2014年ソチ冬季五輪の組織委員会が、聖火を宇宙まで運ぶ構想を明らかにしたそうです。まだIOCの承認は下りていないみたいですが、夢のある話なので是非検討してもらいたいですね。
今回は、特許法の改正と、正当な理由なくタイムカード等の打刻をさせないなどした使用者に不法行為責任を認めた裁判例をご紹介します。
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1 特許法の改正
今年の5月31日に可決・成立し、6月8日公布された特許法の改正についてご紹介します。
2 裁判例紹介―大阪地判平成22年7月15日
使用者が正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせず、特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶した場合、不法行為責任を負うとした裁判例をご紹介します。
1 特許法の改正について
今回は、(1)ライセンス契約の保護の強化、(2)共同研究等の成果に関する発明者の適切な保護、(3)ユーザーの利便性向上、(4)紛争の迅速・効率的な解決のための審判制度の見直しの4点についての改正が行われましたが、そのうち、(1)と(2)について説明します。
(1)ライセンス契約の保護の強化
これまでは、特許権者との契約によって特許権の通常実施権をライセンスされた者は、特許庁にその旨を登録していなければ、特許権者から特許権を譲り受けた者に対して、自分が通常実施権者であることを主張することがでませんでした(特許法99条1項)。
しかし、今回の改正により、通常実施権者は、通常実施権を特許庁に「登録をしたとき」ではなく、通常実施権の「発生後」に、特許権や専用実施権を取得した者に対して、実施権の効力を有することになり、登録をしなくても特許権等を取得した第三者に対抗することができるようになりました。
実務上、通常実施権の登録はあまり行われず、特許権が譲渡されると通常実施権者の権利が消滅する危険性が常にありました。通常実施権者は、この対応策として、特許権者は通常実施権者の同意なく特許権を譲渡しない旨の条項を契約書に設ける等の方法をとっていました。ただ、このような条項を設けたとしても、通常実施権者が、特許権者が特許権を譲渡することを差し止めたり、譲受人に通常実施権者であることを主張できるわけではなく、特許権者等に対して契約違反に基づく損害賠償を請求できるようになるだけで、通常実施権者の権利保護という意味では十分な対策とは言えませんでした。今回の改正はこのような通常実施権者を保護するために行われたものです。
(2)共同研究等の成果に関する発明者の適切な保護
特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は共同で特許出願しなければならず(特許法38条)、全共有者で出願しない場合は、特許権の無効事由となります(特許法123条1項2号)。また、特許権の登録後、出願を行っていない者を特許権者とすることは認められませんでした。そのため、共同発明者の一部の出願により特許が登録されてしまうと、他の共同発明者は、特許の無効主張はできますが、自分自身が特許権者になることはできませんでした。
また、特許を受ける権利を有しない者の出願によって特許が登録されてしまった場合も、出願公開後は、真の特許権者による名義の回復は基本的には認められず、無効の主張ができるだけでした(特許法123条1項6号)。
しかし、真の権利者は、特許権を自己のものにしたいのであって、特許を無効にしたいわけではありません。今までは、このように共同研究者の一部又は特許を受ける権利を有しない者により特許出願され、特許が登録された場合、真の権利者が権利を回復する方法がありませんでした。
今回の改正では、真の権利者は、自己が特許出願者でなくても、特許登録された後に特許権の移転を請求することができる旨の条項が新設されましたので、この問題が回避できるようになります。
この改正は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内で、政令で定められた日から施行されますので、来年の6月までには施行される予定です。
(吉田南海子)吉田南海子のなるほど
参考:特許庁HP(特許法等の一部を改正する法律案)
http://www.jpo.go.jp/cgi/link.cgi?url=/torikumi/kaisei/kaisei2/tokkyohoutou_kaiei_230608.htm
2 裁判例紹介―大阪地判平成22年7月15日
被告Y法人に雇用された後に解雇された原告Xが、(1)未払賃金、時間外労働の割増賃金等の支払いを求めるとともに、(2)Xの上司が、すでに帰宅したXに対して夜中に電話をして、職場に戻るように指示したが、Xが応じなかったところ、その翌日以降、YがXのタイムカードを取り上げてタイムカードを打刻させなかった措置や、YがXからタイムカードの開示を求められた際に開示を拒絶した措置等について、不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料)の支払いを請求した事案です。
裁判所は、(2)について、「使用者は、労基法の規制を受ける労働契約の付随義務として、信義則上、労働者にタイムカード等の打刻を適正に行わせる義務を負っているだけでなく、労働者からタイムカード等の開示を求められた場合には、その開示要求が濫用にわたると認められるなど特段の事情のない限り、保存しているタイムカード等を開示すべき義務を負うものと解すべきである。そして、使用者がこの義務に違反して、タイムカード等の機械的手段によって労働時間の管理をしているのに、正当な理由なく労働者にタイムカード等の打刻をさせなかったり、特段の事情なくタイムカード等の開示を拒絶したときは、その行為は、違法性を有し、不法行為を構成するものというべきである。」と述べて、慰謝料請求の一部(10万円)を認めました。
本件の特徴は、会社が労働者に対してタイムカードを打刻させず、タイムカードの開示を拒絶した措置について、労働者からの慰謝料請求を認めた点にあり、実務上の参考になります。
(田辺敏晃)田辺敏晃のなるほど