早いもので今年もあと10日足らずですね。今回は、インター
ネットにおける名誉毀損行為についての裁判例、改正特商法のポ
イントの解説などをお送りします。
1 裁判例紹介−東京高裁平成21年1月30日判決
インターネットにおける名誉毀損行為について、インターネット
の特性を重視せずに従来の基準を維持した裁判例をご紹介します。
2 改正特商法のポイント
平成21年12月1日に施行された改正特商法のポイントを解説
します。
3 お知らせ
■ KSPビジネスオーディション チャレンジ企業応援プロジェクト
KSPビジネスオーディション チャレンジ企業応援プロジェ
クトのご紹介です。
1 裁判例紹介−東京高裁平成21年1月30日判決
インターネットは、誰でも簡単に表現行為を行えるツールであり、
たとえ名誉を毀損するような記載がなされても、それに対して反論
をなしうるという特性があります。インターネットにおける名誉毀
損行為について、この特性が名誉毀損罪の成立に影響するのかが問
題になったのが、今回ご紹介する裁判例です。本件では、ラーメン
店を経営する企業とその関連団体に関する記事をインターネット上
に掲載した者(X)の名誉毀損罪の成否が問われました。
第一審の東京地裁(平成20年2月29日判決)は、(1)イン
ターネット上での表現行為の被害者は、名誉毀損的表現行為を知り
得る状況にあれば、インターネットを利用できる環境と能力がある
限り、容易に加害者に対して反論することができること、(2)個
人利用者がインターネット上で発信した情報の信頼性は一般的に低
いものと受け止められていることを根拠に、名誉毀損罪が成立する
基準を通常より厳格化し、『加害者が主として公益を図る目的のも
と、「公共の利害に関する事実」についてインターネットを使って
名誉毀損的表現に及んだ場合には・・・加害者が、摘示した事実が
真実でないことを知りながら発信したか、あるいは、インターネッ
トの個人利用者に対して要求される水準を満たす調査を行わず真実
かどうか確かめないで発信したといえるときにはじめて同罪に問擬
するのが相当』として、Xは自身が摘示した事実が真実でないこと
を知りながら発信したとも上記の調査をせず真実かどうか確かめな
いで発信したともいえないから、無罪であるとしました。
これに対し、控訴審の東京高裁(平成21年1月30日判決)は、
インターネットを使った個人利用者による情報に限って基準を厳格
化する考え方には賛同できないとしました。その理由として、東京
地裁が新基準の根拠とした(1)についてはインターネット上の情
報すべてを知ることは不可能であるから、自己の名誉を毀損する内
容の表現が存在することを知らない被害者に対して反論を要求する
こと自体不可能であるし、反論可能な被害者においても現実に反論
するまでは名誉を毀損する表現がインターネット上に放置されるこ
と、匿名加害者に対して有効適切な反論をするのが困難な場合があ
ること、(2)については個人利用者が発する情報だからといって、
必ずしも信頼性が低いとは限らないことを挙げています。
そして、東京地裁が定立した新基準は採用せず、Xを有罪とし、
罰金30万円の刑に処しています。
東京地裁は、反論が可能などのインターネットの特質から、イン
ターネットにおける表現行為について、名誉毀損罪の成立を狭める
方向での新たな基準を定立しましたが、東京高裁は、例外を認めま
せんでした。インターネットが広く普及している現状からすれば、
今後も同種の問題が起きることは十分予想されますので、参考にし
ていただければと思います(佐川)。
参考:刑法230条、230条の2
2 改正特商法のポイント
改正された「特定商取引に関する法律」(特商法)が、平成21
年12月1日に施行されました。改正のポイントを解説します。
ポイント1:規制対象の拡大
従来の特商法では、その規制対象を政令で定める「指定商品」
「指定権利」「指定役務」に限っていました。しかし、今回の改正
により、消費者保護のために原則として全商品、全役務が規制対象
となりました。
ポイント2:訪問販売規制の強化
特商法では、従来から訪問販売の勧誘に先だって、販売事業者名
や、販売する商品名、訪問販売目的であることを告げる必要があり
ましたが、今回の改正では、それに加え勧誘開始の段階で消費者に
勧誘を受ける意思があるかどかを確認することが努力義務化されま
した。さらに、「契約を締結しない旨」を表示している相手方に対
しては、社会通念に照らして相当と考えられる期間(扱う商品の季
節性やその契約から想定される一定の契約期間など)、勧誘の継続
や再度の来訪による勧誘が禁止されることとなりました。さらに、
特に高齢者に被害の多かった、いわゆる「過量販売」「次々販売」
(通常必要とされる量を著しく超える商品等の購入契約)について、
「親戚に配る」など特別な事情があった場合をのぞき、契約後1年
間は契約解除ができることとなりました。
ポイント3:インターネット取引等の規制の強化
特商法では、従来から通信販売の広告において、返品の可否・条
件・送料の負担等の返品特約を明記することが義務付けられてきま
したが、返品・交換に関するトラブルが多発してきたことから、返
品特約が表示されていない場合には、消費者が「商品」又は「権利」
を受領してから8日以内は売買契約の解除等ができることとなりま
した。ただし、訪問販売等のクーリング・オフとは異なり、返品の
ための送料は消費者負担となります。
また、消費者が予め承諾・請求しないかぎり、電子メール広告の
送信が原則的に禁止されました。
さらに、クレジットカード会社等に対して、クレジットカード情
報の保護のために必要な措置を講じることが義務付けられるととも
に、カード番号の不正提供・不正取得をした者等への刑事罰が明記
されました。
上記の他、違反事業者に対する罰則などが強化されています。今
回の改正は、従前から特商法の規制対象であると認識していた販売
業者にとっては格別に大きな改正ではないかもしれません。ただし、
消費者向けにインターネットを通じて情報サービスを提供してきた
場合など、特商法の規制対象が拡大したことにより、新たに特商法
上の「通信販売」に該当することとなった事業者もあるかもしれま
せん。特にインターネットを通じて、消費者向けにサービスを提供
してきた事業者は、改正された特商法をきちんとご確認いただきた
いと思います(鈴木理晶)。
参考:消費生活安心ガイド
http://www.no-trouble.jp/#top
※2013年現在の情報はこちらをご参照ください。
https://www.clairlaw.jp/qa/it/ec/cooling-off.html
3 お知らせ
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KSP(かながわサイエンスパーク)は、川崎市高津区という好ロケ
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寄り駅はJR南武線武蔵溝ノ口駅、東急田園都市線溝の口駅)。
当事務所も講演活動や入居ベンチャー企業への法律相談などを通じて、
KSPのベンチャー企業の創出、支援のお手伝いをさせていただいてお
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今回は、KSPビジネスオーディション チャレンジ企業応援プロジェ
クトをご紹介します。
本プロジェクトへの参加は、KSPがインキュベータとして長年にわ
たり築いてきたネットワークを利用した様々なメリットをもたらしてく
れると思います。
なお、本ご案内は、当事務所がKSPより募集案内情報を受領した上
で皆様に送信しておりますが、当事務所がKSPに対して皆様のメール
アドレス等の個人情報を提供することはなく、適切に皆様の個人情報を
管理しておりますのでご安心ください。
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■ KSPビジネスオーディション チャレンジ企業応援プロジェクトのご案内 ■
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▼応募書類・応募方法・審査日程など、詳細はホームページをご覧下さい
⇒ http://www.ksp.or.jp/
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お問合せ先
株式会社ケイエスピー 企画事業部
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電話 044-819-2001 メール incu@ksp.or.jp
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