東京では先週桜が満開になりました。
今回は、大震災によって株主総会が延期される場合の取り扱いと、証
券会社の勧誘に基づき購入した株式により生じた損害の責任をその証
券会社に負わせることができるかを判断した裁判例を紹介します。
なお、先週、古田弁護士が福島仙台を訪れたときのレポートをブログ
に掲載しておりますので、こちらもご覧下さい。
記事に関する御意見やご質問がありましたら、「コメント」
欄 にご記入下さい。当事務所の弁護士がコメ
ントさせて頂きます。みなさんのご意見・ご質問をお待ちしています。
1 今回の大震災によって株主総会が延期される場合の取扱について
大震災の影響で計算書類を作成できない等の理由により、通例どおり
に株主総会を行うことができない場合の会社法上の問題について説明
します。
2 裁判例紹介―大阪高裁平成22年7月13日判決
証券会社の勧誘に基づき購入した株式により生じた損害の責任を、そ
の証券会社に負わせることができるかについての第一審(2009年11月
のニュースレターvol.58で紹介した裁判例(大阪地裁平成21年3月4日
判決))が覆った控訴審判決についてご紹介いたします。
1 今回の大震災によって株主総会が延期される場合の取扱について
会社の業績に対する大震災の影響を算定できないために計算書類を
作成できない等の理由により、通例どおりに株主総会を行うことができ
ない場合の会社法上の問題について説明します。この点については、
法務省が「東日本大震災への対応について」としてWEB上で見解を示
しています。
会社法296条1項は、事業年度の終了後3ヶ月以内に定時株主総会を
招集しなければならないとされているわけではありませんが、定款に「当
社の定時株主総会は、毎年6月に開催する。」となっているとき、6月に
開催しないと定款違反になるかが問題となります。
定款の合理的な解釈としては、大災害の場合を前提としていないという
べきなので、定款違反と評価されないというべきです。同様に、会社の
定款に「株主総会は、本店所在地又はその隣接地において招集する。」
と開催場所の指定がある場合も、必要に応じてこれら以外の場所でも
開催できるというべきです。
次に、延期された株主総会で議決権行使できる株主は誰かが問題とな
ります。
会社法124条2項により、基準日株主が権利行使できるのは、基準日
から3ヶ月以内に行使するべき権利に限られるので、総会がこれを超え
て延期されるときは、新たに基準日を設定して権利行使できる株主を決
めることになります。
また同様に、剰余金の配当は、基準日から3ヶ月以内の日を効力発生
日として決議を行う必要がありますので、新たに基準日を設定する必要
があります(会社法454条1項)。
更に、定款に「当社の定時株主総会は、毎年6月に開催する。」となっ
ているとき、同総会において任期が満了するべき役員の任期はいつ終
了するかですが、役員選任決議の合理的な意思解釈によれば、大震災
のようなコントロール不能の理由によって定時総会が延期された場合
には、延期された株主総会まで任期は満了しないというべきです。
(古田利雄)
参考:法務省「定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて」
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/saigai0012.html法務省「定時株主総会の開催時期について」
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/saigai0011.html
2 裁判例紹介―大阪高裁平成22年7月13日判決
本件事案はニュースレターvol.58
にも記載しましたとおり、原告が、被告旧日興コーディアル証券株式会社
からの勧誘により、NTT株等の東証一部上場株式を購入したところ、約
1360万円の損失を出したため、損害賠償請求訴訟を提起したという事
案で、第一審判決は、障害を有する無職の年金生活者である原告の金
融資産の約64%が投入されているなどの諸事情を勘案して、原告は自
主的な判断に基づいて取引を行うだけの知識や理解力を有していたとは
認められず、購入株数が過大であることを指摘して再考を促す等をしな
かったことについて適合性原則違反があると判示し、7割の過失相殺を
しつつも、一部認容(約438万円)判決を出しました。
ところが、高裁は第一審の判断を覆し、原告の請求を全部棄却しました。
本判決によれば、「証券会社の担当者が、顧客の意向と実情に反して、
明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど、適合性の原
則から著しく逸脱した証券取引の勧誘をしてこれを行わせたときは、当
該行為は不法行為法上も違法となる」とした最高裁平成17年7月14日
判決を引用した上で、株式の現物取引自体はリスクが過大であるとは
いえないこと、原告が自ら進んでNTT株25株を購入する旨を被告担当
者に伝えたこと、従業員持株制度により保有していた元勤務先の株につ
いて値上がりしたことを見計らって売却していること、NTT株の株価を毎
日確認し、それをカレンダーに書き留めていたことなどからすると、原告
の視力障害は事理の判断をするについてほとんど支障になっていない
し、原告には値上げ利益を追求する意図があったとみてとれ、NTT株の
購入は自己の自由な意思に基づく判断で購入したものというべきであっ
て、「明らかに過大な危険を伴う取引」とは認め難いということです。
第一審判決は、原告が視力障害を有する無職の年金生活者であること
や金融資産の大部分を安易に投資しているといった特殊事情を重視した
ものといえますが、本件事案は、NTT株という東証一部上場株式の現物
取引という取引形態であり、その取引の仕組みやリスクが分かりやすい
ことに鑑みれば、一般的には適合性原則違反が非常に認められにくい
事案です。本件は上告されていますので、今後も注視していきたいと思
います。
(鈴木俊)
参考: 最高裁平成17年7月14日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319120745861379.pdf