寒い日が続いています。昨年の暑かった夏の気温をこの冬に回せたらと思わずにはいられません。
今回は、株式譲渡制限会社における新株の募集事項について、株主総会の特別決議を欠いたことが新株発行の無効事由に該るとした裁判例と、譲渡担保設定者の営業継続を前提とした集合物譲渡担保契約において、譲渡担保の目的物の滅失により譲渡担保権設定者が取得する共済金請求権に対して、譲渡担保権の効力が及ぶ(物上代位)とした裁判例を紹介します。
また、クレア法律事務所では、1月14日に講演「印度とビジネスをしよう」開催しましたので紹介します。
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1 裁判例紹介−横浜地裁平成21年10月16日判決
株式譲渡制限会社における新株の募集事項の決定は株主総会の特別決議によることとされていますが、その特別決議を欠いた新株発行が新株発行の無効事由に該るとした裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介―最高裁平成22年12月2日決定
集合物譲渡担保契約において、譲渡担保設定者の営業継続を前提としていたとしても、譲渡担保の目的物滅失を原因として、譲渡担保権設定者が取得することになる共済金請求権に対して、譲渡担保権の効力が及ぶ(物上代位)とした裁判例を紹介します。
3 講演「印度とビジネスをしよう」
クレア法律事務所では、1月14日に講演「印度とビジネスをしよう」を開催しました。
1 裁判例紹介−横浜地裁平成21年10月16日判決
会社法は、株式譲渡制限会社が新株を発行する際には、株主総会の特別決議を必要としていますが(会社法199条2項・309条2項5号)、本件では、株式譲渡制限会社(被告)が、同社の代表取締役Aを引受人とする新株発行について、株主総会の特別決議を経ることなく行ったことから、株主である原告がこの新株発行の無効を求めた事案です。
この点について、裁判所は、株式譲渡制限会社においては、発行された新株が転々流通する頻度は必ずしも高くないと思われること、株式譲渡制限会社において新株を発行する場合には、公開会社とは異なり、株主に対して新株の募集要項の通知・公告が要求されておらず、株主総会以外に株主が新株発行をやめることを請求する機会が十分に保障されていないことなどから、既存株主の保護を図るべく、株主総会の特別決議を経ずに新株が発行された場合には、特段の事情がない限り、新株発行の無効事由に該当すると判断しました。
資金調達の手段である新株発行がなされ、それに基づく営業が開始された後に、その新株発行が無効とされた場合には、株式譲受人のみならず取引先や債権者にも大きな影響を与えかねないことから、これまで、判例および通説は、新株発行の無効原因については限定的に解すべきだという立場をとってきました。
株式譲渡制限会社においては、新株発行無効の訴えの出訴期間が新株発行の効力が生じた日から1年以内とされ、公開会社の場合(6か月以内)よりも伸張されています(会社法828条1項2号)。これは、株式譲渡制限会社の既存株主は、株主総会以外の場において新株発行の事実を知る機会に乏しいことから、既存株主をより保護するために伸張したとされています。
このように、会社法は株式譲渡制限会社と公開会社を区別し、株式譲渡制限会社について、既存株主をより保護する制度を採用していることから、上記のように新株発行の無効原因については限定的に解すべきという立場に立つとしても、株式譲渡制限会社において株主総会の特別決議がない場合には、原則として新株発行は無効と解すべきだと考えられてきました。
本件裁判例は、そのような考え方を採用した裁判例として今後の参考になるものと思われます(鈴木俊)。
参考:会社法199条2項・309条2項5号、828条1項2号
2 裁判例紹介―最高裁平成22年12月2日決定
譲渡担保とは、債権の回収を確実にするために、自己(譲渡担保設定者)が所有する物品(目的物)の所有権等を債権者(譲渡担保権利者)に形式的に譲渡することをいいます。
そして、倉庫内の製品全部を譲渡担保として提供する場合のように、一定範囲内にある動産の集まりを一括して譲渡担保の対象にするものを、集合物譲渡担保と呼んでいます。
養殖業者Xは、Yとの間で、YのXに対する貸金債権を担保するため、その事業に係る養殖施設及びその内部の養殖魚を目的として集合物譲渡担保権設定契約を締結しました。また、その際、XとYは、Xが本件養殖施設内の養殖魚を通常の営業方法で販売できること、その場合、これと同価値以上の養殖魚を補充することを合意しました。
その後、赤潮の影響により、本件養殖施設内の養殖魚が多数死滅したため、Xは、Z共済組合に対する漁業共済金請求権(損害保険金)を取得しましたが、資金不足などの理由から養殖業を廃止するに至りました。
そこでYは、貸金の残債権を回収するため、本件集合譲渡担保権に基づき、裁判所に、本件共済金請求権(損害保険金)の差押の申立てをし(譲渡担保権に基づく物上代位)、裁判所はかかるYの申立を認めました。
本件においてXとYは、Xが養殖業者として営業を継続していくことを前提に、Xが本件養殖施設内の養殖魚を通常の営業方法で販売できることを合意しています。
それにもかかわらず、譲渡担保の目的物である養殖魚が死滅したことで、Yによる物上代位が認められると、Xが保険金を使って営業の継続を図ることができなくなってしまいます。そのため、本件のような譲渡担保設定者の営業継続を前提とする集合譲渡担保権の場合には、そもそも物上代位が認められるか問題となります。
最高裁は、まず、集合物譲渡担保権が目的動産の価値を担保として把握するものであるから、その効力も、目的動産の滅失により譲渡担保権設定者に支払われる損害保険金に係る請求権に及ぶと解するのが相当だとする一方、構成部分の変動する集合動産を目的とする集合物譲渡担保が、譲渡担保権設定者の営業継続を前提としていることを理由に、譲渡担保権設定者が通常の営業を継続している場合、特段の事情がない限り、前記損害保険金請求権に対する物上代位権を行使することが許されない旨判示しました。その上で、最高裁は、本件においては、Xが本件譲渡担保権の目的動産を用いた営業を継続する余地がなかったとして、Yの本件共済金請求権(損害保険金)に対する物上代位権の行使を認めました。
本決定は、集合物譲渡担保権に基づく物上代位の要件について一般論を示した点で、実務上大きな意味を持つと言えるでしょう。また、今後、どのような場合に特段の事情が認められるのか、議論に積み重ねが期待されるところです(佐藤亮)。
参考:最高裁平成22年12月2日決定
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20101206154117.pdf
3 講演「印度とビジネスをしよう」
クレア法律事務所では、1月14日に講演「印度とビジネスをしよう」を開催しました。
その内容をブログに掲載しましたので、是非ご覧ください。
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