今回は、賃貸借契約における更新料の定めの有効性に関する裁判例、下請法の運用状況の解説をお送りします。
1 裁判例紹介−京都地裁平成20年1月30日判決(更新料返還等請求事件)
賃貸借契約における更新料の特約の有効性がニュース等で話題になっているのを最近よく目にしますが、これについて判断した裁判例を紹介します。
2 下請法の運用状況について
近年、勧告・公表の対象となる下請法の違反行為は増加傾向にありますが、公正取引委員会が発表した平成20年度における同法の運用状況をお知らせします。
1 裁判例紹介−京都地裁平成20年1月30日判決(更新料返還等請求事件)
本件は、賃借人と、不動産賃貸を事業として営む賃貸人の間の建物賃貸借契約(賃料月4万5000円、契約期間1年、更新料10万円)が5回、合意更新され、更新料各10万円が支払われ、解約によって賃貸借契約が終了した後に、賃借人が賃貸人に対して、更新料の特約が消費者契約法10条により無効であると主張して、更新料の返還等を求めた事案です。
争点は、本件建物賃貸借契約における更新料の特約は、消費者契約法10条により無効か否かです。
裁判所は、本件更新料の特約は,更新料が賃料の前払いの性質を有し、賃料後払いを定める民法614条本文に比べて賃借人の義務を加重しているから、消費者契約法10条前段の定める「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であ...るもの」という要件を満たすとしつつ、更新料の金額が過大ではないこと、更新料の内容は明確で、賃貸人から賃借人に対して更新料について説明がなされており、賃借人に不測の損害をもたらすものではないこと、更新料は賃借権強化の対価としての性質を有していることを考慮すると、消費者契約法10条後段の定める「民法第1条第2項に規定する基本原則(信義誠実の原則)に反して消費者の利益を一方的に害するもの」とはいえず、消費者契約法10条により無効とはいえないとしました。
更新料の特約が有効であるとする見解は、更新料の特約が消費者契約法10条前段に該当するとしつつも、当該特約内容の明確性や当該更新料の金額が過大ではないことなどを理由に同条後段に該当しないとするものであり、多くの裁判例もこのような見解に立っています。
しかし、近時、更新料の特約を無効と判断した判決が出され、注目されています。
京都地判平成21年7月23日は、更新料の特約が消費者契約法10条前段に該当するとした上で、更新料には賃貸借強化の性質があるとの被告の主張に合理的理由はなく、被告主張の更新料の趣旨は不明確であること、賃借人は更新料の趣旨について明確な説明を受けていないため、賃借人は更新料の特約の内容を明確に認識して合意したわけではないことを理由として、更新料の特約が消費者契約10条後段にも該当し、無効であると判示し、請求を全部認容しました。
また、本件判決の控訴審である大阪高判平成21年8月27日も、更新料の特約が無効であるとして、更新料等45万円の返還を命じる判決をしています。賃貸人側が上告したようですので、最高裁の判断が待たれるところです(田辺)。
参考:消費者契約法10条
民法1条2項 614条
京都地裁平成20年1月30日判決
大阪高判平成21年8月27日(asahi.comより)
2.下請法の運用状況について
下請代金支払遅延等防止法(下請法)は、下請取引の公正化を図るとともに下請事業者の利益を保護することを目的として、親事業者の義務と禁止行為を定めています(詳細は、当事務所News Letter vol38、vol39をご覧下さい)。
下請法違反行為は、行政機関(公正取引委員会・中小企業庁)が定期的に行なう書面調査や、下請事業者からの申告等によって発見されます。下請法違反に特徴的なのは、独禁法違反や景表法違反と異なり、申告により発見される割合が非常に低い(平成20年度では4.6%)ということです。下請事業者は親事業者への依存度が高く、積極的に申告しづらいという事情があるためと考えられます。公正取引委員会は下請法の運用を強化しており、勧告・公表の対象となる違反行為は増加傾向にあります。公正取引委員会が発表した平成20年度における運用状況は以下のとおりです。
(1)下請法違反行為に対する処理状況
下請法違反行為があった場合に公正取引委員会がとりうる措置として、勧告(下請法7条)と警告があります。
勧告は、公正取引委員会が違反行為を取り止めて原状回復させること(減額分や遅延利息の支払い等)を求めるとともに、再発防止などの措置を実施するよう求める行政指導です。勧告が行われた場合、原則として会社名とともに、違反事実の概要、勧告の概要が公表されます。
警告は、勧告に至らない事案について、親事業者に対して改善を強く求め、下請法の遵守を促すことです。
平成20年度には、勧告が15件、警告が2,949件行われました。勧告の件数は、平成16年4月の改正下請法の施行以降最多の件数となっています。勧告が行われた15件のうち、14件は下請代金の減額事件、1件は購入強制事件でした。
(2)違反行為の類型
平成20年度に勧告・警告が行われた事件を行為類型別にみると、発注書面の交付義務等を定めた手続規定違反(下請法3条又は5条違反)が67.9%、親事業者の禁止行為を定めた実体規定違反(下請法4条違反)が32.1%となっています。
実体規定違反の行為類型別内訳としては、下請代金の支払遅延が63%、手形期間が120日(繊維業の場合は90日)を超える長期手形等の割引困難なおそれのある手形の交付が16.1%、下請代金の減額が7.1%等となっています。
(3)下請代金の減額分の返還及び下請代金の支払遅延利息の支払状況
勧告又は警告が行われた下請代金の減額事件では、下請事業者2,022名に対し、総額29億5133万円の減額分が親事業者(50社)から返還されました。
また、勧告又は警告が行われた下請代金の支払い遅延事件では、下請事業者1,456名に対し、総額2億3481万円の遅延利息が親事業者(39社)から支払われました。
減額分返還、遅延利息支払ともに、年度総額は、改正下請法施行以降最多となっています。
(4)下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者に係る事案
公正取引委員会が調査に着手する前に違反行為を自発的に申し出、かつ、自発的な改善措置を採っているなどの事由が認められる事案について、公正取引委員会は、下請事業者の利益を保護するために必要な措置を採ることを勧告するまでの必要はないものとしました。そして、今後、当該事案と同様に、(ア)公正取引委員会が当該違反行為に係る調査に着手する前に違反行為を自発的に申し出ている、(イ)当該違反行為を既に取り止めている、(ウ)当該違反行為によって下請事業者に与えた不利益を回復するために必要な措置を既に講じている、(エ)当該違反行為を今後行わないための再発防止策を講じることとしている、(オ)当該違反行為について公正取引委員会が行う調査及び指導に全面的に協力している、といった事由が認められた場合には、親事業者の法令遵守を促す観点から同様の扱いをすることとし、その旨を公表しました(平成20年12月17日)。
平成20年度において、このような取扱いを行った事案は2件あり、いずれも下請代金の減額事件でした。
公正取引委員会・中小企業庁は、下請法の周知徹底を図るとともに下請法の運用を強化しています。親事業者・下請事業者ともに、下請法違反の事実に気づかずに取引を行っている場合もあると思われます。改めて契約書・発注書面や取引の実態をチェックしてみてはいかがでしょうか(新妻)。
参考:下請法3条、4条、5条、7条
平成20年度における下請法の運用状況及び企業間取引の公正化への取組
(公正取引委員会)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/09.may/09052701.pdf
下請法違反行為を自発的に申し出た親事業者に係る事案(公正取引委員会)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.december/081217.pdf
Clair Law firm ニュースレター vol.38
?eid=67835
Clair Law firm ニュースレター vol.39
?eid=67833