1月も第3週目に入りました。今年は、引き続き厳しい環境のなか、ビール会社の合併やJALの経営再建をはじめ、企業社会でも様々な変化がありそうです。
今回は、M&Aや組織再編で用いられる「株式交換」について説明します。
1 株式交換について
株式交換の制度やその機能などについて説明します。
2 お知らせ
「弁護士専門研修講座:会社法の今日的課題と実務」(ぎょうせい)の発行についてご案内します。
1 株式交換について
「ゼンショー、なか卯を株式交換により完全子会社化 なか卯は上場廃止に」とか、「三菱電機、島田理を株式交換により完全子会社化」といったように、「株式交換」という言葉は、ニュースでよく見かけます。
「株式交換」という言葉からは、株主が、会社の株式を誰かと交換するようなものと考えてしまいそうです。しかし、そうではありません。
株式交換とは、株式会社(株式交換後の子会社)が、その発行済株式の全部を他の株式会社(株式交換後の親会社)に取得させることをいい、通常は、株式交換後の親会社が、株式交換後の子会社の株主に対して、その株式に代わる対価(主として株式交換後の親会社の株式)を交付します。合併などと同じように会社が行う組織上の行為で、友好的な企業買収や、グループ企業の100%子会社化等、企業再編の手段として、あるいは経営破綻した企業の再生の方法として活用されています。したがって、株式交換の契約をするのは、株主と会社ではなく、会社と会社です。
では、株式交換にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
株 主
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A 社 ――――――― B 社
例えば、株式交換ではなく、A社の株主が、個別にB社との交換契約によって、持っているA社の株式すべてを任意に引き渡し、その代りにB社の株式を受け取ったとします。この場合、取得したB社の株式の価値がA社の株式を取得したときの原価より高い場合には、A社の株主はその差額について、交換を実施した段階でキャピタルゲインとして課税されます。A社の株主は、この取引によってキャッシュを得ていないので、納税のためのキャッシュを用意しなければなりません。また、B社が、A社を100%子会社にする目的でこのような取引を行う場合、A社の株主のうちこの取引に応じてくれない株主がいると困ります。
これに対して、株式交換では、税務上、A社株主はB社株を取得した際のキャピタルゲイン課税を繰り延べることなどができ、A社の株主は、取得したB社株式を売却するときまでキャッシュを用意する必要はありません。また、A社の株主総会の特別決議があれば、反対の株主がいても、A社を他の会社(B社)の完全子会社とすることができます(反対株主は株式買取請求権によって保護されます。)。さらに、株式交換に際してB社が交付する株式がB社の純資産の20%以下である場合のように、株式交換がB社の株主に及ぼす影響が軽微な場合や、B社がA社の議決権の90%以上を既に有する場合には、企業再編を承認する株主総会決議が不要です。つまり取締役会の決議だけで迅速に実施することも可能です。
株式交換のデメリットとしては、A社の株主が、A社株式の対価としてB社の株を取得する場合、B社の既存株主の支配比率が低下してしまう点があげられます。しかし、株式交換は、A社株主へ交付する対価として、現金や社債を交付することもできるので、B社の既存株主の株式の希薄化を回避することもできます。
なお、「株式交換」とともに会社法が規定している制度に「株式移転」があります。「株式移転」は、100%親会社を創設する制度で、持株会社を作ったりする企業再編に利用するものです(古田)。
参考:会社法767条から774条、782条から816条
2 お知らせ
「弁護士専門研修講座:会社法の今日的課題と実務」(ぎょうせい)が、去る12月25日に発行されました。
古田他5人の弁護士が、平成20年に東京弁護士会の弁護士向けの研修として行った講義が書籍化されたものです。古田弁護士は、「種類株式、ストックオプションの実務−ベンチャーファイナンスとしての利用方法」を担当しました。資料なども添付された実務的なものとなっています。