なでしこジャパンがロンドン五輪予選を4勝1分無敗で突破し、本選出場
を決めました。
今回は、債務者の破産手続開始の決定後、物上保証人が、複数の被担
保債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済した場合、債権者が破
産手続において、この弁済に係る債権の存在を主張することができないと
した裁判例と、インターネット上の動画投稿サービスにおいて、管理運営会
社を投稿動画に関する著作権の侵害主体であるとした裁判例をご紹介し
ます。
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にご記入下さい。当事務所の弁護士がコメントさ
せて頂きます。みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。
1 裁判例紹介−最高裁平成22年3月16日第三小法廷判決
債務者の破産手続開始の決定後、物上保証人(自分の所有物を破産者
の債務の担保として提供していた者)が、複数の被担保債権のうちの一
部の債権につきその全額を弁済した場合、債権者が破産手続において、
この弁済に係る債権の存在を主張することができないとした裁判例を紹
介します。
2 裁判例紹介―知財高裁平成22年9月8日判決
インターネット上の動画投稿サービスにおいて、著作権を侵害する動画を
投稿する行為を実際に行なっているのがユーザである場合でも、動画投
稿サービスの管理運営会社が投稿動画に関する著作権の侵害主体であ
るとした裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−最高裁平成22年3月16日第三小法廷判決
本件において、Y銀行は有限会社Aに対し5口の貸付債権を有し、これ
ら債権を担保 するため、A及び物上保証人Bが所有ないし共有する土地
建物上に根抵当権の設定を受けました。その後、Aが破産開始決定を受
け、破産管財人Xはこの土地建物を任意売却しました。その際、Bの持分
に係る売却代金によりAの貸金債権1口が全額弁済され、また別の1口に
ついてもAの持分に係る売却代金からの弁済と併せて全額弁済されるに
至りました。
そのような事情のもと、Y銀行が破産手続きのなかで権利を主張できる
破産債権の額がいくらになるか問題となりました。
破産法は、破産手続開始後に第三者が債務を弁済等しても、「その債
権全額が消滅した場合」でない限り、その弁済は考慮せず、破産手続開
始時の現存額を破産債権額とすると規定しています(開始時現存額主
義・104条)。
本件において、裁判所は、Bの持分に係る売却代金による充当で消滅
した債権の金額を控除することなく、破産債権の額を査定しましたが、個
別の債権ごとに見れば、「その全額が消滅した場合」に当たり、その金額
を控除して破産債権額を査定することになるはずです。
そこで、破産管財人Xも、Bの持分に係る売却代金より全額弁済された
債権の金額を控除すべきであると主張し、破産債権査定異議の申立てを
しました。
最高裁は、上記破産法104条1項、2項所定の開始時現存額主義は、
その趣旨に照らせば、あくまで弁済等に係る当該破産債権について破産
債権額と実体法上の債権額とのかい離を認めるものであって、同項にい
う「その債権の全額」も、特に「破産債権者の有する総債権」などと規定さ
れていない以上、弁済等に係る当該破産債権の全額を意味すると解する
のが相当であるとしました。そして、債権者が複数の全部義務者に対して
複数の債権を有し、全部義務者の破産手続開始決定後に、他の全部義
務者が上記の複数債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済等し
た場合について、複数債権の全部が消滅していなくても、同項にいう「そ
の債権の全額が消滅した場合」に該当するものとして、債権者は、当該
破産債権についてはその権利を行使することはできないと判断し、Bの
持分による充当で消滅した債権の金額を控除することなく破産債権の
額を査定すべきであるとした原審を破棄し、差し戻しました。
本判決は、債務者の破産手続開始決定後に物上保証人が複数の被
担保債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済した場合における1
04条の適用について最高裁として初めて判断したもので、実務上重要
な判決です。(平井佑治)平井佑治のなるほど
参考:最高裁平成22年3月16日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100316113358.pdf
2 裁判例紹介―知財高裁平成22年9月8日判決
本件は、社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が、動画投稿
サービス「TVブレイク」の管理運営会社に対して、JASRACの管理する
著作物を複製し、又は、公衆送信することの差止め等を求めた事案です。
著作権を侵害する動画を投稿する行為を実際に行なっているのは
ユーザであり、管理運営会社ではありません。そのため、管理運営会社
を侵害主体とみなすことができるか否かが争点となりました。
判決は、「著作権侵害の蓋然性は管理運営会社において当然に予想
することができ、現実に認識しているにもかかわらず、管理運営会社は著
作権を侵害する動画ファイルの回避措置及び削除措置についても何ら有
効な手段を採っていない」、「管理運営会社は、著作権を侵害するファイル
が存在する場合には、これを速やかに削除するなどの措置を講ずべきで
あるにもかかわらず、一部映画など、著作権者からの度重なる削除要請に
応じた場合などを除き、削除等することなく、ユーザによる閲覧の機会を提
供し続けていた」などと認定した上で、「管理運営会社が、複製権を侵害す
る動画が多数投稿されることを認識しながら、侵害防止措置を講じること
なくこれを認容等する行為は、ユーザによる複製行為を利用して、自ら複
製行為等を行ったと評価することができるものである。」と判示しました。
本判決は、どこまでの措置を講じれば侵害主体とならないのか、具体
的な基準は明確にしておりません。しかしながら、動画投稿サービスを管
理運営する者にとって、削除を求められたり、違法投稿を発見したりしたら
直ちに削除すべきことは、侵害主体とみなされないために最低限必要な行
為と言えるでしょう。(鈴木理晶)鈴木理晶のなるほど
参考:知財高裁平成22年9月8日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100909131245.pdf