大相撲秋場所が千秋楽を迎えました。今年の秋場所は、大相撲史上6人目となる横綱白鵬の20度目優勝や琴奨菊の大関昇進など話題が盛り沢山でした。
さて、今回は、建物の瑕疵を巡る損害賠償請求訴訟において、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の内容について判断した最高裁判例と昨年の4月に施行された資金決済法の規制対象についてご紹介します。
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1 裁判例紹介−最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決
建物の瑕疵を巡る損害賠償請求訴訟において、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の内容について判断した最高裁判例をご紹介します。
2 資金決済法の規制対象
いわゆるプリカ法の後継法として資金決済法が昨年の4月に施行されました。新規事業の開始にあたってご相談の多い、同法の規制対象についてご説明します。
1 裁判例紹介−最高裁平成23年7月21日第一小法廷判決
本件は、9階建ての共同住宅・店舗として建築された建物(本件建物)を、その建築主から購入したXが、本件建物にはひび割れや鉄筋の耐力低下等の瑕疵があると主張して、その設計及び工事監理をしたY1と建築工事を施工したY2に対し、不法行為に基づく損害賠償として、瑕疵修補費用相当額等を請求した事案です。
高等裁判所(原審)は、建物の設計・施工者等が欠陥建築による不法行為責任を負う基準として判例(本件の第1次上告審である最高裁平成19年7月6日第二小法廷判決)が示していた「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」について、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険性を生じさせる瑕疵をいい、また、本件建物が売却された日までに当該瑕疵が存在していたことが必要であるとして、本件では、売却日までに本件建物の瑕疵により居住者等の生命、身体又は財産に現実的な危険が生じておらず、当該日までに本件建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が存在していたとは認められないと判断して、Xの不法行為に基づく損害賠償請求を棄却しました。
Xがこれを不服として上告したところ、最高裁判所は、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは、居住者等の生命、身体又は財産を危険にさらすような瑕疵をいい、建物の瑕疵が、居住者等の生命、身体又は財産に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、当該瑕疵の性質に鑑み、これを放置するといずれは居住者等の生命、身体又は財産に対する危険が現実化することになる場合には、当該瑕疵は、建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵に該当するとしました。
また、当該瑕疵を放置した場合に、鉄筋の腐食、劣化、コンクリートの耐力低下等を引き起こし、ひいては建物の全部又は一部の倒壊等に至る建物の構造耐力に関わる瑕疵はもとより、建物の構造耐力に関わらない瑕疵であっても、これを放置した場合に、例えば、外壁が剥落して通行人の上に落下したり、開口部、ベランダ、階段等の瑕疵により建物の利用者が転落したりするなどして人身被害につながる危険があるときや、漏水、有害物質の発生等により建物の利用者の健康や財産が損なわれる危険があるときは、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当するとしました。
そして、建物の所有者は、取得建物に建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵がある場合、特段の事情がない限り、設計・施工者等に対し、当該瑕疵の修補費用相当額の損害賠償を請求することができると判断しました。
建物の瑕疵を巡る不法行為に基づく損害賠償請求訴訟において、最高裁が瑕疵の内容として「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」との基準を定めたことに加え、更にその具体的内容が示されたことは、今後の類似の訴訟に影響を与えるものと思われます(佐藤未央)。佐藤未央のなるほど
参考:最高裁平成23年7月21日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110721142929.pdf最高裁平成19年7月6日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20070706154629.pdf
2 資金決済法の規制対象
平成22年4月に施行された「資金決済法」ですが、モバイル系に限らず昨今の新規事業の開始にあたり、この法律に関するご相談を受けることが多くあります。
この法律は、通称「プリカ法」の後継として制定されたものです。
プリカ法は、金額やサービスなどの価値が、紙、カード、ICチップなどの媒体に記録されるもの、例えば、商品券、ギフト券、図書券、ICOCA、PASMO、Edyなどについて、規制の対象としていました。これらは、顧客が、事前にお金を支払い、その分のサービスなどを後日受けることになる「前払式支払手段」のものであるため、カードを発行した会社が倒産などした際に、顧客との間で紛争が生じやすいため、規制の対象としたものです。
ただ、近年は、紙やカードではなく、サーバーに金額などの価値が記録される、いわゆる電子マネーが普及しており、その規制の必要性から、従来のプリペイドカードに加え、インターネット上で利用される電子マネーなどサーバーに金額などの価値が記録される形式を規制の対象とすべく、プリカ法を廃止して、資金決済法で統一的に規制することとなったのです。
もっとも、資金決済法においても、全てが「前払式支払手段」が規制の対象となっているのではなく、これら「前払い式」の基準日(3月末、9月末)における未使用残高が1000万円を超える場合に限られています。1000万円を超えた場合に、監督官庁に届出や登録が必要になり、加えて、未使用残高の2分の1を供託所に供託する必要が出てくるのです。この供託義務については、未使用残高の2分の1に相当するキャッシュフローを失うことになるので、小規模な企業にとっては影響が小さくないと思われます。
したがって、自分のお店でクーポン券などを発行する場合でも、その未使用残高の合計が1000万円を超えた場合には、届出が必要になり、その半額を供託する必要が出てきてしまいます。逆に、1000万円を超えない場合には、この法律の規制対象外になり、届出も供託も必要ありません。
なお、資金決済法において規制の対象となる「前払式支払手段」については、その取得にあたり対価が支払われていることが必要です。対価がないものは規制の対象外になります。その意味で、純粋なポイントカードは"おまけ"でありその付与に対価は支払われていないので、その発行に資金決済法の規制は及びません。ただ、"ポイントカード"という名称でも、そのポイント自体をお金で取得する場合には資金決済法の規制を受けることになりますので、注意が必要です(佐川明生)。佐川明生のなるほど