先日、東日本大震災の際の東京ディズニーランドの「ゲスト」への対応
を特集した番組を見ました。企業哲学がきちんと従業員やアルバイトに
徹底、浸透していると、想定外の状況下において、マニュアルがなくても、
その哲学に則り、それぞれが判断し、自ら動けるのだと感心しました。
今回は、名目取締役への該当性について判断した裁判例と、所管庁
が消費者庁に移管した景品表示法の最近の運用動向について紹介し
ます。
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ントさせて頂きます。みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。
1 裁判例紹介―東京高裁平成22年8月25日判決
いわゆる名目的取締役への該当性について判断した裁判例を紹介しま
す。
2 景品表示法の運用動向
景品表示法の所管が消費者庁となって約1年半が経過しました。最近
の運用動向をご紹介します。
1 裁判例紹介―東京高裁平成22年8月25日判決
本件は、フランチャイザーとしてチーズケーキ店を営んでいたA社がフ
ランチャイジーである原告2社に対して、正確な情報を提供せずにフラン
チャイズ事業の加盟店契約を締結させ、2社とも契約締結後1年程度で
閉店に追い込まれた事案について、A社の債務不履行責任及びA社代
表取締役の旧商法266条の3第1項(現会社法429条1項)責任を認め
た上で、さらにA社の他の取締役が同条項の責任を負うかが争点となっ
た事案です。
被告となった取締役Y1は、自分は、A社代表取締役の親戚としてA社
の役員に名を連ねているだけで、取締役会にも1回出席しただけである
し、無報酬で、A社の経営に一切関与しておらず、名目的取締役である
から、代表取締役の業務執行に対する監視義務を負わない旨の主張を
しました。
これに対し、裁判所は、Y1がかつてビルメンテナンス・建設工事業を営
む会社を経営していた等の経営者及び実務者としての経歴を有している
こと、A社の事業の一つである建設業においては仕事の紹介等の協力を
していること、Y1が会社を経営していたときにはA社代表取締役を従業員
として雇用しており、両者の関係が単なる親戚という以上に親しく近い関係
にあること、A社はセントレックスに上場することを目指し、証券会社の指導
を受けていたこと、Y1は無償でストックオプションを付与されていたこと等か
らすれば、全く無報酬であるとも言えず、A社の業務に欠かせない役割を有
し、上場を目指す企業の取締役としての行動を求められていたとして、単な
る員数合わせの名目的取締役ではないと判示しました。その結果、Y1は取
締役としての監視義務を重大な過失により怠ったとして、原告らのY1への損
害賠償請求を認めました。
本件裁判例は、そもそも名目的取締役に該当するかどうかについて判断
したものですが、名目的取締役の責任については、監視義務違反を認める
判例(最判昭和55年3月18日等)もある一方で、重過失による任務懈怠が
あるとはいえないとする裁判例(東京地判平成3年2月27日等)も散見され
るところです。現行の会社法下においては、必ずしも3人以上の取締役を
必要とはしていないこともあり、今後、名目的取締役の該当性及び責任に
ついて厳格に判断されることも予想されます。安易に名目的取締役を引き
受けると思わぬリスクが伴うことを承知するべきです。
(鈴木俊)
参考: 最高裁昭和55年3月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319131236295819.pdf
旧商法266条の3第1項、会社法429条1項
2 景品表示法の運用動向
消費者庁が発足し、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)が
消費者庁の所管となって約1年半が経過しました。
情報提供件数は、公正取引委員会が所管だった平成20年には年間
約2000件であったものが、消費者庁移管後の平成22年は、上半期だ
けでも1900件を超え、急激に増加しています。
一方、人員不足等の影響で措置命令件数は減少傾向にありますが、
消費者庁移管後から平成23年3月末までに出された措置命令対象事
案のうちの過半数がインターネット上の広告表示(不当表示)に関する
ものでした。クーポン共同購入ウェブサイト「グルーポン」に対する措置
命令は記憶に新しいと思います。
これは、消費者庁が、平成23年2月22日、株式会社外食文化研究所
がグルーポン・ジャパン株式会社の運営するクーポン共同購入ウェブサ
イト「グルーポン」を通じて供給していた加工食品(おせち料理)の取引に
ついて、景品表示法4条1項により禁止されている「優良誤認」及び「有利
誤認」に該当する表示を行っていた事実が認められたとして、外食文化研
究所に対し、措置命令を行ったというものです。「バードカフェ謹製おせち」
と称する加工食品(本件商品)のメニュー内容として33品のメニューが記
載されていましたが、記載とは異なる食材が用いられていたり、そもそも入
れられていない食材もあったことが指摘されています。また、通常価格
21,000円、割引額10,500円とされていましたが、21,000円という
価格は架空のものでした。
この外食文化研究所に対する排除命令と同時に、消費者庁は、グルー
ポン・ジャパンに対し、「グルーポン」に商品や役務を掲載する際には、当
該商品又は役務の「グルーポン」以外における販売の有無を確認し、販売
されていない場合には、二重価格表示で景品表示法違反とならないよう必
要な措置を講じるよう要請するとの表示対策課長名文書を発しています。
インターネットの普及に伴い、インターネットを利用して商品の情報を収
集する人も多くなりましたが、インターネット上の表示については、消費者
がキーワード検索に用いるものと予想される単語を表示に加えることによ
って、チラシ等の広告媒体よりも効果的に消費者を誘引することが可能で
あり、今後もインターネット上の不当表示には厳しい目が向けられると思わ
れます。販売業者はもちろん、電子モールなどのサイト運営事業者も、イ
ンターネット上の表示が景品表示法違反とならないよう、十分注意が必要
です。
なお、景品表示法の運営を更に充実させるべく、消費者庁の大幅な増員
や、現在は指示(行政指導)のみ行うことが許されている都道府県に対して
措置命令を行う権限を与えることが検討されているとともに、不当表示に対
する課徴金制度の導入も進められています。
(佐藤未央)
参考:不当景品類及び不当表示防止法4条1項
景品表示法に基づく法的措置件数の推移及び措置事件の概要の公表
について(消費者庁)
http://www.caa.go.jp/representation/pdf/110401premiums_1.pdf