自動車業界が、今夏の電力不足への対応として、平日の代わりに土日に操業すると早々に発表しました。規模の大きい業界の一つがこのような決定をすることで、他の業界に良い影響を与えそうですね。
今回は、コンピュータプログラムについて、著作物性が認められないと判断した裁判例と、会社の懲戒処分が無効であると判断した裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介―知財高裁平成23年2月28日判決
インターネット上で占いサービスを提供するコンピュータプログラムについて、アイデア自体に独創的な部分があるとしても、プログラムの表現において作成者の個性が発揮されたものとはいえないとして、著作物性を否定した裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介―東京地裁平成22年7月23日決定
労働者が行った行為が懲戒事由に該当しないとして懲戒処分は無効であると判断した裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介―知財高裁平成23年2月28日判決
本件は、原告会社が開発したインターネット上で占いサービスを提供するコンピュータプログラム(以下「本件プログラム」とします)を、被告会社が契約期間満了後も無断で利用したため、原告会社が、本件プログラムの著作権侵害を理由に被告会社に対して損害賠償を請求した事案です。
著作権法は、「プログラム」を著作物として例示していますが(著作権法10条1項9号)、そもそも「著作物」といえるためには、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」でなければなりません(著作権法2条1項1号)。そこで、本件では、原告会社が開発した本件プログラムが「思想又は感情を創作的に表現したもの」といえるのか否かが争点となりました。
判決は、「プログラムにおいて、コンピュータにどのような処理をさせ、どのような指令(又はその組合せ)の方法を採用するかなどの工夫それ自体は、アイデアであり、著作権法における保護の対象とならない。また、思想又は感情を『創作的に』表現したというためには、当該表現が、厳密な意味で独創性のあることを要しないが、作成者の何らかの個性が発揮されたものである事が必要である。・・・もっとも、プログラムは・・・表現する記号や言語体系に制約があり、かつ、コンピュータを経済的、効率的に機能させようとすると・・・プログラムにおける具体的記述が相互に類似せざるを得ず、作成者の個性を発揮する選択の幅が制約される場合があり得る。プログラムの具体的表現がこのような記述からなる場合は、作成者の個性が発揮されていない、ありふれた表現として、創作性が否定される。」との基準を示しました。
その上で、原告会社の開発した本件プログラムは、生年月日から星座や九星、守護星等を求めるものであるところ、生年月日を受け取り一定の計算や処理ないし特定の関数を用いて星座や九星、守護星等を求めることはアイデアにすぎないとし、他方で表現物としての本件プログラムは上記アイデアを実現するための関数を短く機能的に記述したものにすぎないなどとして、その創作性を否定しました。
本件は、生年月日を受け取って星座や九星、守護星を表示するという単純なプログラムであったため、創作性が否定されてしまいました。このような事例はレアケースかもしれませんが、コンピュータプログラム開発者の立場からは、万一創作性が否定された場合に備えて、利用許諾時にコンピュータプログラムの利用許諾期間を定めるとともに、「利用許諾期間満了後は本プログラムを返還又は削除しなければならない」という条項や「利用許諾期間満了後3年間は、本プログラムを参考にした類似プログラムを作成、利用してはならない」といった条項を盛り込むことを検討すべきでしょう。
(鈴木理晶)
参考: 著作権法10条1項9号、2条1項1号
2 裁判例紹介―東京地裁平成22年7月23日決定
本件は、Y社の人事部長であったXが、担当した社内旅行に関して本来Y社が負担すべきでない個人的な費用(妻同伴の下見旅行費用約2万3000円)を総旅行代金に計上して、社内旅行費用に関する稟議書を提出したこと等を理由に懲戒解雇されたことに対して、労働契約上の地位確認および賃金仮払いの仮処分を申し立てた事案です。
Y社には、就業規則に、服務心得規定(自己の業務上の権限を越えて専断的なことを行わないこと。)及び懲戒解雇規定(服務心得規定に違反した場合であって、その事案が重篤なときに懲戒解雇に処する)がありました。
裁判所は、懲戒処分の有効要件として、?懲戒処分の根拠規定があること、?懲戒事由への該当性、?相当性の3つを挙げたうえで、Y社に懲戒処分の根拠規定があることは認定しましたが、Xの行為はひそかに策略をめぐらしたものでもなく、下見費用はY社にとって僅少で、Xは後日全額を支払っていることからすると、著しく悪質とはいえないため、懲戒事由(本件では懲戒解雇事由)に該当しないから無効であるとして、1年間分の賃金仮払いを認めました(地位確認については、賃金仮払いが認められた以上、必要性がないとして却下)。
使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別および事由を定めておくことが必要であり(最判平成15年10月10日労判861号5頁)、本件裁判例もこれを当然の前提にしています。いざというときに懲戒処分をすることができるように、就業規則にしっかりと懲戒処分の種類、懲戒事由を規定しておく必要があります。
(田辺敏晃)
参考:最高裁平成15年10月10日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/09480B279A91604A492570DE00063F19.pdf