冷たい雨が降る季節になってきました。体調に気をつけてがんばっていきましょう。さて、今回は、キムチについて「こくうま」という商標が認められた裁判例、中小企業承継事業再生計画の認定を使った第二会社方式による事業再生の方法をお送りします。
1 裁判例紹介−知財高裁平成21年7月21日判決
「その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」は商標として登録することができないとされていますが(商標法3条1項1号)、キムチについて「こくうま」という商標がこれにあたらないとされた事例を紹介します。
2 第二会社方式による中小企業の事業再生について
中小企業承継事業再生計画の認定を受けた第二会社方式のポイントと、認定を受けるための要件を解説します。
1 裁判例紹介−知財高裁平成21年7月21日判決
平成19年1月26日、東海漬物株式会社は、指定商品を「キムチ」として、特許庁から「こくうま」という商標登録を受けました。
これに対し、上記商標登録査定日(平成18年11月30日)よりも前から、「こく旨」と表記してキムチを販売してきたコーライ食品株式会社は、上記商標は「その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標」(商標法3条1項3号)であるとして、特許庁に対して、無効審判の請求をしました。
平成20年12月19日、特許庁がコーライ食品の無効審判の請求は成り立たない(つまり、有効な商標登録である。)と請求不成立の審決をしたため、コーライ食品が審決取消を知財高裁に求めたのが本件訴訟です。
知財高裁は、「こくうま」の語が国語辞典に掲載されていたことを認めるに足りる証拠はないから、「こくうま」の語は、日本語として一般的に用いられているとまでいうことはできず、食品の品質等を暗示ないし間接的に表示するものとはいえても、直接的に表示したものとまでいうことはできないこと、「こくうま」の表記はラーメン、カレー、コーヒー、惣菜の素などに用いられているものの、(すべて平仮名の)「こくうま」の表記がキムチに用いられた例が東海漬物の商品以外に存したとは認められないことなどから、「こくうま」の商標を「キムチ」に用いた場合、需要者、取引者には、「こくがあってうまい」というキムチの品質それ自体を表示するものと認識されるとまでいうことはできないから、本件商標が、その商品の品質を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標(商標法3条1項3号)に当たるとは認められないとして、コーライ食品の請求を棄却しました。
上記判決でも認められているとおり、「こくうま」との表記は、商標登録査定日においてラーメン、カレーなどでは用いられている表記です。そして、上記判決によれば、商標権者である東海漬物は平成17年6月21日に「肉製品、加工水産物、加工野菜及び加工果実、カレー、シチュー又はスープのもと」などを指定商品として「こくうま」の商標登録出願をし、平成18年1月24日付で特許庁から「本件商標を指定商品に使用しても、該商品が美味であることを理解させるにとどまるから、商標法3条1項3号に該当する」旨の拒絶理由通知を受けたため、指定商品を「キムチ」のみとする補正を行って、本件商標登録をしています。
特許庁や知財高裁の判断は、「他の食品が元々、コクと旨みの要素が重視される商品であるのと異なり、キムチは、本来的には辛さと旨みが主要な要素である」「キムチと他の加工食品は商品として異なるものである」などとして、ラーメンやカレーに「こくうま」と表記される場合と、キムチに「こくうま」と表記される場合では、需要者・取引者の受け取り方が異なることを前提としているようです(当事務所で議論した限りでは、果たして「こくうま」を構成する「こく」と「うまみ」に関して、キムチと他の食品をそこまで区別できるのかは意見が分かれました)。
本件訴訟を提起したコーライ食品の使用する「こく旨」の表記は、知財高裁により「こくうまの商標とは異なっている」と判断されていますし、先使用(商標法32条)も認められると思われますが、これから新しく「キムチ」を販売しようとする場合に「こくうま」の表示をすると、東海漬物の商標権を侵害することとなります。商標権の成立を広く認めすぎることは、適切な品質説明ができなくなることにもつながりかねないため、今回の判決については、評価が分かれることになりそうです(鈴木理晶)。
