ゴールデンウィークを前に、初夏の日差しになってきましたね。
今回は、採用内々定の取消が契約締結過程における信義則違反に該当するとした裁判例と、事業場外での労働時間の取扱いについて判断した裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介―福岡地裁平成22年6月2日判決
採用内々定取消が契約締結過程における信義則違反に該当するとした裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介−東京地裁平成22年5月11日判決
事業場外で業務に従事するツアー旅行の添乗員に関して、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなすと規定している労働基準法38条の2第1項について、社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握・算定することが可能である場合には、事業場外労働でも同法の適用がないと判示した裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介―福岡地裁平成22年6月2日判決
被告Y社から採用内々定を得ていた原告Xが、採用内定通知書交付の数日前にYから内々定の取消しを受けたことにつき、(1)すでに成立した始期付解約権留保付労働契約の違法解雇である、(2)それが認められないとしても、期待権侵害ないし信義則違反であると主張して、損害賠償請求(賃金相当の逸失利益、慰謝料、弁護士費用等)をした事案です。
裁判所は、(1)の主張については、本件内々定後にXY間で具体的労働条件の提示・確認が行われていないこと等を理由に、本件内々定は正式な内定とは明らかに異なるとして、原告の主張を認めませんでしたが、(2)の主張については、採用内定通知書交付の日程が定まり、そのわずか数日前に至った段階では、労働契約が確実に締結されるであろうとのXの期待は法的保護に十分に値する程度に高まっていたとし、YはXに対して本件内々定取消しの具体的理由の説明を行なわなかったことは誠実な対応とは言い難いし、本件内々定を取り消す具体的理由・必要性は明らかでない等と述べ、本件内々定取消しは契約締結過程における信義則に反し、期待権を侵害する不法行為であるとして、Yの損害賠償義務を認めました。ただし、損害賠償の範囲は信頼利益に限られるとして、賃金相当の逸失利益を損害として認めず、慰謝料100万円と弁護士費用10万円の損害と認定しました。
(田辺敏晃)
参考: 福岡地裁平成22年6月2日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100611161824.pdf
2 裁判例紹介−東京地裁平成22年5月11日判決
本件は、ツアー旅行の派遣添乗員であるXが、Y社に対し、時間外割増賃金等を規定した労働基準法37条に基づき、未払時間外割増賃金(残業代)等の支払を求めた事案です。
Xの請求に対してY社は、派遣添乗員の業務は、事業場外で行われるものであり、Y社の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であるといえ、「労働時間を算定し難いとき」に該当し、労働基準法38条の2第1項の適用を受け、Xは所定労働時間を働いたものとみなされ、時間外割増賃金は発生しないと主張しました。
裁判所は、「労働基準法38条の2第1項でみなし労働時間制を定めた趣旨は、事業場外で業務に従事した場合に労働時間を算定し難いときは使用者の具体的な指揮監督が及んでいないから、みなし制をとることで、例外的に使用者の労働時間算定義務を免除したところにある」として、「社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握・算定することが可能である場合には、事業場外労働でも労働基準法38条の2第1項の適用はない」という規範を示しました。
そして、裁判所は、本件において、Y社は派遣添乗員に対して国内添乗業務マニュアルを交付して業務につき詳細に説明・指示していること、派遣添乗員が提出する添乗報告書ないし添乗日報には、行程記入欄に着時刻、発時刻を分単位で記入することが求められていること、派遣先旅行会社は全添乗員にツアー毎に携帯電話を貸与し随時電源を入れておくよう指示していること等の事実を認定し、Y社が派遣添乗員の労働時間を把握することは社会通念上可能であるとして、Xの添乗業務についても「労働時間を算定し難い」とはいえず、労働基準法38条の2第1項は適用されないと判示して、Xの請求を認めました。
最近は、通信機器やソフトウエアの発達によって、従業員の活動状況を把握することが容易になってきています。したがって、例え事業場外においても、会社が従業員の労働時間を把握できないというような状況は少なくなっているといえます。
(平井佑治)
参考: 労働基準法37条、同38条の2第1項