株価下落が続いていますが、21世紀はアジアの世紀です。日本は成長圏内にいるのですからシュリンク要因ばかり気にして落ち込む必要はないと思います。
今回は、登録されていた商標が普通名称になったと判断された高裁判決、役員報酬の開示に関する内閣府令の改正のポイントについて紹介します。
また、7月16日に行う講演&ネットワーキングパーティをご案内します。
1 裁判例紹介−大阪高裁平成22年1月22日判決
登録商標が普通名称化していたと判断されて、商標権の効力が否定された事例をご紹介します。
2 役員報酬の開示に関する改正のポイント
企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され、平成22年3月31日に施行されました。そのうち、役員報酬に関する情報開示についての改正点のポイントを解説します。
3 講演「中国でビジネスをしよう」 ネットワーキングパーティ のご案内
7月16日(金)に中国の専門家である九門崇さんの講演「中国でビジネスをしよう」とネットワーキングパーティを行います。
1 裁判例紹介−大阪高裁平成22年1月22日判決
X社は、「招福巻」なる登録商標を有していました。これに対して、Y社は平成18年及び平成19年の各節分の日に向けて「十二単の招福巻」という標章を付して、節分用の巻き寿司を販売しました。
X社は、平成19年に、商標権侵害を理由にY社に対して「十二単の招福巻」の販売差止及び損害賠償を求めて大阪地裁に提訴し、大阪地裁は平成20年10月2日に差止を含め一部を認容しました。
これに対して、Y社が「招福巻」の語はすでに普通名称化しており、商標権の効力が及ばないなどと反論して大阪高裁に控訴したのが本件です。
裁判所は、
(1) 「招福」はもともと「福を招く」を名詞化したもので馴染みやすい語であり、これと巻き寿司を意味する「巻」を結合させた「招福巻」なる語を一般人が見れば、極めて容易に節分をはじめとするめでたい行事等に供される寿司を意味すると理解し、X社の商標が登録されていることを知らないで「招福巻」の文字を目にする需要者は、その商品は特定の業者が提供するものではなく、一般にそのような意味づけを持つと理解してしまう、
(2) 遅くとも平成17年以降は極めて多くのスーパーマーケット等で「招福巻」の商品名が用いられていることが認められ、スーパーマーケット等のチラシをみて、「招福巻」と表示される巻き寿司が、特定のメーカーないし販売業者の商品であると認識する需要者はいなくなるに至っていたことが窺われる、
(3) 広辞苑に「招福」の語が収録されたのは平成20年発行の第6版からであるが、「新辞林」や「大辞林」にはそれ以前から収録されていたし、上記広辞苑の収録も、それまでの少なくとも数年間の使用実態を踏まえてのことと考えられるから、その収録の事実は平成16年当時に「招福」の語も普通名詞化していたことを裏付けるものといえる、
などとして、「招福巻」は、巻き寿司の一態様を示す商品名として、遅くとも平成17年には普通名詞になっていたとし、原判決を取り消し、X社の請求を棄却しました。
大阪地裁と大阪高裁で判断が分かれた理由は、「招福巻」の語が平成19年2月の時点で普通名称化していたか否か、について判断が分かれたことにあります。仮に、本件で平成16年にX社が、「招福巻」を使用する業者に対して差止や損害賠償を請求するなど商標権を行使していたならば、「招福巻」の語の使用が抑制され、普通名詞化が防げたかもしれません。したがって、自己の登録商標が普通名称化しつつある場合には、積極的に商標権を行使して、普通名詞化することを防止しなければなりませんし、そもそも商標を使用する際に普通名称化しやすい弱い商標かどうかを検討するべきです(鈴木理晶)。
参考:大阪高裁平成22年1月22日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100129134305.pdf
2 役員報酬の開示に関する改正のポイント
