最近、あるテレビ番組で紹介されたランキングをポップ広告に使用しているお店に行きました。ついついランキング上位のものを手にとっており、ランキング情報が購買行動に与える効果について考えさせられました。
今回は、登録商標を継続して使用しなかった場合、商標の不使用につき「正当な理由」は認められないと判示した裁判例と、従業員の過重労働による死亡について、会社だけではなく取締役の責任が認められた裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−知財高裁平成22年6月2日判決
登録商標を、自社のみで使用できないと判断し継続して使用しなかった場合、商標の不使用につき「正当な理由」は認められないと判示した裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介−京都地裁平成22年5月25日判決
従業員の過重労働による死亡について、会社だけではなく、取締役の責任が認められた裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−知財高裁平成22年6月2日判決
登録商標であっても、商標権者等が登録商標を使用していないことについて正当な理由があることを明らかにしないかぎり、継続して3年以上日本国内において商標権者等が当該登録商標を使用しないときは、誰でも、特許庁に対して商標登録取消審判を求めることができます(商標法50条)。
本件は、平成19年から同22年にかけて「身延久遠水」という点眼薬を販売していたY会社が、昭和63年1月から「久遠水」という商標(以下「本件商標」とします)を有するXに対して、本件商標を使用した事実がないとして特許庁に本件商標の商標登録を取り消す旨の審判を請求し、平成21年12月に特許庁がかかる請求を認容してXの本件商標の取消審決をしたことに対し、Xが知財高裁に対して当該審決の取消しを求めた事案です。
Xは、「医薬品製造販売指針2005」において「既承認品目の販売名と同一の販売名は認められない」とされているところ、Y社の「身延久遠水」という点眼薬がすでに存在するため、本件商標を使用した製造販売は承認されないであろうと予見されたとして、本件商標を使用しないことに、商標法50条に定める「正当な理由」があると主張しました。
これに対して裁判所は、商標法50条に定める「正当な理由」とは、商標権者等の責に帰することができない事由が発生したために、商標権者等が指定商品又は指定役務に使用することができなかった場合をいうものであるとした上で、「Xが、実際に、本件商標を販売名とする医薬品の製造販売を企図しながら、薬事法上の製造販売の承認との関係で、その製造販売やその準備手続を見合わせざるを得なかったとの事実を認めるに足りる証拠はなく、そうである以上・・・前記指針によって承認がされないとの原告の見込みも、要は、原告の憶測にとどまるものであったと言わざるを得ないのであって、そのような憶測を理由に、本件商標の不使用について原告の責に帰すことができない事由があったとまでいうことはできない」として、Xの請求を棄却し、特許庁による本件商標「久遠水」の取消審判に誤りはないとしました。
このように、せっかく登録した商標でも、使用しなければ取り消される場合があるので、注意が必要です(鈴木理晶)。
参考:知財高裁平成22年6月2日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100604141133.pdf
商標法50条2項
2 裁判例紹介−京都地裁平成22年5月25日判決
本件は、飲食店A社の従業員Bの両親(原告)が、A社とその取締役Cらを被告として、Bが急性左心機能不全により死亡した原因はA社での長時間労働にあり、A社に対して不法行為又は安全配慮義務違反に基づく責任、取締役であるCらに対して、不法行為又は任務懈怠に基づく責任(会社法429条1項)を理由として、損害賠償を請求した事案です。
裁判所は、Bの死亡はA社の業務に起因すると評価できるとして、A社に対しては、雇用契約に基づく安全配慮義務違反があり、損害賠償責任を負うとしました。
Cらに対しては、不法行為上の責任は否定したものの、「会社法429条1項は、株式会社内の取締役の地位の重要性にかんがみ、取締役の職務懈怠によって当該株式会社が第三者に損害を与えた場合には、第三者を保護するために、法律上特別に取締役に課した責任であるところ、労使関係は企業経営について不可欠なものであり、取締役は、会社に対する善管注意義務として、会社の使用者としての立場から労働者の安全に配慮すべき義務を負い、それを懈怠して労働者に損害を与えた場合には同条項の責任を負うと解するのが相当である」とし、労使関係にも会社法429条1項の適用があることを示しました。
また、A社の組織体制として、Cらは、従業員の健康管理、労務管理を担当する部署の長やその部署を指導管理する立場にあることなどから、Bの生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたとし、代表取締役は、経営者として、労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたということができるとしました。
その上で、A社の労使協定では、特別の事情がある場合には、厚生労働省の基準で定める、業務と脳血管疾患及び虚血性心疾患等の発症との関連性が強いと評価される1ヶ月100時間の労働を、1年の間に6回行なうことができるとしていること、A社の給与体系では、基本給に月80時間の残業代が組み込まれていたことからすると、A社において、従業員の生命・健康に配慮し、労働時間が長くならないよう適切な措置を取る体制をとっていたとはいえず、またCらにおいては、上記体制をとっていなかっただけでなく、一見して不合理であることが明らかな体制をとっており、それに基づいて従業員が就労していることを十分に認識しえたことから、Cらにはこのような体制をとっていることについて悪意又は重大な過失が認められるとし、任務懈怠に基づく責任を認め原告の請求を認容しました。
本判決の重要ポイントは、会社の責任だけでなく取締役の責任、それも会社法に基づく責任を認めたところです。上場企業や規模の大きな会社においては,取締役が個々の従業員の就労状況について知りようがなく、従業員の過労死に対しての責任は会社が問われることがあっても、個別の取締役が問われることは基本的にはないと考えられてきました。しかし、本判決が出たことにより、従業員の勤務時間等の労務管理や健康管理をすべき取締役及び代表取締役は、たとえ個々の従業員の就労状況を把握していなくても、就業規則、給与の支払基準、労使協定の内容等によっては、会社法に基づく責任が問われることが示されたといえるでしょう(吉田)。
参考:京都地裁平成22年5月25日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100604194535.pdf
会社法429条1項