参考:商標法3条1項3号、32条
知財高裁平成21年7月21日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090727083556.pdf
2 第二会社方式による中小企業の事業再生について
平成21年6月22日に「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(産活法)が施行され、中小企業の事業再生の円滑化を目的として、「第二会社方式」による再生計画の認定制度が創設されました。
「第二会社方式」とは、財務状況が悪化している中小企業の収益性のある事業を会社分割や事業譲渡により切り出して他の事業者(第二会社)に承継させ、不採算部門は旧会社に残して特別清算等をすることにより事業の再生を図る手法です。
第二会社方式は実務上これまでも行われてきた手法ですが、一定の要件を満たして、中小企業承継事業再生計画の認定を受けた第二会社方式は、(1)営業上必要な許認可等を承継でき、(2)税負担の軽減措置を受けることができ、(3)金融支援を受けることができる点が今回の認定制度創設のポイントです。
(1)営業上必要な許認可等を承継
第二会社が営業上の許認可を再取得する必要がある場合、旧会社が保有していた事業に係る許認可を第二会社が承継できます。
旧会社と第二会社とは別法人格ですので、許認可は承継されないのが原則ですが、そうすると再取得に手間がかかり、事業が円滑に承継できなくなってしまいます。そこで、特例として、許認可等の承継が認められました。
但し、承継の対象となる許認可は、旅館業の許可、一般建設業の許可、特定建設業の許可等に限られています。
(2)税負担の軽減措置
第二会社を設立した場合等の登記に係る登録免許税、第二会社に不動産を移転した場合に課される登録免許税及び不動産取得税が軽減されます。
(3)金融支援
第二会社が必要とする事業を取得するための対価や設備資金など新規の資金調達が必要な場合、日本政策金融公庫の低利融資(設備資金及び運転資金を低利で融資)、中小企業信用保険法の特例(普通保険、無担保保険、特別小口保険に同額の別枠を設けることができる)、中小企業投資育成株式会社法の特例(設立の際に発行される株式の引受けなどの支援を受けられる)といった金融支援を受けられます。
中小企業承継事業再生計画の認定を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
(ア)過大な債務を負っていること等によって財務の状況が悪化していること(産活法2条21項)
(イ)中小企業承継事業再生による事業の強化(同3条2項9号)
(ウ)中小企業承継事業再生の実施方法(同3条2項9号)
既存又は新設する事業者への吸収分割又は事業譲渡、及び新設分割により特定中小企業者から承継事業者へ事業を承継するとともに、事業の承継後、特定中小企業者を清算するものであること
(エ)中小企業承継事業再生が円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること(同39条の2第4項2号)
・ 公正な債権者調整プロセスを経ていること
・ 第二会社の事業実施における資金調達計画が適切に作成されていること
・ 営業に必要な許認可について、第二会社が保有又は取得する見込みがあること
(オ)特定中小企業者の経営資源が著しく損失されるものでないこと(同39条の2第4項3号)
承継される事業に係る従業員の概ね8割以上の雇用を確保(承継時点)
(カ)従業員の地位を不当に害するものでないこと(同39条の2第4項4号)
労使間で計画の主たる目的が従業員の削減でないか承継事業の選定が恣意的でないか等について十分な話合いが行われること
(キ)取引先の相手方事業者の利益を不当に害するものでないこと(同39条の2第4項5号)
取引先企業への配慮(旧会社の取引先企業の売掛債権を毀損させないこと)
特定中小企業者の承継事業に係る売掛債権について、当該売掛債権が承継されないことについて同意を得ているものを除き、承継事業者に承継されていること
本認定制度において承継が認められる許認可事業を行っている会社や、多くの不動産を第二会社に承継しなければならない会社など、前述の3つの支援措置を活用できるケースでは、本認定制度を利用すると効果的です(新妻)。
