アカデミー賞の発表があり、「英国王のスピーチ」が作品賞を獲得しました。個人的には主演女優賞を受賞したナタリーポートマンの「ブラックスワン」が気になりました。
今回は、取締役会の招集手続が問題とされた裁判例と、従業員の自殺と業務との間の因果関係を認め、労働基準監督署長が行った労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の不支給処分を取消した裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介―東京地裁平成23年1月7日判決
取締役が代表取締役に取締役会の招集を求めたものの、代表取締役が結局はこれに応じなかったため、代表取締役以外の取締役で取締役会を開催し、代表取締役を解職したケースで、この取締役会決議が有効とされた裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介―東京地裁平成22年3月11日判決
業務に起因してうつ病が発病し、うつ病を原因として自殺したとして、業務と自殺の間の因果関係を認め、労働基準監督署長が行った労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の不支給処分の取消しを認めた裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介―東京地裁平成23年1月7日判決
Y会社では、平成20年11月、以下の経緯で取締役会決議がなされました。
同14日 取締役Aは、元社長Xに対し、取締役会を招集するように請求しました。
同17日 元社長Xは、20日を開催日として取締役会を招集しました。
同19日 元社長Xは、翻意し、取締役会の開催を中止すると通知しました。
同20日 取締役Aは、元社長Xに招集通知をしないまま、取締役会を開催し、元社長Xを解職する決議を行いました。
会社法は、取締役から取締役会の招集を求められた招集権者が、請求があった日から5日以内に取締役会の招集通知を発しないときは、招集を請求した取締役は取締役会を招集することができると定めています(法366条3項)。
本件では、元社長Xは取締役会を一旦招集しているのですが、その後開催を中止しているので、裁判所は、「請求があった日から5日以内に、取締役会の招集通知を発しない」に当たると判断し、招集を請求した取締役は招集の権限を取得していたと判断しました。
また、取締役Aが、元社長Xに招集通知をしないまま、取締役会を開催した点については、招集手続に法令違反があるとしつつ、解職対象者であるXは、特別利害関係取締役(法369条2項)に該当し、Xが出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるとして、この手続の瑕疵は決議の有効性に影響を与えないとしました。
最後の論点について、このように考えると、解職予定の代表取締役には黙って取締役会を開催でき、代表取締役は知らないうちに代表権を剥奪されることになって不当ではないかとも思われます。控訴審での判断が注目されます。
(古田利雄)古田利雄のなるほど
参考:会社法366条3項、369条2項
2 裁判例紹介―東京地裁平成22年3月11日判決
本件は、日本電気株式会社においてソフトウェア開発の業務に従事していた管理職の労働者Aが、うつ病を発症し、平成12年2月に自殺したことにつき、遺族である妻が、労働基準監督署長に対して、労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支払請求をしましたが、不支給処分がなされたため、その取消しを求めた事案です。
裁判所は、次のように心理的負荷を与える業務上の出来事及び労働時間の長さの程度を勘案して、業務と自殺の間の因果関係を認めました。
まず、Aが心理的負荷を受けた業務上の出来事について、会社が平成11年3月期に多額の赤字を計上して経営危機に陥り、会社再建のため、コア事業といえども収益化の道程が明確でないものは売却整理するという厳しい経営方針を取っていたこと、Aが責任者として開発段階から関与していたWebAPS製品の市場は急速な拡大が見込まれていたが、同製品は平成11年度の売上げ目標を達成できず、シェアを拡大できなかったこと、Aと一緒に同製品の事業を進めていた中枢的な従業員が他部署に異動になってしまったこと、会社は他社WebAPS製品も取り扱うことになったこと等の事情をあげて、Aに対する心理的負荷を与えるに十分な事情があるとしました。
次に、労働時間については、Aが、自殺前8カ月間のうち6か月間は1か月100時間を超える時間外労働を、残りの2か月間も約90時間の時間外労働をし、睡眠時間は4〜4.5時間程度だったことから、業務上の出来事についての心理的負荷の強度の総合評価を強とするに足りる極度の長時間労働を行なっていたと認定しました。
そして、Aの業務による心理的負荷は、社会通念上、客観的に見て、精神障害を発症させる程度に過重であり、Aの自殺は、うつ病発病から間もなく起きたものであるから、Aの業務と、Aのうつ病及び自殺との相当因果関係があるとして、本件不支給処分を取り消しました。
(田辺敏晃)田辺敏晃のなるほど