自己の営業活動のために利用したため、X社が当該顧客名簿は
不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に該当するとして損害賠償を請求した
事案です。
X社は昭和36年ころからLPガスの仕入問屋であるY社からLPガスを仕入れ、
これを顧客に配送する事業を営んでいましたが、昭和50年代にY社がLPガス
の配送センターを開設することとなったため、Y社にX社の顧客名簿を提供し
顧客への配送を委託するようになりました。平成19年ころ、X社はY社に事業
譲渡を提案しましたが合意には至らず、X社はその事業をZ社に譲渡すること
となり、XY間の配送業務委託契約関係も遅くとも平成21年4月9日に終了し
ました。
その後、Y社は、同月11日から同年9月2日までの間、X社の顧客に対して、
Y社との間でLPガス供給契約を締結することを求める営業活動を行い、
Xの顧客2000〜2500軒中約680軒をY社の顧客として獲得しました。
X社は、X社の顧客名簿は不正競争防止法2条6項の「営業秘密」であり、
上記Y社による営業活動は不正競争防止法2条1項7号の「営業秘密の不正
使用」に該当するとして、Y社に対し、約1億3500万円の損害賠償を請求しま
した。
裁判所は、不正競争防止法における「営業秘密」とは、秘密として管理され
ている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上
の情報であって、公然と知られていないものをいい、(1)秘密管理性、
(2)有用性、(3)非公知性が要件とされるとの判断基準を示した上で、
X社の顧客名簿は、パソコンを使用することができる従業員であれば誰でも
閲覧できたこと、秘密である旨も明示していなかったこと、X社からY社に対し
て秘密として管理するように具体的に指示されたものではないことなどから
秘密管理性が認められないことは明らかであるとして、Xの請求を棄却しました。
不正競争防止法上の「営業秘密」として保護を受けるためには、閲覧権者
の限定や秘密である旨の明示などの「秘密として管理されていること」が必要
です。
経済産業省は平成23年12月1日に「営業秘密管理指針」を改訂し、参考
資料として「営業秘密管理チェックシート」なども公開されています。自社の
営業秘密の管理状況をチェックしてみて下さい。(鈴木理晶)鈴木理晶のなるほど
参考―営業秘密管理指針(経済産業省HP)
http://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/trade-secret.html#himitu
3 年末年始の営業期間
弊事務所では、平成23年12月31日から平成24年1月3日までの期間を
年末年始休業とさせていただきます。
通常営業は同年1月4日からとなります。
ご不便をおかけしますが、何卒ご理解いただきますよう宜しくお願いします。