参考:産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法
2条21項、3条2項9号、39条の2第4項2号ないし5号
2 第二会社方式による中小企業の事業再生について
平成21年6月22日に「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法」(産活法)が施行され、中小企業の事業再生の円滑化を目的として、「第二会社方式」による再生計画の認定制度が創設されました。
「第二会社方式」とは、財務状況が悪化している中小企業の収益性のある事業を会社分割や事業譲渡により切り出して他の事業者(第二会社)に承継させ、不採算部門は旧会社に残して特別清算等をすることにより事業の再生を図る手法です。
第二会社方式は実務上これまでも行われてきた手法ですが、一定の要件を満たして、中小企業承継事業再生計画の認定を受けた第二会社方式は、(1)営業上必要な許認可等を承継でき、(2)税負担の軽減措置を受けることができ、(3)金融支援を受けることができる点が今回の認定制度創設のポイントです。
(1)営業上必要な許認可等を承継
第二会社が営業上の許認可を再取得する必要がある場合、旧会社が保有していた事業に係る許認可を第二会社が承継できます。
旧会社と第二会社とは別法人格ですので、許認可は承継されないのが原則ですが、そうすると再取得に手間がかかり、事業が円滑に承継できなくなってしまいます。そこで、特例として、許認可等の承継が認められました。
但し、承継の対象となる許認可は、旅館業の許可、一般建設業の許可、特定建設業の許可等に限られています。
(2)税負担の軽減措置
第二会社を設立した場合等の登記に係る登録免許税、第二会社に不動産を移転した場合に課される登録免許税及び不動産取得税が軽減されます。
(3)金融支援
第二会社が必要とする事業を取得するための対価や設備資金など新規の資金調達が必要な場合、日本政策金融公庫の低利融資(設備資金及び運転資金を低利で融資)、中小企業信用保険法の特例(普通保険、無担保保険、特別小口保険に同額の別枠を設けることができる)、中小企業投資育成株式会社法の特例(設立の際に発行される株式の引受けなどの支援を受けられる)といった金融支援を受けられます。
中小企業承継事業再生計画の認定を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
(ア)過大な債務を負っていること等によって財務の状況が悪化していること(産活法2条21項)
(イ)中小企業承継事業再生による事業の強化(同3条2項9号)
(ウ)中小企業承継事業再生の実施方法(同3条2項9号)
既存又は新設する事業者への吸収分割又は事業譲渡、及び新設分割により特定中小企業者から承継事業者へ事業を承継するとともに、事業の承継後、特定中小企業者を清算するものであること
(エ)中小企業承継事業再生が円滑かつ確実に実施されると見込まれるものであること(同39条の2第4項2号)
・ 公正な債権者調整プロセスを経ていること
・ 第二会社の事業実施における資金調達計画が適切に作成されていること
・ 営業に必要な許認可について、第二会社が保有又は取得する見込みがあること
(オ)特定中小企業者の経営資源が著しく損失されるものでないこと(同39条の2第4項3号)
承継される事業に係る従業員の概ね8割以上の雇用を確保(承継時点)
(カ)従業員の地位を不当に害するものでないこと(同39条の2第4項4号)
労使間で計画の主たる目的が従業員の削減でないか承継事業の選定が恣意的でないか等について十分な話合いが行われること
(キ)取引先の相手方事業者の利益を不当に害するものでないこと(同39条の2第4項5号)
取引先企業への配慮(旧会社の取引先企業の売掛債権を毀損させないこと)
特定中小企業者の承継事業に係る売掛債権について、当該売掛債権が承継されないことについて同意を得ているものを除き、承継事業者に承継されていること
本認定制度において承継が認められる許認可事業を行っている会社や、多くの不動産を第二会社に承継しなければならない会社など、前述の3つの支援措置を活用できるケースでは、本認定制度を利用すると効果的です(新妻)。
参考:産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法
2条21項、3条2項9号、39条の2第4項2号ないし5号
「中小企業の再生を応援します」(中小企業庁)