夏本番を迎え、蒸し暑い日が続いていますが、体調を崩さないように注意しましょう。
今回は、株式譲渡契約に基づく競業避止義務違反を理由に違約金5億円の支払いを命じた裁判例、民事再生手続開始の申立てがあったときは契約を解除できるとの特約は無効であるとした裁判例、講演「中国でビジネスをしよう」を紹介します。
1 裁判例紹介−東京地裁平成22年1月25日判決
株式譲渡契約に基づく競業避止義務違反を理由に違約金5億円の支払いを命じた裁判例を紹介します。
2 裁判例紹介−最高裁平成20年12月16日判決
民事再生手続開始の申立てがあったことを契約の解除事由とする特約は無効であると判示した裁判例を紹介します。
3 講演「中国でビジネスをしよう」
7月16日に行われた九門崇さんの講演の内容を紹介します。
1 裁判例紹介−東京地裁平成22年1月25日判決
この事案では、Xは、V社の創業者であるYと、Yの資産管理会社であったM社の両名から、V社の株式を合計27億6000万円で譲り受けましたが、その株式譲渡契約において、Yは3年間V社が営む労働者派遣事業を自ら営んではならず、労働者派遣事業を営む事業主体の経営等の行為を行なってはならないという競業避止義務を負うこと、Yが競業避止義務に違反したときは違約金5億円を支払うことが規定されていました。
Yは、競業避止義務に違反していないこと、本件競業避止規定は公序良俗違反によって無効であること、したがって、違約金5億円を支払う義務はないと主張しました。
裁判所は、Yが競業避止義務に違反した行為を行なったことを認定しました。さらに、本件競業避止規定の有効性については、本件競業避止義務に地理的な制限が設けられていないこと、期間も3年間とやや長期間であること、一律に違約金を5億円としていること等の事実を指摘しつつも、Yの従前の実績からすると、Yが労働者派遣事業を開始すればV社の業績に影響を与えるものと推認されるうえ、V社の活動範囲は限定されていないことからすると、本件競業避止義務に地理的な制限が設けられていないことが相当性を欠くとはいえないこと、違約金の額の設定については、V社の損害額の立証は困難が予想され、その損害発生を防止するために違約金を定める必要性が高く、YはXとの関係で特に弱い立場で契約させられたわけでもないこと等からすれば、5億円という違約金が著しく高額であるとまで認めることができないことを理由に、本件競業避止条項の有効性を認め、Yに対して、約定どおりの違約金および遅延損害金の支払いを命じました。
5億円の違約金は高額ではありますが、Yはその点を十分に理解した上で、それを約束して、株式を売ったのですから、支払いを命じられてもやむをえないでしょう。約束したことはそのとおり守る、ということが大原則であることを実感させられる判決です(田辺)。
2 裁判例紹介−最高裁平成20年12月16日判決
実務でも重要と思える平成20年12月16日の最高裁判例を紹介します。
本件は、民事再生手続開始の申立てがあったときは契約を解除できるとの特約に基づきファイナンス・リース契約を解除したとして、当該解除の日の翌日からリース物件返還の日又は返還不能となった日までのリース料相当額の損害金の支払いを求めた事案です。
裁判所は、いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約中のユーザーについて、民事再生手続開始の申立てがあったことを契約の解除事由とする旨の特約は、民事再生手続きの趣旨、目的に反し、無効であると判示しました。
リース契約に限らず、実務で締結される契約には、「当事者に破産、民事再生又は会社更生法の申立てがあった場合には、相手方当事者は、何ら催告することなく、契約を解除できる。」という解除に関する特約条項が規定されているのが一般的です。当該裁判では、このような解除に関する特約条項のうち、民事再生の申立てに基づく解除についての効力を否定し、当該条項に基づく契約の解除及びリース物件の引き上げが無効であると判断されました。
注目すべき点は、裁判所が、ファイナンス・リース契約の特殊性などから当該特約条項の効力を否定したのではなく、当該特約条項による解除が「民事再生の趣旨、目的に反する」が故に無効としている点です。そのため、当該判例の射程範囲はファイナンス・リース契約に限定されず、一般の契約にも及び、仮に「民事再生の趣旨、目的に反する」と判断される場合には、特約条項の効力が認められない可能性があります。
確かに、再生しようとしている会社が締結しているリース契約が解除され、リース物件を引き上げられてしまっては、再生できる会社も再生できなくなってしまう可能性が生じます。そして、それはリース契約に限られません。会社としては、その契約による役務・商品の提供が事業に必要だからこそ契約を締結し、取引を継続させているはずです。そうすると、「当事者に破産、民事再生又は会社更生法の申立てがあった場合には、相手方当事者は、何ら催告等することなく、契約を解除できる。」という条項が設けられているとして、当該会社が民事再生を申し立てたことを理由に相手方当事者が当該会社の事業に必要な契約を解除してしまっては、事業継続が困難になってしまい、「民事再生の趣旨、目的に反する」ことになります。
本裁判所がリース契約に限定せず、民事再生の申立を解除理由とする解除は無効であるとした判断は妥当だと思われます。
従いまして、このような特約を契約書に定めても、民事再生を申立てた相手方から解除の有効性が争われる場合もありますから、注意が必要です(佐川)。
参考:最高裁平成20年12月16日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081216142118.pdf
3 講演「中国でビジネスをしよう」
7月16日に行われた九門崇さんの講演では、中国の現状、中国で成功している企業の紹介、成功の秘訣、問題についての話がありました。
ブログに掲載しましたので、是非ご覧ください。
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