シルバーウイークの5連休 どのように過ごされたでしょうか? 「ゴールデン」ウイークに耳が慣れているので、「シルバー」ウイークで正しいの?と思って調べてみたら、金属を表す名詞はたいてい形容詞を兼ねていてGOLDが例外でした。
さて、今回は、知的財産権に関する2つの裁判例(商標、特許権)をご紹介します。
1 裁判例紹介−知財高裁平成21年2月24日判決
特許庁がした商標登録取消審決を裁判所が取り消した事例を紹介します。
2 裁判例紹介−知財高裁平成19年10月31日判決
自社の競争相手の取引先に対して、競争相手が販売している商品が自社の特許権を侵害しているとして、販売禁止の仮処分を申立てた行為が、不法行為(民法709条)にあたるとして、仮処分によって損害を蒙った競争相手へ賠償を命じた裁判例を紹介します。
1 裁判例紹介−知財高裁平成21年2月24日判決
特許庁がした商標登録取消審決を裁判所が取り消した事例をご紹介します。
平成20年8月18日、特許庁は、「ELLE」の商標を用いているフランス法人からの求めに応じ、「ELLEGARDEN(エルレガーデン)」という音楽バンドの商標登録について、商標法51条1項に基づき、不正使用を理由とする取り消しの審決をしました。
特許庁は、「ELLEGARDEN」の商標権者が販売したCDに、バンド名を「ELLE」と「GARDEN」の2段に分け、かつ、「ELLE」の文字を「GARDEN」の文字よりも大きく記載している表示(本件表示)が、「ELLE」の商標を付した商品とその出所について混同を生ずることを認識しながら故意にその使用を行ったと認定したのです。
本件は、この特許庁による審決を不服として、商標登録取消審決の取り消し、すなわち「ELLEGARDEN」の商標登録の復活を認めた事案です。
商標法51条1項は、商標権者が、故意に、登録商標に類似する商標の使用等をして、他人の業務に係る商品又は役務と混同を生じさせる行為等をしたときは、何人も、その商標登録の取消しの審判を請求できる、と規定しています。
裁判所は、まず、この商標法51条1項にいう「商標の使用であって…他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるもの」に当たるためには、使用に係る商標が他人の商標と類似するというだけでは足りず、その具体的表示態様が他人の業務に係る商品等との混同を生じさせるおそれが必要、との基準を示しました。
その上で、本件表示そのものは「ELLE」の商標と類似すると認めましたが、本件表示がバンドのメンバーの氏名や「DON’T TRUST ANYONE BUT US」というコンパクトディスクの表題の記載と併せて表示されていることや、背表紙には「ELLEGARDEN」というアルファベット表示が1行に並んで横書きされていることなどの具体的表示態様から、「ELLEGARDEN」がバンド名であることを知っている需要者はもちろん、これを知らない需要者であっても、本件表示が「ELLE」ブランドと何らかの関係を有するものと誤認混同するおそれはないとし、取消審決を取り消しました。
「ELLEGARDEN」の標章に関しては、以前にも「ELLE」と「GARDEN」を一体としてみるべきであるとして、「ELLE」の商標権者であるフランス法人からの標章使用差止請求が知財高裁で否決された例をご紹介しました(Clair Law firm ニュースレター vol.27)。これに対して、本事案ではそもそも「ELLE」と「GARDEN」を2段に分け、かつ「ELLE」の文字を大きくして表示しており、そもそも一体とは見ることのできない表示方法を使用しています。
本判決では、具体的表示態様から「誤認混同するおそれはない」との結論になりましたが、一旦は特許庁の商標登録取消処分を受けてしまった損失ははかり知れません。やはり、そもそも紛争の元となるような不用意な表示をするべきではなかったといえるでしょう(鈴木理晶)。
参考:商標法51条1項
知財高裁平成21年2月24日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090225093437.pdf
Clair Law firm ニュースレター vol.27
?day=20080813
2 裁判例紹介−知財高裁平成19年10月31日判決
自社の競争相手の取引先に対して、競争相手が販売している商品が自社の特許権を侵害しているとして販売禁止の仮処分を申立てた行為が、不法行為(民法709条)にあたるとして、仮処分によって損害を蒙った競争相手へ賠償を命じた裁判例を紹介します。
裁判所に民事訴訟や仮処分を申立てることは、憲法によって保証された「裁判を受ける権利」(憲法82条)の行使ですから、この権利の行使が萎縮することがないように、不法行為に該当するかどうかは慎重に判断されなければなりません。
最高裁判所は、不当な民事訴訟に関する事案において、このような観点から「訴えの提起は、提訴者が当該訴訟において主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものである上、同人がそのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのにあえて提起したなど、裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く場合に限り、相手方に対する違法な行為となる。」と判断し、これがリーディングケースとなっています(最高裁昭和63年1月26日判決)。
裁判所は、本件において、仮処分の申立(民事訴訟でなく)についても、「仮処分の申立てにおいて、債権者がその主張する権利又は法律関係が、事実的、法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たのに、あえて販売禁止等の仮処分を申立てた場合には、同仮処分の申立ては違法な行為として不法行為を構成する」とし、さらに、「仮処分申立てにおいて、債権者の主張した権利又は法律関係が、事実的、法律的根拠を欠くものであることを、通常人であれば容易に知りえたものとまでいえない場合であっても、権利の行使に藉口して、競業者の取引先に対する信用を毀損し、市場において優位に立つこと等を目的として、競業者の取引先を相手方とする仮処分申立てがされたような事情が認められる場合には、同仮処分の申立ては違法な行為として不法行為を構成する。」と判示しました。
そして、本件では、本件仮処分申立て前に、特許明細書の記載を検討すれば、実施可能要件違反の無効理由が存在することを容易に知りえたこと、通常必要とされる事実調査を行えば、進歩性欠如の無効理由が存在することも容易に知りえたことを認定しました。
さらに、本件仮処分申立てに至る具体的な事情として、(1)競争者(本件原告)のどの商品が、仮処分申立人(本件被告)の有するどの特許権をどのように侵害しているか何ら指摘することなく、ライセンス契約を締結するように求めていた仮処分申立人の態度、(2)仮処分の相手方である競争者の取引先に対して、事前に警告等の措置を行った形跡がみとめられないこと、(3)完成品を仕入れて一般消費者に販売する業態を採用している量販店に対して仮処分を申立てれば、量販店は直ちに販売を中止するであろうことは十分に予測できたこと等を認定し、これらの事情に照らせば、「本件仮処分申立ては、特許権侵害に基づく権利行使という外形を装っているものの、競争者の取引先に対する信用を毀損し、契約締結上優位に立つこと等を目的とした行為であり、著しく相当性を欠く」として、不法行為が成立すると判断し、約2000万円の損害賠償を認めました。
このように、不正競争防止法上の信用毀損行為に該当しない場合でも、根拠もなく法的手段を用いることが民法上の不法行為と判断される場合がありますので、注意が必要です(新妻)。
参考:不正競争防止法2条1項14号
憲法82条
民法709条
知財高裁平成19年10月31日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20071031171213.pdf
最高裁昭和63年1月26日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/1840F341FE86D87549256A8500311F02.pdf