今回は、一人株主兼代表取締役の任務懈怠に基づく損害賠償責任は当然に免除されるかについて判断した裁判例、従業員が裁判員に選任された場合の休暇等に関する就業規則や社内規程の整備のポイント、補助金・助成金等活用研究会<シリーズ1>のご案内、および政府がリリースした日本法令外国語翻訳データベースについてお送りします。
1 【裁判例紹介】−東京地裁平成20年7月18日判決
一人株主が代表取締役に就任している場合、その一人株主兼代表取締役の任務懈怠に基づく損害賠償責任は当然に免除されるのかが争点となった裁判例をご紹介します。
2 【解 説】−裁判員制度と就業規則(第2回)
平成21年5月21日から裁判員制度が始まりました。従業員が裁判員に選任された場合に備えた就業規則や社内規程の整備のポイントを2回に分けて解説します。
3 補助金・助成金等活用研究会<シリーズ1>のご案内
SBC国際コンサルタンツグループが実施している研究会をご案内します。シリーズ1第1回(平成21年6月18日)は、タイムクリック株式会社代表取締役であり中小企業診断士の澤村智裕先生を講師・コーディネーターにお迎えします。
4 日本法令外国語翻訳データベースのご案内
本年4月1日からインターネット・Webサイトで公開されている日本法令外国語翻訳データベースをご案内します。
1 【裁判例紹介】−東京地裁平成20年7月18日判決
本件は、原告ら(株式会社2社)が、被告に対し、取締役の任務懈怠に基づく損害賠償を求めた事案です。
被告は、従前、原告らの代表取締役でしたが、その当時、原告らの全株式を保有していました。
そこで、(1)一人株主が代表取締役に就任している場合に、その一人株主兼代表取締役について、任務懈怠に基づく損害賠償義務が発生するのか、(2)任務懈怠に基づく損害賠償義務が発生するとして、当然に取締役の責任が免除されるのか、という2点が争点になりました。
裁判所は、まず、(1)の点について、「会社の全株式を一人の株主が保有する一人会社において、当該株主が代表取締役に就任している場合であっても、当該株主兼代表取締役は、法人格が会社と別個であるから、任務に違背して会社に損害を加えたときは、会社に対する損害賠償義務が発生するというべきであり、一人会社であることによって、当然に上記損害賠償義務が発生しないと解することはできない。」として、被告に、原告らに対する損害賠償義務が発生したと判断しました。
次に、(2)の点について、「旧商法266条5項は、総株主の同意がある場合でなければ、取締役の会社に対する責任を免除することができないと規定しており、会社が取締役に対し上記責任を免除する旨の意思表示をする場合、当該意思表示が効力を発生するためには、総株主の同意が必要であると定めているのであり、取締役の任務違背により会社に対する損害賠償義務が発生した場合、これが消滅するためには、総株主の同意、免除の意思表示の2個の要件を具備することが必要である。」という規範を定立し、「本件においては、黙示的にも...免除する旨の意思表示がされた事実...を認めるに足りる何らの証拠もな...い」と事実認定し、被告の取締役としての責任は消滅していないとして、原告らの損害賠償請求を認容しました。
本判決は、旧商法266条5項(現行の会社法424条)につき、同条項の「免除」が、会社の取締役に対する責任免除の意思表示を意味すると解釈し、責任免除の効力が発生するためには、この会社の意思表示と総株主の同意とが必要になることを規定した条文であると解釈しているようです。
ただし、会社法425条、426条については、会社の取締役に対する意思表示ではなく株主総会決議等の一定の手続により責任の減免の効力が生じると解されています。これにひきつけて考えれば、旧商法266条5項(現行の会社法424条)についても、取締役の責任消滅の要件としては総株主の同意があれば足り、会社の取締役に対する免除の意思表示を要しないと解釈することも可能です。控訴がなされているようですので、高裁が異なる判断をする可能性もあります。
実務的には、一人会社の代表取締役が責任を免れるためには、総株主として同意を行い、かつ、会社として免除の意思表示までしておくことが必要となるでしょう(田辺)。
参考:旧商法266条5項
会社法424条、425条、426条
2 【解 説】−裁判員制度と就業規則(第2回)
従業員が裁判員に選任された場合の休暇等に関する就業規則や社内規程の整備のポイントを2回に分けて解説します。
第2回は、裁判員候補者に選任された場合の報告手順の確立などについてです。
(1) 裁判員候補者に選任された場合の報告手順の確立
