年末に向けて忙しい毎日が続きます。忘年会での飲みすぎにはご注意ください。今回は、少数株主排除(スクイーズアウト)に反対する少数株主から申し立てられた全部取得条項付種類株式の取得価格についての判断を示した裁判例、「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」の解説をお送りします。
1 裁判例紹介−大阪高裁平成21年9月1日決定
少数株主排除(スクイーズアウト)に反対する少数株主から申し立てられた全部取得条項付種類株式の取得価格についての判断を示した裁判例をご紹介します。
2 「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」について
企業が行うべき新型インフルエンザ対策について、「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」の一部を抜粋しながらご紹介します。
1 裁判例紹介−大阪高裁平成21年9月1日決定
平成19年2月14日、サンスターの株式の公開買付(本件公開買付)が発表されました。公開買付者は、サンスターの代表取締役会長が代表者を務めるスイス法人SunsterSAの100%子会社であるSSA株式会社、買付価格は1株650円(本件買付価格)でした。本件公開買付は経営陣によるMBOの一環として行われたものです。サンスターは、同日、取締役会を開催し、本件公開買付に賛同する旨を表明しています。なお、サンスターは、平成18年11月10日に、業績の下方修正を発表しています。
同年6月25日、サンスターは、株主総会において、全部取得条項付株式(本件株式)を利用して同年8月1日(本件取得日)に少数株主排除(スクイーズアウト)を行う旨を決議しました。
これに反対した株主は、会社法172条1項に基づく株式の取得価格の決定の申立てを行いましたが、原決定では、取得価格を本件買付価格と同額の650円としたため、反対株主の一部により即時抗告がなされたのが本事案です。
裁判所は、会社法172条1項「取得の価格」について、同条は「株主総会の決議により取得日に株式を強制的に取得される株主に対し、公開買付の価格に不服があるときに、現実の経済的価値との乖離について、経済的調整を図ることを目的とするもの」であるから「取得日における公正な価格」をもってその取得価格と決定すべきとしました。
「公正な価格」については、上場会社では「その当時の市場価格を基準に定めるべき」とした上で、サンスターについては、上場廃止から本件取得日までの期間が短いことから、「上場廃止の日に近接する一定期間の市場価格の平均値」としました。
「一定期間」については、本件公開買付以降のサンスターの株価は、本件買付価格に束縛されて形成されたものであること及びMBOを計画する経営者が、MBOが実施された際や再上場を行う際に、自己の利益を最大化するため、対抗的公開買付を仕掛けられない範囲で、自社の株価をできる限り安値に誘導しやすいことから、本件公開買付公表後の期間及び本件公開買付準備開始時期以降の期間を除外すべきとしました。
以上から、本件取得日における公正な価格を算定する際に基準となる株価は、「公開買付を発表した1年前の株価に近似する700円」を相当としています。
また、公正な価格の算定にあたっては、株式の客観的価値に加え、(1)MBOにより経営者側が支配権を手に入れるため追加的に支払う対価及び(2)株主が株式を強制的に取得されることにより投資機会を失いあるいは投資の流動性を奪われることへの対価が考慮されるべきであるとしました。
そして、そのような付加価値は、本来はMBOを実施する際に作成される株価算定についての評価書を基礎として計算されるべきところ、本件では評価の基礎となるべき資料が信用できないため、合理的な資料により裁判所の裁量によって決せられるとして、平成18年1月以降に実施された他のMBOの事例(41件)におけるプレミアム等を考慮してこれを20パーセントとし、本件取得日における本件株式の公正な価格は700円に20パーセントを加算した840円としました。
M&Aの一手法としてMBOは広く用いられていますが、レックス事件の東京高裁決定・最高裁決定及び本件決定を受け、MBO(特に業績下方修正に近接する時期のMBO)では、その手続の透明性を保つべく配慮するとともに、MBOに伴うスクイーズアウトにおける対価の相当性について、株主や裁判所を説得できる十分な資料を準備することが肝要といえます(佐藤)。
参考:会社法172条1項
Clair Law firm ニュースレター vol.28(レックス事件 東京高裁決定)
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2 「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」について
