本の帯に「映画化決定!」、「まもなく映画公開!」などの文字が入っていて、お気に入りの役者が出演することが分かると、本を読まずに映画を見た方がいいのか、本を読んでから映画を見に行った方が良いのか悩んでしまいます。
さて、今回は、高年齢者雇用安定法との関係で60歳の定年制を定めた就業規則が無効となるか否かを判示した裁判例と、経由プロバイダもプロバイダ責任制限法に基づき発信者情報の開示義務を負うとした最高裁判決を紹介します。
1 裁判例紹介−東京地裁平成21年11月16日判決
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年齢者雇用安定法)9条1項では、会社が同項に違反した就業規則を有している場合に、当該就業規則が無効になる効力までは認められないので、60歳の定年制を定めた就業規則は、無効とはならないと判示した裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介−最高裁平成22年4月8日判決
経由プロバイダも、プロバイダ責任制限法に基づき、発信者情報の開示義務を負うと判断した最高裁判決を紹介します
1 裁判例紹介−東京地裁平成21年11月16日判決
本件は、Y社の従業員で満60歳の定年退職日を迎えたXらが、60歳定年制を定めたYの就業規則は、高年齢者雇用安定法9条1項に違反し無効であると主張し、XらがY社との間で雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と、退職日とされた日の翌日以降の賃金等の支払を請求した事案です。
高年齢者雇用安定法9条1項は、65歳未満で定年になる旨の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するために、定年の引上げ(同項1号)、継続雇用制度の導入(同項2号)、定年の定めの廃止(同項3号)の何れかの措置を講じなければならないと規定しています。ここで、同法9条1項に違反した規定は無効となるとの解釈をとれば、Y社の就業規則にある60歳定年制は、2号に該当しない限り、無効となります。
裁判所は、この点につき、事業主が同項に違反した就業規則を有している場合に、当該規則が無効となるとの明文規定や補充的効力に関する規定が存在しないこと、高年齢者雇用安定法が公法的性格を有すること、違反に対する制裁として事業主に対する指導、助言、勧告を規定するのみであること(同法10条)、同法8条が本件改正後も65歳未満定年制を適法としていること等をあげ、同法9条1項が同項に違反している就業規則を無効にする効力を有するとの解釈は成立しないと判示し、Xらの請求を棄却しました。
本判決では、60歳定年制を一律に無効とすることは困難であることや、雇用継続は各事業主の自主性に委ねられるべき等にも言及しています。
もっとも、この点を判示した最高裁判決はまだ出ていませんので、今後の動向が注目されます(平井)。
参考: 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9条1項
2 裁判例紹介−最高裁平成22年4月8日判決
いわゆるプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)4条は、インターネット(特定電気通信)による情報の流通によって名誉棄損等の権利侵害がなされた者は、「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」に対して、発信者情報の開示を求めることができるとしています。
たとえば、インターネット上の電子掲示板に名誉を棄損される書き込みがなされた場合、当該電子掲示板の管理者や、当該電子掲示板が記録されているサーバを管理運営するコンテンツプロバイダが、「特定電気通信役務提供者」に該当することに、争いはありません。
これに対して、発信者のPCや携帯端末から電子掲示板が記録されているサーバまでの通信を媒介したにすぎない、いわゆる経由プロバイダが「特定電気通信役務提供者」に該当するか否かについては、(大多数の下級審裁判例は該当性を肯定しているものの)いくつかの下級審裁判例で「特定電気通信役務提供者」には該当しない、と該当性を否定する判断がなされてきました。
本件は、経由プロバイダの「特定電気通信役務提供者」への該当性について、東京地裁がこれを否定し、控訴審である東京高裁がこれを肯定したため、経由プロバイダが最高裁に上告した事案です。
最高裁平成22年4月8日判決は、プロバイダ責任法4条の趣旨は、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあるところ、インターネットを通じた情報の発信は経由プロバイダを利用して行なわれるのが通常であること、経由プロバイダは、課金の都合上、発信者の住所、氏名等を把握していることが多いこと、反面、経由プロバイダ以外はこれを把握していないことなどに鑑みると、経由プロバイダが「特定電気通信役務提供者」に該当しないとするとプロバイダ責任法4条の趣旨が没却されるとして、経由プロバイダも「特定電気通信役務提供者」に該当するとしました。
近年は、大手の経由プロバイダは自らが「特定電気通信役務提供者」として発信者情報の開示義務を負う場合があり得ること自体は争っていなかったようですが、本判決が出たことにより、下級審での混乱が解消されました。(鈴木理晶)。
参考:最高裁平成22年4月8日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100408143936.pdf
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条