南アフリカでは、毎日手に汗握る熱戦が繰り広げられていますね。日本代表の予選リーグ突破を期待したいです。
今回は、共用サーバホスティングサービス事業社は、直接の契約関係が認められないサービス利用者に対して、サーバに保管したデータ等について善管注意義務等を負わないとした裁判例、および取締役会運営上の留意点を紹介します。
また、7月16日に行う講演&ネットワーキングパーティをご案内します。
1 裁判例紹介−東京地裁平成21年5月20日判決
共用サーバホスティングサービス事業社は、直接の契約関係が認められないサービス利用者に対して、当該利用者がサーバに保管したデータ等について善管注意義務やデータの消失防止義務を負わないとした裁判例を紹介します。
2 取締役会運営上の留意点
取締役会の運営について実務上の問題点を紹介します。
3 講演「中国でビジネスをしよう」とネットワーキングパーティのご案内
7月16日(金)に中国の専門家である九門崇さんの講演「中国でビジネスをしよう」と、ネットワーキングパーティを行います。
1 裁判例紹介−東京地裁平成21年5月20日判決
X社は、Y社の共用サーバホスティングサービス(1台のサーバを複数のユーザーが共有して利用できるサービス)を利用して、健康補助食品等の製造、販売等を行なっていました。共用サーバホスティングについては、X社とY社との間には直接の契約関係はなく、X社はY社とサーバの利用契約を締結したA社と契約を結んでサービスを利用していました。
このサーバにはX社のウェブサイトにアクセスした人の食習慣等に関する質問に対する回答、分析結果、購入履歴、代理店への販売情報及び代理店の顧客情報とこれらを管理するプログラム等を保存していたのですが、サーバ本体及びハードディスクの故障により、これらの情報及びプログラム等は消失してしまいました。
このため、X社はY社に対して、プログラムの再構築費用、情報の復旧費用、商品の販売ができないことによる逸失利益その他の損害賠償を請求したという事案です。
このケースでは、X社とY社との間には直接の契約関係はないのですが、Y社はX社のデータやプログラムを自社のサーバ内に格納している関係にあります。このような状態でデータが壊れた場合、Y社にはどのような責任があるのかが問題となりました。
裁判所は、以下の事実を認定し、Y社にはX社らがY社のサーバに保管した情報等について善管注意義務を負わず、また、情報の消失防止義務も負わないと判断しました。
ア X社らとY社との間には契約関係が存在しないこと
イ Y社とA社との本件サービスの利用契約において、Y社は、Y社の責めに帰すべき理由により、連続して24時間以上本件サービスが全く利用できなかったときに限り、A社に損害賠償責任を負うが、それ以外の責任を負わないこと、また、その賠償範囲は利用契約の月額料金を限度とすること、A社は、第三者がY社とA社との利用契約に定める制限事項を遵守する場合に限り、第三者に対して本件サービスを利用させることができることが定められていることから、Y社は、第三者にも免責規定が及ぶものとして本件サービスを提供していること
ウ X社らも、免責規定が存在することを知っていると推認されること
エ このような免責規定は、他のレンタルサーバ業者の契約書にも存在し、他の事業者も当該規定については広く公表していること
オ Y社は、この免責規定があることを前提として利用料を低価格に設定していること
カ サーバ自体が完全無欠ではなく、障害が生じてサーバに保存するプログラム・情報等が消失することがありえるが、プログラム・情報等は複製が容易であり、利用者が対策を容易に講じることができること
キ Y社が提供していたサーバは大手メーカーのものであり、使用開始から1年7ヶ月程度しか経っておらず、Y社の設置や管理に特別落ち度がないこと
ク Y社は、利用者に対してバックアップサービスを有料で提供していたこと
人が社会生活を営んでいくにあたっては、事故やトラブルが必然的に生じてしまいます。そのようなとき、どのように損害を分担すべきなのかを規律するのが不法行為の制度です。本件は、現代型のサービスに関する事例として参考になると思います(古田)。
2 取締役会運営上の留意点
(1)取締役会の業務執行の決定
取締役会は、会社の業務執行の決定を行なうこととされていますが(会社法362条2項1号)、取締役会が決定する「業務執行」とは何でしょうか。
立法担当者は、業務の執行と職務の執行を使い分け、前者は、会社の目的である具体的な事業活動を意味するものとして使用し、後者はそれ以外の法令上の職責の履行全般を含む概念と考えていたと思われます。しかし、旧商法との比較において、「業務執行」とは、会社の目的である具体的な事業活動だけではなく、株主総会決議事項以外のすべて(会社の組織、運営、管理等)に及ぶとの見解もあることから、取締役会による決議をとっておく方が安全だと思われます。
また、取締役会の決議事項を株主総会で決議することができるかという点については、株主総会を適時に開催することが難しく、経営の専門家である取締役に会社運営を任せる趣旨のもと、取締役会を設置していることからすると、取締役会で決議すべき事項を株主総会で決議したとしても、取締役会の決議に代えることはできないと考えられます。もちろん、本来取締役会の決議事項である事項について、株主総会で決議する旨を定款に定めている場合は、株主総会の決議により対応することができます(会社法295条2項)。
(2)取締役会の書面決議
取締役の全員が書面等により同意すれば、取締役会を招集しなくても書面により決議することが認められており(会社法370条)、上場会社の約4割が書面決議を利用しているとのアンケート結果があります。
但し、本来取締役会では、それぞれの取締役が会社の運営について議論をしながら業務執行の内容等を決定していくことを期待されており、株主総会とは異なり取締役が有する議決権の代理行使が認められていないのもそのためと考えられていることから、常に書面決議により業務執行の決定がなされることは避けるべきと考えられます。
また、書面決議により決定された業務執行により会社が損害を被ったような場合、取締役の善管注意義務違反の判断において、意思決定の過程で時間をかけた慎重な検討がなされたことが、意思決定の合理性を根拠づける事実として検討されますので、会社に与える影響が大きいような業務執行の決定については、取締役の責任追及を免れるためにも、慎重な検討の過程がない書面決議を避けるべきと考えられます(田辺)。
参考 会社法362条2項1号、295条2項、370条
3 講演「中国でビジネスをしよう」 ネットワーキングパーティ のご案内
中国の専門家である九門崇さんの講演「中国でビジネスをしよう」及びネットワーキングパーティを行います。
日時:2010年7月16日(金)
17:15〜 「中国でビジネスをしよう」
18:30〜 ネットワーキングパーティ
場所:六本木ヒルズ森タワー51F
六本木ヒルズクラブ クラブルーム http://www.roppongihillsclub.com/visitor/dfw/jp/common/pdf/map.pdf
費用:10,000円 (顧問先、役員関与先は1名無料です。)
振込先:みずほ銀行/町村会館出張所(普)2830940
弁護士法人クレア法律事務所
申込先:電子メールにて、info@clairlaw.jp 宛に、件名を「7月
16日講演申込」として、参加者名、会社名、連絡先メール
アドレスをお送りください。
九門崇さんのプロフィール:
慶應義塾大学法学部卒。ミシガン大学公共政策大学院修士課程修了。その後、北京語言文化大学で半年間中国語研修。1998年より、ジェトロ海外調査部米州課勤務。清華大学でのMBA(経営学)・中国語の研修、ジェトロ海外調査部中国北アジア課勤務などを経て、現在に至る。
九門崇さんのコラム:日経BP「中国から探るグローバルビジネス」
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20080923/100464/