企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され(改正開示府令)、平成22年3月31日に施行され、上場会社では、コーポレート・ガバナンス体制、役員報酬および株式保有状況については有価証券報告書等で、議決権行使結果については臨時報告書で情報開示を行うことになります。
今回は、役員報酬に関する情報開示についての改正点のポイントを解説します。
(1) 改正開示府令では、役員の報酬等に関して、有価証券報告書に以下の事項を記載することが求められています。
a) 取締役(社外取締役を除く)、監査役(社外監査役を除く)、執行役、社外役員に区
分した報酬等の総額、報酬等の種類別の総額等
b) 役員ごとの提出会社と連結子会社の役員としての報酬等(連結報酬等)の総額・連結
報酬等の種類別の額等(ただし、連結報酬等の総額が1億円以上の役員に限ることがで
きる)
c) 提出日現在において報酬等の額又はその算定方法の決定方針がある場合、その内容及
び決定方法
報酬等とは、報酬、賞与その他その職務執行の対価として会社から受ける財産上の利益で、当事業年度に係るもの及び当事業年度において受け、または受ける見込額が明らかとなったものをいいます。
また、使用人兼任役員の使用人給与分のうち重要なものがあれば、その総額及び内容等も記載する必要があります。
(2) 有価証券報告書への記載事項の変更は、株主総会における役員報酬の開示についても影響を及ぼすことと思われます。
以前から役員ごとの報酬を個別に開示してきた会社では例年通りの対応で足りますが、役員報酬等の総額のみを開示してきた会社では会社法上の事業報告でどこまで開示するか、および株主総会での質問にどう対処するかについての検討が必要です。
まず、会社法上の事業報告においても、役員全員、または連結報酬等の総額が1億円以上となる役員の報酬を、個別に開示するという対応が考えられます。この場合、株主総会での質問には、事業報告記載事項に関する説明として回答することになるでしょう。
次に、会社法上の事業報告については従前のまま総額表示とする対応もあります。この場合、報酬等についての個別開示等を株主総会で求められた場合、有価証券報告書を株主総会の前に提出するか後に提出するかにかかわらず、可能な範囲で有価証券報告書に沿った回答を行うことが望ましいといえます。
このように、改正開示府令の施行は株主総会での対応にも影響を及ぼすと考えられ、上場会社ではこれに対応する準備が必要です。上場会社の株主は、会社が改正開示府令の施行を受けて株主総会をどのように運営するかに注目して株主総会に参加してみるのも興味深いかと思います(佐藤)。
参考:改正府令等の概要(金融庁)
http://www.fsa.go.jp/news/21/sonota/20100331-8/01.pdf
3 講演「中国でビジネスをしよう」 ネットワーキングパーティ のご案内
中国の専門家である九門崇さんの講演「中国でビジネスをしよう」及びネットワーキングパーティを行います。
日時:2010年7月16日(金)
17:15〜 「中国でビジネスをしよう」
18:30〜 ネットワーキングパーティ
場所:六本木ヒルズ森タワー51F
六本木ヒルズクラブ クラブルーム
http://www.roppongihillsclub.com/visitor/dfw/jp/common/pdf/map.pdf
費用:10,000円 (顧問先、役員関与先は1名無料です。)
振込先:みずほ銀行/町村会館出張所(普)2830940 弁護士法人クレア法律事務所
申込先:電子メールにて、info@clairlaw.jp 宛に、件名を「7月16日講演申込」とし
て、参加者名、会社名、連絡先メールアドレスをお送りください。
九門さんのプロフィール:
慶應義塾大学法学部卒。ミシガン大学公共政策大学院修士課程修了。その後、北京語言文化大学で半年間中国語研修。1998年より、ジェトロ海外調査部米州課勤務。清華大学でのMBA(経営学)・中国語の研修、ジェトロ海外調査部中国北アジア課勤務などを経て、現在に至る。
九門さんのコラム:日経BP「中国から探るグローバルビジネス」
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20080923/100464/