あと10日間で2010年が終わってしまう!と時の流れの速さを感じつつ、今回は、株主でない代理人弁護士の株主総会出席の可否を判断した裁判例と、「喜多方ラーメン」という地域団体商標の登録を認めなかった知財高裁の裁判例を紹介します。
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1 裁判例紹介−東京地裁平成22年7月29日判決
ほとんどの株式会社では、定款で、議決権行使を代理する者は株主でなければならないと定めていますが、弁護士が仕事として代理を行うことまで拒めるのかどうかは従前から一つの論点でした。この点について、代理権行使の拒絶が違法でないとした裁判例です。
2 裁判例紹介−知財高裁平成22年11月5日判決
協同組合蔵のまち喜多方老麺会が出願した「喜多方ラーメン」(標準文字)という地域団体商標について、同協同組合の構成員であるラーメン店が、喜多方市内のラーメン店に占める割合はせいぜい6割弱にとどまることなどを理由に、商標登録を認めなかった裁判例です。
1 裁判例紹介−東京地裁平成22年7月29日判決
会社法は、株主は代理人によって議決権を行使できると定めていますが(310条)、大半の株式会社では、株主総会に株主以外の者が参加するのを避けるために、定款で、議決権行使を代理する者は株主でなければならないと定めています。
他方で、弁護士は、弁護士法に基づいて業務として法律行為を代理する資格が認められているので、このような定款があったとしても、弁護士に限って会社は代理人となることを拒めないのではないかについては議論があります。
会社法が、代理人による議決権の行使を認めた趣旨は、株主の議決権行使を容易にすることにあります。株主総会は特定の日に集中しやすいので、複数の会社の株式を保有している場合や、発行会社が遠方であるときは、株主が自ら集会に参加するのが難しいからです。
他方、会社側としては、総会屋のような株主総会をかく乱する者が代理人となることを防ぐ要請もあり、判例は、代理人を定款によって株主に限ることは合理的な制限として許されるとしてきました。
ただ、定款によって代理人資格を制限することが許されるのは、「総会が、株主以外の第三者によってかく乱されることを防止する」ためですから、そのようなおそれがない場合についても、代理人による議決権行使を一切認めないというのは行き過ぎです。そこで、法人株主の従業員が会社を代理して議決権を行使する場合には、その従業員が株主でなくてもよいとされてきました。
株主でない弁護士が代理人になることができるかについては、積極・消極の両方の事例がありました。
積極説に立つ裁判例(神戸地裁尼崎支部平成12年3月28日)は、弁護士等の専門家や株主の6親等内の親族等が代理人として出席することまで禁止すべきでないと述べ、消極説に立つ裁判例(宮崎地裁平成14年4月25日)は、総会をかく乱するおそれのある者かどうかについて実質的な判断をすることは難しく、総会の受付事務を混乱させることなどを根拠としています。
本件では、消極(代理人になれない)と判断されましたが、その理由は、上記とは異なり、本件では株主本人が弁護士とともに総会に来場し、議決権を行使していることをあげています。
この事例では、株主は議決権行使の機会を得ているので、法の趣旨からしても妥当な判断だと思われます。
このようなケースでも弁護士を代理人にすることができるというためには、株主に、総会における議事進行や質疑について、専門家の援助を得る権利があるという考え方を取らなければなりませんが、そこまでは言えないと思われます。
このような場合、株主としては、あらかじめ会社に対して、株主本人が出席することができないので、代理人弁護士何某が代理人として参加することを、身分確認のできる資料を付して通知しておくか、できれば、代理人とする弁護士に基準日前に発行会社の株式を取得させて株主にしておくなどの工夫が必要でしょう(古田)。
参考: 宮崎地裁平成14年4月25日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/DDE2A3F347B72A2349256BB4000180CA.pdf
会社法310条
2 裁判例紹介−知財高裁平成22年11月5日判決
「喜多方ラーメン」のような「地域の名称と商品の名称からなる文字商標」について、従前は「その商品の産地、販売地・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」にすぎないため、原則として商標登録は認められず(商標法3条1項3号)、例外として認められるためは、全国的に相当程度知られるようになる必要がありました(商標法3条2項)。
そのため、全国的に相当程度知られるようになるまでは他人の便乗使用を排除できず、また、図形入りの商標の登録を受けるのみでは他人による文字部分の便乗を有効に排除できないという不都合がありました。
この不都合を解消して、地域の産品等に対する事業者の信用の維持や地域ブランドの保護を図るため、「事業協同組合等がその構成員に使用させる商標であって、その商標が使用をされた結果自己又はその構成員の業務にかかる商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されているとき」は、商標法第3条の規定にかかわらず、「地域の名称と商品の名称からなる文字商標」であっても商標登録を認めることとしたのが「地域団体商標」です(商標法7条の2)。
本件は、喜多方市の協同組合蔵のまち喜多方老麺会が、指定役務を「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」として「喜多方ラーメン」という地域団体商標を出願したところ、特許庁が拒絶査定し、同協同組合の不服審判請求に対しても「本件審判の請求は成り立たない」との審決をしたため、同協同組合が知財高裁に対して、かかる審決の取り消しを求めた事案です。
判決は、協同組合蔵のまち喜多方老麺会の構成員であるラーメン店が、喜多方市内のラーメン店に占める割合はせいぜい6割弱にとどまり、しかも、全国的に知られる有力な喜多方市内のラーメン店が原告に加入していないこと、「喜多方ラーメン」を店名に使用して東京都や岩手県、愛知県等にラーメンチェーン店を展開している事業者が存在し、喜多方市から遠隔する東京都内などの需要者及び取引者においては、「喜多方ラーメン」の表示ないし名称と、指定役務「福島県喜多方市におけるラーメンの提供」との結び付きは相当程度希薄化していることなどを理由に、地域登録商標の登録には全国規模での識別力までは要求されないとしても、「喜多方ラーメン」(標準文字)の商標は、例えば福島県及びその隣接県に及ぶ程度の需要者の間においてでさえも、協同組合蔵のまち喜多方老麺会又はその構成員の業務にかかる役務を表示するものとして、広く認識されているとまでいうことはできないとして、特許庁の審決に誤りがあるとはいえないと判示しました。
地域団体商標の登録を認めるということは、指定商品・役務について、構成員ではない第三者による自由な商標の使用が制限されることを意味します。
地域団体商標を出願できる事業協同組合等は加入しようと思えばいつでも加入できる(正当な理由がないのに加入を拒んだり、加入条件を加重したりしてはなりません、商標法7条の2)ものであるとはいえ、協同組蔵のまち喜多方老麺会の構成員であるラーメン店の喜多方市内のラーメン店に占める割合が6割弱にとどまる本件では、商標登録を認めなかった知財高裁の判断は妥当と思われます(鈴木理晶)。
参考:商標法3条、7条の2