最近、新型インフルエンザが大流行していますが、企業が行うべき新型インフルエンザ対策について、新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議が「事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン」(ガイドライン)を策定していますので、一部を抜粋しながらご紹介します。
事業者において現在実施すべき対策として、(1)企業で迅速な意思決定が可能な新型インフルエンザ対策の体制の確立、(2)従業員や訪問者、利用客等を守る感染防止策の実施、(3)新型インフルエンザ発生時の事業継続の検討・計画策定、及び(4)定期的な従業員に対する教育・訓練の実施があげられます。また、事業継続計画については(5)点検・是正を行い、より具体的なものにすることも必要になります。
特に(3)については、以下の通りです。
(ア) 事業継続方針の検討
企業が行っている複数の事業に優先順位を付け、優先順位の低い事業から順に、事業停止を検討していきます。
事業継続をどの程度行うかの決定は、従業員や訪問者、利用客等の感染防止策の実施を前提として、事業者自らが経営判断として行ないますが、感染拡大に伴う社会状況の変化に伴い事業が制約を受けることが想定されることから、ガイドラインでは、当該事業者にとっての重要業務を特定し、重要業務の継続に人的・物的資源を集中しつつ、その他の業務を積極的に縮小・休止することが考えられること、感染拡大防止の観点からは、不要不急の業務については、可能な限り縮小・休止することが望ましいことが指摘されています。
(イ) 事業影響分析と重要業務の特定
(ア)とも関連しますが、新型インフルエンザ発生により需要が変化するのであれば、それを見越して事業の優先順位をつけることが必要になります。また、いくら利益の上がる事業であっても、従業員の感染リスクが高ければ、事業継続が困難になってしまいますので、その点も踏まえて、事業の優先順位をつけることが必要になります。
ガイドラインでは、新型インフルエンザ発生時の影響について分析し、継続を図る重要業務を発生段階ごとに特定すべきこと、新型インフルエンザ発生時の事業に対する需要の変化を予測し、従業員の感染リスクと経営維持の観点から総合的に判断の上、継続する重要業務を絞ることが指摘されています。
(ウ) 重要な要素・資源の確保
新型インフルエンザ発生によって調達が困難になると予想される原材料があれば、取引先との協力体制を構築したり、当該原材料を備蓄したりするなどの対策が必要になります。また、多くの従業員が感染した場合に備えて、代替要員の確保体制を準備しておく必要があります。さらに、新型インフルエンザの影響により業務を停止した場合、免責となるかどうか約款を確認し、必要に応じて取引先と協議・見直しを行うことも必要になります。
ガイドラインでも、以下のような指摘がされています。
・ 新型インフルエンザ発生時、重要業務の継続に不可欠な要素・資源を洗い出し、あらかじめ確保する方策を講ずる。
・ 新型インフルエンザ発生時、多くの従業員が出勤困難又は不可能となる事態を想定して代替策を準備する。
・ 多数の従業員が長期間欠勤するケースを想定し、継続する重要業務を絞り込む。
・ 新型インフルエンザによる事業縮小などで法律上の問題が発生しないかどうかをあらかじめ確認する。
・ 新型インフルエンザによる業務停止の場合、免責となるか約款を確認し、必要に応じて取引先と協議・見直しを行う。
(エ) 人員計画の立案
従業員への感染防止策を講じるとともに、仮に従業員が感染しても代替要員が重要業務を継続できる人員計画を立てる必要があります。その方法として、時差出勤、在宅勤務制度、フレックスタイム制度の実施が考えられます。
ガイドラインでも、以下のような指摘がされています。
・ 取引事業者や補助要員を含む運営体制について、業務の性格に応じた検討を行い、対策を講ずるとともに、従業員等に対する教育・訓練を行う。
・ 早い段階で感染防止策を講じる。欠勤者数が増加する前に計画的に業務量を減少させる。
・ 人員計画に複数の班が交替勤務を行う班交代制(スプリットチーム制)等を採り入れ、発症していない従業員をチーム毎に計画的に自宅待機させる。その場合、万が一、就業している従業員の中から感染者がでたとしても、濃厚接触者を含めて休業させ、自宅待機していたチームが代替要員として就業することができる。
・ 新型インフルエンザ発生段階ごとの人員計画(従業員の勤務体制や通勤方法など)を立案する。従業員の感染リスクを下げるとともに、仮に従業員が感染しても代替要員が重要業務を継続することができる人員計画とすることが重要
新型インフルエンザ対策という点では予防接種が一番かもしれませんが、企業で働く年代の人の大半は予防接種を受けることができていない状況ですので、新型インフルエンザが大流行してしまう事態を想定して、企業として事前に対策を立てておくことが肝心です(田辺)。
参考:事業者・職場における新型インフルエンザ対策ガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/09.html