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今回は、育児・介護休業法の改正のポイント、M&Aなどに際して問題となる株式買取請求権行使における株式の「公正な価格」についての解説をお送りします。
1 改正育児・介護休業法のポイント
改正育児・介護休業法が施行されました。育児休業に関する部分の改正のポイントを解説します。
2 株式買取請求権行使における株式の「公正な価格」について
M&Aなどの組織再編に反対する株主が、会社に株式買取請求権を行使する際の、株式の「公正な価格」について解説します。
1 改正育児・介護休業法のポイント
改正育児・介護休業法が施行されました。育児休業に関する部分の改正のポイントを解説します。
ポイント1:短時間勤務制度・所定外労働業務免除の義務化
仕事と子育ての両立を支援すべく、3歳までの子を養育する労働者が利用できる短時間勤務制度(1日6時間)を設けることが義務付けられました(改正法23条)。
同様に、3歳までの子を養育する労働者の請求による所定外労働の免除が義務付けられました(同法16条の8)。
ポイント2:子の看護休暇制度の拡充
従来、小学校就学前の子がいれば労働者1人あたり年5日の子の看護休暇が認められていましたが、子が多いほど病気等の看護のために仕事を休むニーズが高まるという現状を受け、小学校就学前の子が1人いれば年5日、2人以上いれば年10日の看護休暇が取得可能となりました(同法16条の2)。
ポイント3:父親の育児休暇の取得促進
父母がともに育児休業を取得する場合の育児休暇取得可能期間が、子が1歳に達するまでから1歳2ヵ月までに延長されました(同法9条の2)。
また、父親が出産後8週間以内に育児休業を取得することを促進するため、当該期間に育児休業を取得した父親は、育児休業を再度取得することが可能となりました(同法5条2項)。
更に、従来は労使協定によって配偶者が専業主婦(夫)や育児休暇中である場合等には育児休業申出を拒むことができましたが、これが廃止され、配偶者が専業主婦(夫)でも育児休業を取得できるようになりました。
ポイント4:実効性の確保
育児休業取得制度の実効性を確保するため、育児休業の取得に伴う苦情・紛争について、労働局による紛争解決援助及び調停委員による調停制度が創設されました(同法52条の5、同条の6)。
また、勧告に従わない場合の公表制度、報告を求めた場合に報告をせず又は虚偽の報告をした者に対する過料も創設されました(同法56条の2、68条)。
改正育児・介護休業法は平成22年6月30日までに順次施行の予定です。但し、短時間勤務制度・所定外労働業務免除の義務化は、常時100人以下の労働者を雇用する企業では平成24年6月30日までは改正への対応が猶予されます。
施行スケジュールをふまえ、余裕をもった就業規則等の整備・変更をお勧めします(佐藤)。
参考:改正育児・介護休業法5条2項、9条の2、16条の2、16条の8、23条、52条の5、
52条の6、56条の2、68条
厚生労働省ホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/07/tp0701-1.html
2 株式買取請求権行使における株式の「公正な価格」について
会社法では、M&Aなどに反対の株主は、自己の有する株式を「公正な価格」で買い取ることを会社に請求できます(会社法785条、797条)。
では、「公正な価格」とは、どのような価格を指すのでしょうか。
旧商法では、株式買取は、「会社が当該決議をしなければ当該株式が有したであろう公正な価格」によるものとして、対象となる株式が市場価格を有する場合は、組織再編が行われる直近数ヶ月の市場価格の終値の平均値が「公正な価格」だと考えられていました。
これに対して、会社法では、株式買取請求は「公正な価格」によるとされたことにより、組織再編によって生じる企業価値の上昇分をも価格に反映すべきであると考えられるようになりました。
組織再編により生じる企業価値の上昇分をどの程度反対株主に分配すれば、「公正な価格」といえるかの判断は、以下の2つの場合によって異なります。
まず、独立当事者間(支配従属関係のない対等な当事者間)の合意による価格は、当事者間の力の差異による影響はぬぐえないとしても、相互にリーズナブルであると評価したうえで価格形成されているので、原則として「公正な価格」であると考えられます。例えば、組織再編に向けてのTOBにおける買付価格と同じ価格であれば、「公正な価格」と判断されると考えられます。
次に、独立当事者とはいえない当事者間(例えば、親子会社間や関連会社間など)の合意による価格は、独立当事者間の合意による価格とは異なり、反対株主への適正な価値分配を考慮していない場合があり、「公正」とは判断されないことがあります。独立当事者間であればどのような価格に決まっていたか、をベースに「公正な価格」であるかどうかを判断するとの考え方がありますが、具体的にどのような要素を考慮すれば、独立当事者間により決まるであろう価格を算定できるのかは明確にはなっておらず、適切な価値分配の算定方法はいまだ確立しているとはいえません。
後者については、どのような分配によれば「公正な価格」との判断がなされるのか、今後の裁判例の積み重ねを待つ必要があるでしょう。
ちなみに、上場していない会社の一般的な株価算定方法としては、(1)純資産方式、(2)収益還元方式、(3)DCF方式、(4)比準方式などの方法がよく使用されます。
(1)は純資産、(2)は予想純利益を資本還元率で割ったもの、(3)は将来得られるキャッシュフローを現在価値に引きなおしたものをそれぞれ発行済株式総数で割り、一株当たりの価格を算定する方法です。(4)は、PER(Price Earnings Ratio=株価収益率)やPBR(Price Book−value Ratio=株価純資産倍率)などを上場会社と比較して株価を算定する方法です。
(2)や(3)の方法のように、将来の利益やキャッシュフローの予測により組織再編によるシナジー効果を算定し、それをある一定の割合で反対株主に分配することで「公正な価格」であるとの判断がなされる可能性はあるのではないかと考えられます(吉田)。
参考:会社法785条、797条