6月に入り、様々な企業や自治体が独自にサマータイム制を導入したり、
スーパークールビズと銘打ってよりカジュアルな服装での就業を開始した
り、色々な方法で節電に努めていますね。個人的には、クーラーの使用を
控えるために扇風機を購入しようか検討中です。
今回は、TBSの会社分割に反対した楽天が保有するTBS株を、TBSが
買取る際の「公正な価格」について判断した裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介―最高裁平成23年4月19日決定
TBSの会社分割に反対した楽天が保有するTBS株を、TBSが買取る際
の「公正な価格」について判断した裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介―最高裁平成23年4月19日決定
株式会社東京放送(現:株式会社東京放送ホールディングス、「TBS」)
は、平成20年12月16日開催の臨時株主総会において、そのテレビ放送
事業及び映像・文化事業を完全子会社である株式会社TBSテレビに承継
させる会社分割の承認決議を行っています。
その株主総会の決議にあたり、TBSの株式を合計3777万0700株
(19.83%)保有していた楽天株式会社(以下「楽天」)は、反対票を投じ、
TBSに対し、その保有する株式の全てを「公正な価格」で買取るよう請求し
ましたが、両者で価格の決定につき協議が整わなかったため、TBSと楽天
の両社が、会社法786条2項に基づき、裁判所に対し、「公正な価格」の決
定の申立てを行いました。
会社法は、合併や会社分割など重要な事項について、株主総会での多数
決により承認できることにして機動性を確保する反面、その承認に反対した
少数派の株主(「反対株主」)に対し、その株主の利益を保護し、そのような
自分の意に沿わない会社からの離脱を認めるために、保有する株式を「公
正な価格」で買取るよう会社に請求できる権利(株式買取請求権)を認めて
います(会社法785条等)。
「公正な価格」の決定は、会社と反対株主との協議により決定されるのが
原則ですが(会社法786条1項)、協議が整わない場合には、裁判所に対
し、その決定を申立てることになります(同条2項)。
TBSと楽天の両社は、裁判所に対し、「公正な価格」の決定を申立てたわ
けですが、本件では、以下の3つが争点となりました。
?「公正な価格」の意味
?いつの時点を基準にして「公正な価格」を算定すべきか(「基準時」)
?「公正な価格」の算定方法
まず?について、最高裁は、合併や会社分割によりシナジーその他の企
業価値の増加が生じない場合(本件はこの場合でした。)には、合併や会社
分割などを承認する株主総会の決議がなければ、その株式が有したであろ
う価格(「ナカリセバ価格」)を算定し、これをもって「公正な価格」を定めるべ
きである、としています。
この点については、旧商法からの解釈をそのまま踏襲しています。
一番の争点となったのは、?「基準時」です。
上場会社の株価は、合併や会社分割を行うという事実により、その株価が
上昇したり、下落したりする場合がありますし、サブプライムローン問題その
他の外的・内的様々な要因により、刻一刻と変動しています。
したがって、いつの時点の「公正な価格」で会社が買取るのかは、会社にと
っても反対株主にとっても非常に重要な問題になります。
考え方としては、時系列的に次の4つの考え方がありえます。
?)株主総会承認決議時
?)株式買取請求権行使時
?)株式買取請求期間の満了日
?)合併・会社分割等の効力発生日
最高裁は、このうち、?)「株式買取請求権行使時」を採用しています。
その主な理由は、反対株主が株式の買取り、つまり会社からの離脱の意
思を表明した時点であり、その時点での価格の買取を反対株主が求めてい
るものと考えるのが合理的である、という点にあります。
?)「株主総会承認決議時」は、旧商法時代の多数説になります。
ナカリセバ価格という点からすると、決議時の価格を基準にすることは、理
に適っています。
しかし、旧商法時代、株式買取請求権は、承認決議を行う株主総会の日か
ら20日以内に行うこととされていました。そのため、株式買取請求権を行使
するまで最大でも20日しかなかったのです。
しかし、今の会社法では、株式買取請求権は、合併などの効力が発生する
日の20日前から効力発生日の前日までに行うと改正され(会社法785条5項
)、しかも、効力発生日は、会社が任意に設定することができるようになってい
ます。 そのため、承認決議日から株式買取請求権を行使できるまでに相当
の期間が設けられることになっています。実際、本件でも、株式買取請求権の
行使期間は、承認決議後86日から105日目まででした。
それにもかかわらず、基準日を承認決議日とすると、上場株式の場合、株主
は、取り敢えず決議に反対した上で、株価が上昇している場合には株式買取
請求権を行使せずに市場で売り抜け、また、下落している場合には、下落した
市場価格で売るのではなく、株式買取請求権を行使して承認決議日の価格で
の買取りを選択できることとなり、決議に反対しなかった株主との間で不平等を
生じ、また、株主が「とりあえず決議には反対しておこう」という傾向を強める恐
れがあるため、最高裁は、旧商法時代と異なり、この説を採用しませんでした。
?)「株式買取請求期間の満了日」と、?)合併・会社分割等の効力発生日に
ついては、いずれも反対株主が買取り請求をした日より後の日を、基準日とす
るものです。
しかし、満了日であれ、効力発生日であれ、反対株主が株式買取請求をした
日より後に到来するものです。
この考え方に対しては、反対株主としては、将来の価格として予想するしかな
い「公正な価格」で買取られることを想定して、株式買取請求権を行使する意思
はないのではないとの批判があり、最高裁はこの説を採用しませんでした。
こうして、「公正な価格」については、株式買取請求をした日におけるナカリセ
バ価格を算定することになりますが、その算定については、裁判所の合理的な
裁量に委ねられています(最高裁昭和48年3月1日決定)。
その裁量的な算定にあたっては、上場会社の場合、まず市場価格が算定の
基礎資料となります。
ただし、反対株主が株式買取請求をした日における市場価格は、通常、合併
や会社分割がされることが織り込み済みですから、同日の市場価格が直ちに
ナカリセバ価格と見ることはできません。
ナカリセバ価格を算定するに当たっては、株式買取請求をした日における市
場価格から合併や会社分割による影響を排除する必要があります。
そのために、裁判所は、合併や会社分割が公表される前の株価を参照した
り、一定期間の株価の平均値を参照したり、その合理的な裁量により、ナカリ
セバ価格を算定することになります。
要するに、株式買取請求に係る「公正な価格」については、反対株主が株式
買取請求をした日を基準に、裁判所がその合理的な裁量により算定するナカ
リセバ価格ということになります。
6月に開催される多くの株主総会でも、合併や会社分割の議題が上がってい
る場合には、この株式買取請求の案内も同時になされているはずですので、間
もなく送られてくる招集通知に注意してみてください。
(佐川明生)
参考: 最高裁平成23年4月19日決定
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20110421110211.pdf
最高裁昭和48年3月1日決定
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120505056733.pdf
会社法785条、786条