おかげ様で、Clair Law Firmニュースレターもvol.100を迎えました。
今後とも、企業関連法務の最前線について分かりやすくお伝えすべく精進
していく所存ですので、引き続きご愛読のほどよろしくお願いします。
今回は、対抗要件を具備していなかったとして、民事再生を行った納品先
に対する所有権留保の主張が認められなかった裁判例と、銀行との間で金
利スワップ契約を締結した顧客に対する銀行員の説明が不十分だとされ、説
明義務違反が認められた裁判例をご紹介します。
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にご記入下さい。当事務所の弁護士がコメントさせ
て頂きます。みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。
1 裁判例紹介―東京地裁平成22年9月8日判決
売掛金を保全するために納品先と所有権留保の合意をしていたが、対
抗要件がないとして、民事再生を行った当該納品先に所有権留保を主張
できなかった事案を紹介します。
2 裁判例紹介―福岡高裁平成23年4月27日判決
銀行との間で金利スワップ契約を締結した顧客に対する銀行員の説明
が不十分だとされ、説明義務違反が認められた事案を紹介します。
1 裁判例紹介―東京地裁平成22年9月8日判決
X社はY社に対して、継続して家庭用雑貨などを納品していましたが、
X社の売掛金を保全するために、この商品の売買契約に所有権留保の
特約を付けていました。
Y社は、経営不振に陥り、民事再生手続を申し立てたため、X社はY社に
対して、所有権留保の特約を根拠として、納品済みの商品の引き渡しを求
めました。
裁判所は、X社の権利は、民事再生手続において、一般債権者に優先し
て担保権を主張できる別除権(民事再生法(以下「法」といいます。)53条)
であると認めました。その上で、この別除権を主張するには、不動産に関す
る取扱(法45条)と同様に、対抗要件が必要であるとして、民事再生手続開
始の時点で、X社には動産の対抗要件としての、対象となる動産の「占有」が
ないから、結局別除権を対抗することができないと判断しました。
売掛金を保全するために、このような工夫をしていても、対抗要件を備えて
いなければ権利を主張することができないので、このような場合、自社が納品
した商品は、自社の占有下にあることがわかるようにしておく必要があります。
具体的には、納品先の倉庫で自社の商品を保管する場合、納品先が所有し
ている他の動産と区別できるように保管することや、区別して保管してある区画
に所有権留保についての表示をしてもらうべきです。
(古田利雄)古田利雄のなるほど
2 裁判例紹介―福岡高裁平成23年4月27日判決
スワップ取引とは、将来受け取ったり、支払ったりするキャッシュフロー
を交換する取引をいい、このうち金利スワップ契約とは同一通貨の金利を
交換する契約です。
今回の事案で問題となった金利スワップ契約は、想定元本を3億円として、
取引期間を平成17年3月8日から6年間(支払期日は3か月毎)、X社(原告)
から三井住友銀行(被告)への金利支払条件を固定金利年2.445%、三井
住友銀行からX社への金利支払条件を指標金利(3か月TIBOR)+0%とい
う内容です。なお、TIBOR(Tokyo Inter Bank Offered Rate)とは東京
市場における銀行間取引の金利のことです。つまり、X社は三井住友銀行に
上記契約により定められた固定金利相当額を期日に支払い、三井住友銀行
はXに3か月TIBORにより決められた変動金利を期日に支払うことになるの
ですが、実際には、多く金利を支払う方が差額を支払うことになります。また
、この金利スワップ契約には原則として中途解約ができず、三井住友銀行が
同意して中途解約する場合には解約時の市場実勢を基準として同行所定の
方法により算出した中途解約清算金を支払う可能性があるという定めがあり
ました。
三井住友銀行から勧誘を受けたX社は、複数の金融機関からの借入が主
に変動金利によるものであったため、変動金利リスクヘッジの観点から、金
利スワップ契約を締結しました。
ところが、平成18年6月までに、X社が三井住友銀行に合計883万0355円
を支払う結果となったため、X社が三井住友銀行に対して不法行為等に基づき
883万0355円を支払うよう求める本件訴訟を提起したというものです。
第2審である福岡高裁は、金利スワップ契約のような専門的性質の契約等に
おいては、その知識を有する当事者には、個々の相手方当事者の事例に見合
った当該契約の性質に副った相当な程度の法的な説明義務があるとし、証拠
関係からすると、中途解約精算金や変動金利リスクヘッジ機能の効果の判断
に必須な、変動金利の基準金利がTIBORとされる場合の固定金利水準等に
ついて、説明が極めて不十分であったとしました。そして、通常ではあり得ない
極端な変動金利の上昇がない限り、変動金利リスクヘッジに対する実際上の
効果が出ないものであったことは明らかで、本件金利スワップ契約は銀行に
一方的に有利で、X社に事実上一方的に不利益をもたらすものであったと判
断しました。したがって、銀行が十分な説明を行ったときには、本件金利スワ
ップ契約を締結しなかったことは明らかで、その説明義務違反は重大である
ため、本件金利スワップ契約は信義則に反し無効であり、説明義務違反は不
法行為を構成するとしました。もっとも、X社にも軽率な点があったといえること
から、約4割を過失相殺し、530万円及びその遅延損害金の範囲で請求を認
容しました。
金融商品の販売を巡っては銀行や証券会社との間で多数の訴訟が係属し
ていますが、銀行の説明義務違反が認められる裁判例というのは稀であるた
め、紹介した次第です。
なお、本件の第1審(福岡地裁大牟田支部平成20年6月24日判決)はX社
の請求を棄却し、銀行の説明義務違反を否定していました。福岡高裁は、安
易に銀行の主張を鵜呑みにしないで、事実関係を精査した上で、公正に判断
したという印象を受けますが、この事件は上告されていますので、最高裁の判
断がどのようになるかが注目されます。
(鈴木俊)鈴木俊のなるほど