花粉が気になる季節になりましたが、今年は例年より随分少ないということです。
今回は、佐々木・ジョン・洋介先生の講演のご案内と、不動産売買における買主の媒介手数料の支払義務についての裁判例、和解金が雑収入として課税されるかについての裁判例を紹介します。
1 佐々木・ジョン・洋介先生の講演のご案内
シリコンバレーのベンチャー事情に精通している、佐々木・ジョン・洋介先生の講演のご案内をいたします。
2 裁判例紹介−東京地裁平成21年12月9日判決
不動産売買についてのアドバイザリー契約の成否と買主の媒介手数料の支払義務について判断した裁判例を紹介します。
この事件では、報酬金額を合意した事実は認められませんでしたが、裁判所がその金額を決定しました。
3 裁判例紹介−大分地裁平成21年7月6日判決
和解金として支払われた金員が雑収入として課税対象となるかを判断した裁判例を紹介します。
1 佐々木・ジョン・洋介先生の講演のご案内
シリコンバレーのベンチャー事情に精通している、佐々木・ジョン・洋介先生の講演があります。
是非ご参加ください。
事前の参加申込が必要となりますので、下記をご覧頂き、お申込ください。
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■■ 「アメリカでビジネスをしよう」
アメリカでのビジネスの戦略と法的手続
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講師:外国法事務弁護士 カリフォルニア州
佐々木・ジョン・洋介
セミナーの目的:
本セミナーでは、日本の企業に対して、アメリカでのビジネスの戦略と
法的手続について実務的なガイダンスを提供します。日本の実務と比
較しつつ契約ベースの提携、子会社の設立、ジョイント・ベンチャーおよ
び会社の買収について説明します。
日時:2010年4月16日15時30分開場 同45分開演 17時30分終了
場所:六本木ヒルズ49階 アカデミーヒルズ・スカイスタジオ
費用: 8000円
(消費税込/主催事務所の顧問先様・役員派遣先様は無料。)
コンテンツ:本セミナーは日本語で行います。
1 契約ベースの事業提携
2 子会社の設立
3 ジョイント・ベンチャー
4 会社の買収
申込み方法等の詳細は、下記ページをご覧ください。
https://www.clairlaw.jp/pdf/seminar20100416.pdf
2 裁判例紹介−東京地裁平成21年12月9日判決について
某共済組合は、入札方式によって、その所有不動産(通称名:虎ノ門パストラル)の売却に関する優先交渉権者を選び、最終的に被告との間で売買契約を締結しました。
その際に、共済組合とアドバイザリー契約を締結していた原告である信託銀行3行は、被告に対し、「手数料等 本件不動産売買契約成約時には、アドバイザリー業務受託先は買主側の仲介業者としての役割も務めさせていただく予定であり、買主から規定手数料を申し受けるものとします。」と記載された第一次入札要項や、「不動産媒介に関しては、国土交通省が告示する、宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬額を上限とし、協議させていただきます。」と記載された第二次入札要項を交付しました。
これに対して、被告は、共済組合に対して、「入札実施要項(第一次、第二次)及び質疑回答を含むすべての内容を承諾の上、下記の金額により入札します。」と印字された入札書を提出しました。
しかし、原告らと被告との間では、「媒介契約書」というような書面が作成されていませんでした。そのため、原告らと被告との間に、媒介契約が成立したのか、また、媒介契約が成立したとして、原告らは被告に対していくら請求できるのか、が争いとなりました。
裁判所は、原告らの被告に対する入札要項の交付が、媒介契約の申込みであり、被告の入札書の提出が、原告らの上記申込みに対する承諾であるとして、原告らと被告との間に媒介契約の成立を認めました。しかし、報酬合意の有無について、第一次及び第二次入札要項の上記各記載は、原告らが主張する報酬金額の合意を定めたものではないとしました。
