ノーベル賞についてのニュースで、ABO型の血液型を発見した人物(カート・ラントシュタイナー氏)が1930年にノーベル賞を受賞し、発見自体は1900年だと知りました。血液型の歴史が110年と短くて驚きました。
今回は、派遣会社と派遣先の会社との派遣契約の解除が、派遣会社と派遣労働者との派遣労働契約を解約することができる「やむを得ない事由」にあたらないと判断した裁判例と、会社が、その子会社の株式を1株当たり5万円(当時の評価額の4〜5倍程度の額)で買い取った取締役らの判断は著しく不合理なものということはできず、取締役に善管注意義務違反の事実はないと判断した最高裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−広島地判平成21年11月20日判決
派遣先の会社との派遣契約の解除が、派遣会社と派遣労働者間の期間の定めのある派遣労働契約を解約することができる「やむを得ない事由」にあたらないと判断した裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介−最高裁平成22年7月15日判決
会社が、その子会社の株式を1株当たり5万円(当時の評価額の4〜5倍程度の額)で買い取ったことが、取締役としての善管注意義務違反にあたるとして提起された株主代表訴訟において、取締役らの判断は著しく不合理なものということはできず、善管注意義務違反の事実はないと判断した最高裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−広島地判平成21年11月20日判決
原告は、被告(社団法人)に派遣労働者として登録し、平成18年3月以降被告との間で派遣労働契約を締結し、自動車会社のM社に派遣されて通訳等の業務に従事しており、平成19年10月、被告との間で雇用期間を平成19年11月1日から同20年10月31日までとする派遣労働契約(本件労働契約)を締結しました。しかし、M社が被告に対して、被告との間の原告に関する個別派遣契約を平成20年5月31日付で解除したため、被告は原告に対して、同日付で本件労働契約を中途解約するというメール(本件中途解約通知)を送信したという事案です。
原告は、本件中途解約が無効であると主張して、当初の契約期間満了日までの未払賃金を請求しました。
争点はいくつかありますが、派遣契約の解消という事由があれば、期間の定めのある派遣労働契約の解約についてやむを得ない事由があるといえるか、が主たる争点になりました。
裁判所は、「M社から個別契約の解約があったことのみで本件労働契約解消(解雇)のやむを得ない事由と評価することは相当でない」としたうえで、「M社による個別契約の解消が、その事業上の必要等からやむを得ないものであったか否か(すなわち、M社が直接原告との間で労働契約関係にあったと仮定した場合に、原告との労働契約を解消することについて正当な理由と評価できるような事情があったか)によって解約申入れの成否を判断するのが相当である」と判示し、M社による本件に関する個別派遣契約の解約は全社的な経費削減の方針によるものにすぎず、やむを得ない事情によるものとは認められないので、被告の原告に対する本件解約申入れは、やむを得ない事由によるものとはいえず、本件中途解約通知による本件労働契約の終了は認められないとして、被告に対して本件労働契約期間満了までの賃金相当額の支払いを命じました。
派遣契約が終了しただけで直ちに派遣労働契約が解約されてしまうことになれば、派遣労働者の地位が著しく不安定になってしまいます。この点で、上記の結論は当然といえるでしょう。派遣事業を行なう側からすれば、派遣労働契約の終了事由の設定が重要ポイントになるといえます(田辺)。
参考: 労働契約法17条1項(同条についての改正前の労働契約法16条)
2 裁判例紹介−最高裁平成22年7月15日判決
株式会社アパマンショップホールディングス(アパマン)は、同社を持株会社とする事業再編計画を進めていましたが、平成18年5月11日に開催された経営会議において、その子会社であるA社の完全子会社化の一環として実施する同社の株式の買取りについて、買取価格を1株当たり5万円とすることが決定されました。なお、その当時の同社の1株当たりの評価額は約1万円程度でした。
その後、アパマンは上記決定に基づき、平成18年6月9日ころから29日までの間に、同社以外のA社の株主のうち1社を除く株主から、株式3160株を1株当たり5万円で買い取っています。
本件は、アパマンの株主らが、1株当たり5万円という不当に高額な対価でA社の株式を買い取ったアパマンの取締役らの行為が、取締役としての善管注意義務違反にあたるとして、アパマンへの損害賠償を求めた株主代表訴訟です。
第一審(東京地裁平成19年12月4日判決)は、会社が取引相場のない株式を取得するに当たり、取得価格を算定するに当たっては、当該株主から当該価格により株式を取得する必要性、取得する株式数、取得に要する費用からする会社の財務状況への影響等諸般の事情を考慮した経営者としての総合判断が必要となるとし、本件では、買取金額の設定が不適切とまではいえず、取締役らの意思決定過程に不合理・不適切な点があったとはいえないから、善管注意義務違反の事実はないとして、請求を棄却しました。
控訴審(東京高裁平成20年10月29日判決)は、A社を完全子会社にすることについての経営上の必要性ないし有益性の有無、程度についての判断は、経営陣に裁量権が認められているものの、その判断が裁量の範囲内であるというためには、当該買取価格を設定することが買取りを円滑に進めるために必要であったのか等の諸点に関する調査及び検討について、特に不注意な点がないこと等が必要であるとした上で、本件においては取締役らに善管注意義務違反が認められるとして、株主らの請求を認容しました。
これに対し、上告審である最高裁は、事業再編計画の策定は、完全子会社とすることのメリットの評価を含め、将来予測にわたる経営上の専門的判断にゆだねられており、株式取得の方法や価格についても、株式の評価額のほか、取得の必要性、会社の財務上の負担、株式の取得を円滑に進める必要性の程度等も取締役が総合考慮して決定することができ、その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと判示し、本件における取締役らの判断はアパマンの取締役の判断として著しく不合理なものということはできないとして、取締役らの善管注意義務違反を否定しました。
本件は、取締役の経営判断が問題となった事件であり、最終的には最高裁において取締役の善管注意義務違反が否定されていますが、控訴審が示した基準を参考に、当該判断が裁量の範囲内であることを後日証明できるよう調査・検討を尽くし、記録を残しておくことが望ましいでしょう(佐藤)。
参考:最高裁平成22年7月15日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100715143943.pdf
会社法423条1項、同法847条