NTTドコモが、通話者が会話するのと同時に通訳をするサービスを今年中に開始するとのニュースが日経新聞に出ていました。フェイストゥフェイスのコミュニケーションでも携帯を使って話す人が増えるかもしれませんね。
今回は、平成22年6月株主総会における買収防衛策の分析と、株主総会決議により株主の地位を奪われた株主に株主総会決議取消訴訟の原告適格が認められた裁判例を紹介します。
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1 平成22年6月株主総会における買収防衛策の分析
昨年6月の株主総会において新規に導入または継続した買収防衛策の分析を紹介します。
2 裁判例紹介―東京高裁平成22年7月7日判決
株主総会決議によって株主たる地位を奪われた者が当該株主総会決議取消訴訟の原告適格を有するかどうかについての裁判例を紹介します。
1 平成22年6月株主総会における買収防衛策の分析
会社法の施行にともなう外資からの買収攻勢に備え、買収防衛策の導入は一時盛り上がりましたが、機関投資家に不評であることなどから平成21年以降、新たにこれを導入した上場企業は7社に止まっています。
昨年の6月株主総会において、新規に導入または継続した149社の主な買収防衛策のデザインについて、三菱UFJ信託銀行がまとめたものが別冊商事法務に掲載されています。どの企業もおおむね横並びであり、実務的にはかなり収斂されてきた印象です。最大公約数的なモデルは以下のようになっています。
議題は、「事前警告型買収防衛策の継続(導入)の件」とされているものが最多です。
1 買収防衛策の有効期限 3年
2 対象となる買収者 議決権割合で20%以上となる株式買付を行う者
3 取締役の意見の検討手続
・ 対価を現金のみとする公開買付につき60日間、その他は90日間とする。
・ 取締役会か独立委員会が主導的な役割を担う。
4 対抗措置発動の手続
・ 独立委員会の勧告を尊重して取締役会が決定する。
一定の場合に株主総会で意思確認を行う。
5 対抗措置の発動条件
・ 判例の認めるグリーンメーラー等の4類型
・ 強圧的二段階買収
・ ステークホルダーの価値を毀損する買付等
6 対抗措置の内容 新株予約権の無償割当等
(古田利雄)
参考:資料版/商事法務No.322(2011年1月号)
2 裁判例紹介―東京高裁平成22年7月7日判決
A社は、定款変更によりその普通株式を全部取得条項付種類株式へ転換し、かつ、旧普通株式を強制取得した上で、原告らに対して交付する対価を新株1株未満となるように株主総会で決議しました。この結果、原告らはA社の株主ではなくなったのですが、原告らがこの決議は著しく不当な決議(会社法831条1項3号)であるとして、当該株主総会決議の取消しを求めたものです。
会社法831条1項後段は、取締役会決議によって取締役の地位を奪われた者についても、株主総会決議取消訴訟の原告適格(株主総会決議訴訟を訴える資格)を有する旨を明文化していますが、株主総会決議によって株主の地位を奪われた者が株主総会決議取消訴訟の原告適格を有するかどうかについての規定は存在しません。
そこで、そもそも、株主総会決議によって株主でなくなった原告らが原告適格を有するかどうかが問題となりました。
第1審は、株主総会決議取消訴訟において原告適格を有するためには口頭弁論終結時において当該会社の株主であることが必要であるとして、原告らの原告適格を否定しました(東京地判平成21年10月23日)。
これに対して、第2審は、株主総会決議によって株主の地位を奪われた者が株主総会決議取消訴訟の原告適格を有することについて明文を欠くのは、商法旧規定の時代には株主総会決議によって株主の地位を強制的に奪われるという局面がほとんどなかったために明文化が見送られたに過ぎないこと、株主総会決議により株主の地位を奪われた株主が当該決議の取消訴訟の原告適格を有しないという解釈は、当該株主の権利保障に乏しく、条理上もあり得ないこと、株主総会決議が取り消されれば株主の地位を回復する可能性を有していることなどから、株主総会決議により株主の地位を奪われた株主は、当該決議の取消訴訟の原告適格を有すると判示しました。
実務において、少数株主を締め出す(スクイーズ・アウト)ためのスキームとして、全部取得条項付種類株式は比較的よく利用されています。今後、締め出された少数株主が当該決議の取消しを求める訴えを提起する事態は増えてくるものと思われます。本件はこの第2審で確定しましたので、裁判例の乏しい事案での重要な先例としてご紹介いたしました。
(鈴木俊)鈴木俊のなるほど
参考:会社法831条1項後段、同項3号