報酬金額の合意がないとすれば、報酬を請求することはできないのではないか?という疑問が生じますが、通常は、商人が無報酬で営業行為を行うことはありませんし、取引の相手方にしても報酬を払わないで済むと期待すべきでもありません。そこで、商法は「商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。」と定めており、一定の報酬が認められています(同法512条)。
裁判所は、この売買契約の代金額、原告らの行った仲介行為の内容及び期間(9ヶ月間)、労力、難易度、その他諸般の事情を考慮すると、その相当報酬額は33億円とするのが相当であると判示しました。
今回の事案のように、具体的な手数料額の合意がなくても、取引の当事者が商人である場合は、商法の規定により、一定額の報酬が当然に発生するということは覚えておくとよいと思います(田辺)。
3 裁判例紹介−大分地裁平成21年7月6日判決
Aは、B社との間で商品先物取引の委託契約を結んでいましたが、B社が、Aが多額の損失を被るかもしれない危険性を考慮せず取引の長期化・大規模化を目指し、自社の手数料を増やすことだけを念頭にAに対して取引の勧誘を行ったとして、不法行為を原因とする損害賠償を請求する裁判を起こしました。第1審の裁判所は、Aの請求を認めたため、Bが控訴し、控訴審で、B社がAに和解金1900万円を支払うことで和解が成立しました。
その後、Aは、課税庁から、受け取った和解金は雑所得に当たるとして課税処分(更正処分)をされたため、その取消を求めて裁判を起こしたという事案です。
この訴訟では、主に、(1)和解金は「所得」に該当するか、(2)「所得」であるとしても非課税所得に該当するかの2点が争われました。
争点(1)については、「所得税法上、「所得」について定義する規定はないが、・・・各人に発生した経済的利得は広く「所得」に当たるとした上で、非課税とすべきものは別途個別的に規定したものと解され」、「ある収入が、「所得」に該当するか否かについては、単にその支払い名目から判断するのではなくその実質に着目して判断すべき」としました。本件和解金の実質は、不法行為に基づく損害賠償金およびその遅延損害金であり、Aは当該和解金を取得することで経済的利得を得たといえるから「所得」に当たると判断されました。
争点(2)については、不法行為や突発的な事故により財産や物に生じた損害に対する補償については、発生した損害を補填するものであり、原則として補償を受けた者(不法行為や事故の被害者)が財産を増加させるわけではないことから非課税になるとされました。しかし、このような補償であっても、その補償の対象が事業などに使用する資産(例えば、商品や事業に使用するPCや机など)や、これらの資産の毀損により生じた休業補償などのように、本来であれば課税されるべき所得に代わる性質を有している場合(収益補償の場合)は、非課税ではなく課税対象となるとしました。
つまり、不法行為により販売商品が毀損され、それについて損害の賠償を受けた場合であれば、当該賠償金は課税対象となるということです。これは、毀損された商品は費用として計上され課税対象となる事業所得を減少させることとなる上に、毀損された商品の代償として入ってきた賠償金を非課税とすると、二重に課税を免れることになってしまい妥当でないと考えられるからです。休業補償についても、給与の支払いを受けた場合は所得税を課せられますから、それと同様に課税対象となるということです。
他方、事業などに使用しない個人の資産(例えば、自家用車、個人のお金など)については、損害が填補されるだけですので、非課税であるとしました。
本件和解金の実質は、不法行為に基づく損害賠償金および遅延損害金であるところ、その損害賠償金は、本件先物取引の売買差損等によりAの個人資産である金銭等に加えられた損害に起因して取得した損害賠償金であり、収益補償ではないので非課税であるとしました。
この裁判例は、和解金は一概に課税対象所得となるものではなく、その実質が何であるかによって課税対象となるのか非課税となるのかが決まることを示しています。このため、和解に応じて和解金を受領する際には、課税関係に配慮して、和解金の趣旨や性質を和解条項に記載すべき場合があります(吉田)。
参考:所得税法7条、所得税法9条1項16号、所得税法施行令30条、94条
大分地裁平成21年7月6日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090728121221.pdf