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今回は、株主総会決議等によって一旦決定された退職慰労年金の支給を、その後の取締役会決議により、打ち切ることができるかについて判示した裁判例と、登録申請商標について、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができないとして、登録を認めなかった特許庁の判断を支持した裁判例を紹介します。
また、弊事務所弁護士が執筆に参加している書籍のうち、最新のものを紹介します。
1 裁判例紹介−最高裁平成22年3月16日判決
株主総会決議等により具体的な支給額が決定された退職取締役の退職慰労年金について、取締役会決議によって退職慰労年金制度を廃止し、その支給を打ち切ることの可否が争われた事案を紹介します。
2 裁判例紹介−知財高裁平成21年9月8日判決
登録申請された商標を、需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標であるとして、特許庁が登録を認めなかった審決について、特許庁の当該判断は正しいと判示した裁判例を紹介します。
3 書籍紹介
古田弁護士が執筆に参加した『ベンチャー企業の法務・財務戦略』と、佐川弁護士が執筆に参加した『未払い残業代請求にはこう対応する』を紹介します。
1 裁判例紹介−最高裁平成22年3月16日判決
Y社の取締役を退任したXは、株主総会決議等により、支給期間を平成13年3月から20年間とする退職慰労年金を支給されることになり、平成13年3月から平成16年4月分までの退職慰労年金の支給を受けました。
しかし、Y社は、平成16年4月開催の取締役会において、同月かぎりで同社の退職慰労金規程を廃止する旨を決議し、Xへの退職慰労年金の支給をXの同意なく一方的に打ち切りました。
そこで、未支給分の退職慰労年金の支払等を求めてXがY社を訴えたのが本件訴訟です。
第一審(東京地裁平成20年5月22日)は、退職慰労年金は報酬にあたるとした上で、退職慰労年金の額が具体的に定められた場合、その支給を受ける請求権は具体的に発生し、その額はY社と退職取締役間の契約内容となるから、Y社の取締役会で支給を打ち切ると決定しても、当該取締役がこれに同意しない限り、退職慰労年金の支給を受ける請求権が消滅しないとして、Xの請求を認容しました。
これに対し、第二審(東京高裁平成21年3月19日)は、具体的な退職慰労年金の額等を決定したことにより、Y社とXとの間に退職慰労年金についての契約が成立した以上、Xの同意がない限り、Y社が一方的に契約内容を変更することはできないのが原則であるとしながら、退職慰労年金は、集団的・画一的処理を図るという制度的要請から、一定の場合、退職慰労金規程を廃止でき、廃止された場合、これに同意しない者に対してもその効力が及ぶとした上で、Y社は取締役の退職慰労年金制度廃止の必要性が極めて高く、Xは未支給年金債権を失ったとして、Xの請求を棄却しました。
しかし、最高裁は、Y社の取締役に対する退職慰労年金は、会社法361条1項の報酬等に該当するとした上で、いったん成立した契約の効力を否定してまで集団的・画一的な処理を図ることが制度上要請されているとみることはできないとして、第二審を破棄し、XとY社との間の黙示的な合意の有無、事情変更の原則の適用の有無等につき更に審理を尽くさせるため、事件を第二審に差し戻しました。
取締役会の退職慰労年金制度は廃止の傾向にありますが、今後もこれを運用する場合、退職慰労年金に関する規程に将来支給額が変更されたり、支給が打ち切られる場合があることを明記しておけば、本件のような紛争を回避することができます(佐藤)。
参考:最高裁平成22年3月16日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100316112723.pdf
最高裁平成4年12月18日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121616862817.pdf
会社法361条1項
2 裁判例紹介−知財高裁平成21年9月8日判決
商標法3条1項は、商標登録を受けることができない商標として、
・「その商品又は役務を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(同1号)
・「その商品又は役務について慣用されている商標」(同2号)
・「その商品の産地、販売地、品質・・・を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(同3号)
・「ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(同4号)
・「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標」(同5号)
・「前各号に掲げるもののほか、需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」(同6号)。
を掲げています。
本件は、指定商品を第9類「自動販売機」等とした「アイディー」(標準文字)という商標(以下「本件商標」とします)について、商標法3条1項6号「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」に該当するとして、商標登録を認めなかった特許庁の審決に対し、X社が知財高裁に当該審決の取消しを求めた事案です。
X社は、情報技術分野において識別子等を表す用語として用いられているのは、あくまでも大文字アルファベットの「ID」であって、片仮名表記の「アイディー」が識別子等を表す用語として用いられている例は皆無であり、片仮名表記の「アイディー」は、商標法3条1項6号「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」には該当しないと主張しました(商標法3条1項6号)。
これに対して裁判所は、「ID」の語は、ユーザー等の個人を識別するための識別子を意味する用語として、国語辞典に登載されるまでに一般化し、反対に、「アイディー」と発音する語に、これと異なる特定の語義が存在するとの事情は認めることができない状況に鑑みると、「ID」の語は、その読みである「アイディー」と切り離されて、大文字のアルファベット「ID」としてのみ認識されているということはできないとして、片仮名表記の「アイディー」が、商標法3条1項6号「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」であるとした特許庁の判断に誤りはないとしました。
商標法3条1項6号「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができない商標」の該当性が争いとなった事例は珍しいため紹介しました。異論もあるかもしれませんが、たしかに「自動販売機のアイディー」と言われれば「自動販売機の機器識別番号」のことを想起してしまい、商品名であるとは認識できないことが通常だと思いますので、裁判所の判断は妥当だと思います(鈴木理晶)。
参考:知財高裁平成21年9月8日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090909114642.pdf
商標法3条1項
3 書籍紹介
■『ベンチャー企業の法務・財務戦略』
2010年現在の日本のベンチャー企業の現状を示す第一級の資料として有 用な実務書です。
当事務所の古田弁護士が執筆に参加しています。
出版:商事法務
編集:宍戸善一=ベンチャー・ロー・フォーラム(VLF)
定価:6,300円(税込)
発行:2010年6月
https://www.clairlaw.jp/book-etc.html#venturelaw
■あなたの会社も他人事ではない!『未払い残業代請求にはこう対応する』
未払い残業代請求問題に、企業としていかに対応していくべきか。
弁護士を通した請求や労基署の調査が来たときの対処法、割増賃金等に ついての労基法のルール、トラブルを未然に防ぐ方法、労働審判、訴訟に なったときの対応のしかたまで、会社として知っておかなければならない 知識とノウハウを網羅しています。
当事務所の佐川弁護士が執筆に参加しています。
出版:アニモ出版
著者:特定社会保険労務士 佐藤広一、弁護士 佐川明生
定価:1,575円(税込)
発行:2010年7月
https://www.clairlaw.jp/book-etc.html#zangyodai