従業員が裁判員候補者名簿に記載された場合、記載されたとの通知は本人のみに送付され、会社は当該従業員からの報告がなければこれを知りえません。よって、その報告を従業員に求めることは許されると考えられます(最高裁ホームページ)。
会社は、当該従業員から報告を受けた上で、業務上の支障の有無・内容を協議します。この時、会社が業務上の支障があると考えても、当該従業員の意思に反してその旨を調査票に記載するよう命令することは、労働基準法7条の趣旨から問題があると思われますので注意が必要です。
その後、呼出状が送付された場合、従業員に呼出状を受領した旨を届け出るよう義務付け、裁判員等に選任された場合に職務に従事することとなる予定期間内における業務上の支障の有無を確認します。
なお、裁判所は、辞退事由の有無について的確な判断をするために必要なときは、裁判員候補者に対して資料の提出を求めることができますので、従業員がこの資料を求めてきた場合、会社としてどのような資料を用意できるかも事前に検討しておくとよいでしょう。
(2) 裁判員休暇の取得
裁判員休暇制度を設置した場合、具体的な休暇申請の方法を定めます。
休暇申請の際、申請の正当性を確認するため、呼出状の写しを提出させるとよいでしょう。
なお、申請する日数を具体的日数で明記するのは困難と思われますので、「対象事件の裁判員等選任手続期日から裁判員候補者又は裁判員等としての任務が終了した日まで」などと規定することも考えられます。
また、裁判員等選任手続に出頭したが不選任となったなど、半日程度で任務が終了した場合、手続当日の午後からの出勤を求めるのか、翌日からの出勤を求めるのかなどの事項についても定めておくとよいでしょう。
(3) 裁判員等選任手続及び公判手続当日の報告手続について
実際に選任されたか否かについての報告を従業員に求めることは許されます。
裁判所は、裁判員候補者として裁判員等選任手続の期日に出頭したり、裁判員として職務に従事したことについて、本人の求めに応じて証明書を発行しますので(最高裁ホームページ)、証明書の発行申請と証明書の会社への提出を義務付けるとよいでしょう。
(4) 情報管理体制の確立
裁判員等や裁判員候補者に選任・選定された人の氏名、住所などの個人を特定するに足りる情報の公表は禁止されています(裁判員の参加する刑事裁判に関する法律(裁判員法)101条)。これを全社的に徹底させることが必要です。
また、担当者が従業員から報告を受ける場合を除き、被告事件に関し、裁判員等や選任予定裁判員に接触してはならない旨も徹底し、報告事項についても最低限の事項に留めるべきです。
(5) 不利益取り扱いの禁止
最後に、労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことや裁判員等であることまたはあったことを理由として解雇その他の不利益な取り扱いをすることは裁判員法100条で禁止されています。就業規則にその旨を明示しておかれるとよいでしょう(佐藤)。
参考:労働基準法7条、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律
100条、101条
最高裁ホームページ「裁判員制度」
http://www.saibanin.courts.go.jp/
裁判員候補者に選ばれたことの会社への報告について
http://www.saibanin.courts.go.jp/qa/c3_22.html
裁判所に出頭していたこと等の証明書の発行について
http://www.saibanin.courts.go.jp/qa/c7_7.html
Clair Law firm ニュースレター vol.46
【解 説】裁判員制度と就業規則(第1回)
3 補助金・助成金等活用研究会<シリーズ1>のご案内
厳しい経済環境の中、成長ポテンシャルを有する企業の資金調達手段として補助金、助成金等が改めて注目されています。
SBC国際コンサルタンツグループは、「真の成長企業を育てるための」実践的な補助金、助成金等の活用方法について、3つのシリーズに分けて研究会を実施しています。シリーズ1第1回(平成21年6月18日)は、タイムクリック株式会社代表取締役であり中小企業診断士の澤村智裕先生を講師・コーディネーターにお迎えします。
4 日本法令外国語翻訳データベースのご案内
法令の外国語訳事業は、国民の活動がグローバル化する中で、対日投資の促進や国際取引の円滑化の基盤となるものとして、政府が取り組んできたものです。本年4月1日からインターネット・Webサイトで公開されていますので、ご利用ください。
URLは、 http://www.japaneselawtranslation.go.jp/ です。