今回は,雇用保険法等の一部を改正する法律の解説,フルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約中のユーザーについて民事再生手続開始の申立てがあったことを契約の解除事由とする特約の効力が争われた裁判例の紹介をお送りします。
1 【解 説】「雇用保険法等の一部を改正する法律」(平成21年3月31日一部施行)の概要
厳しい雇用情勢を踏まえ,非正規労働者に対するセーフティネット機能及び離職者に対する再就職支援機能の強化を重点とした「雇用保険法等の一部を改正する法律」が,本年3月31日に一部施行されました。
(1) 雇用保険の適用範囲の拡大
従来は,短時間労働者及び派遣労働者の雇用保険の適用基準は,「1年以上の雇用見込みがあること」及び「1週間あたりの所定労働時間が20時間であること」でした。
今回の改正により,上記の「1年以上」の部分は「6カ月以上」に変更されました。
したがって,平成21年4月1日以降に改正後の適用基準を満たす労働者を雇い入れた場合,雇用した日の属する月の翌月10日までに,職業安定所に対して当該労働者に係る雇用保険被保険者資格取得届を提出しなければなりません。
また,平成21年4月1日より前から勤務している労働者であっても,改正後の適用基準を満たすこととなっている場合,やはり雇用保険被保険者資格取得届を公共職業安定所に提出しなければならない点にもご注意ください。
なお,「6カ月以上の雇用見込みがあること」とは,「6カ月以上の期間を定めて雇用される場合」のほか,「6カ月未満の期間を定めて雇用される場合」であっても,雇用契約において更新規定がある場合や,雇入れの目的や過去の同様の契約からみて契約を更新して6カ月以上雇用されることが見込まれる場合,雇入れ後6カ月以上引き続き雇用された場合(その後6カ月間において離職することが確実な場合を除く。)も含まれます。
(2) 雇用保険料率の引下げ
従来,失業保険給付に係る雇用保険料率は,一般の事業の場合,労働者負担0.6%,事業主0.6%の合計1.2%とされていました。
今回の改正では,雇い控えの動機づけになることを避ける趣旨で,平成21年度に限り,この失業保険給付に係る雇用保険料率が0.4%引下げられ,労働者負担0.4%,事業主負担0.4%の合計0.8%となります。
(3) 雇止めとなった非正規労働者に対する基本手当の受給資格要件の緩和
期間の定めのある労働契約の期間が満了し,かつ,当該労働契約の更新がないために離職した場合(当該離職者が当該更新を希望したにもかかわらず,当該更新についての合意が成立するに至らなかった場合に限ります。)や,心身の障害,親族の看護の必要など正当な理由のある自己都合により離職した場合,「特定理由離職者」として,離職日以前の1年間に被保険者期間が通算して6カ月以上あれば,基本手当(いわゆる失業保険)の受給資格要件を満たすようになりました。
従来は,倒産・解雇等の理由により再就職の準備をする時間的余裕がなく離職を余議なくされた離職者である「特定受給資格者」に該当しないかぎり,基本手当の支給を受けるためには,離職以前2年間に12カ月以上の被保険者期間が必要とされていました。今回の改正により,上記の「特定理由離職者」は「特定受給資格者」と同程度に基本手当の支給を受けやすくなりました。
「特定受給資格者」や「特定理由離職者」は,基本手当の支給期間や離職後3カ月の給付制限期間の有無の点で通常の離職者と比べて優遇されます。
(4) 再就職支援
解雇や労働契約が更新されなかったことによる離職者等について,45歳未満である場合や厚生労働大臣により雇用機会が不足している地域として指定された地域に居住する場合,公共職業安定所で知識,技能,職業経験その他の実情を勘案して再就職支援を計画的に行う必要があると認められた場合には,原則として給付日数が60日間延長されます。
また,早期に再就職した場合に支給される「再就職手当」の支給要件・給付率も引き上げられました。
平成22年4月1日からは,育児休業給付についても,休業中と復帰後に分けて支給している給付を統合し,全額を休業期間中に支給することとなっています。
我が国は,既にGDPの160%もの借金を抱えているのに,このような政策をとって大丈夫?という気もしますが,貧困問題が深刻になるとともに,全体の6割弱を担う個人による消費が冷え込むほうが景気への影響も大きいと考えるのでしょう。
事業主は,今回の改正で新たな被保険者としての資格を取得した労働者について雇用保険被保険者資格取得届の公共職業安定所への提出を怠ることのないよう十分にご注意ください(鈴木理晶)。
参考:雇用保険法等の一部を改正する法律
厚生労働省:雇用保険法等の一部を改正する法律の概要
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/03/dl/h0330-6a.pdf
2 裁判例紹介−最高裁平成20年12月16日判決
賃貸借契約,リース契約を含めた多くの契約は,当事者の一方が民事再生の申立を行った場合,他方の当事者が当該契約を解除できるとの解除事由を定めているのが通例です。
しかしながら,今回ご紹介する最高裁判決は,「いわゆるフルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約中の,ユーザーについて民事再生手続開始の申立てがあったことを契約の解除事由とする旨の特約は,無効である。」としました。
その理由について,最高裁は,「民事再生手続きの趣旨,目的に反する」からとしています。
すなわち,民事再生手続は,経済的に窮境にある債務者について,その財産を一体として維持し,全債権者の多数の同意を得るなどして定められた再生計画に基づき,債務者と全債権者との間の民事上の権利関係を調整し,債務者の事業又は経済生活の再生を図るものであり(民事再生法1条参照),担保の目的物も民事再生手続の対象となる責任財産に含まれます。
ファイナンス・リース契約におけるリース物件は,リース料が支払われない場合には,リース業者においてリース契約を解除してリース物件の返還を求め,その交換価値によって未払リース料や規定損害金の弁済を受けるという担保としての意義を有するものですが,同契約において,民事再生手続開始の申立てがあったことを解除事由とする特約による解除を認めることは,このような担保としての意義を有するにとどまるリース物件を,一債権者と債務者との間の事前の合意により,民事再生手続開始前に債務者の責任財産から逸出させ,民事再生手続の中で債務者の事業等におけるリース物件の必要性に応じた対応をする機会を失わせることを認めることになります。よって,民事再生手続の趣旨,目的に反することは明らかというべきであると述べています。
つまり,問題となっているリース物件がなくなれば,民事再生がうまくいかなくなるかもしれないことから(少なくとも争っていることから,このリース物件が事業再生に重要なものと考えられます。),解除は認めないとしているようです。
この最高裁判決の解釈の仕方によっては,契約に解除事由等として「民事再生の申立」を入れることが無意味ではないかとも思われるかもしれません。
しかし,本件が事業の再生に必要なリース物件に関するものであり,フルペイアウト方式によるファイナンス・リース契約以外の場合については,この判決はなにも言っておらず,そもそも事業再生に重要でない物件の場合は争いにならず解除が認められる可能性が大きいといえます。また,「民事再生の申立」は,契約書上,一般に解除事由と同時に期限の利益の喪失として遅延損害金の発生事由として記載されており,その点については,本判例は何も触れていません。これらのことからすれば,いままでと同様,契約書に解除事由等として,「民事再生の申立」を入れることは意味があると考えます(川合)。
参考:民事再生法1条
最高裁平成20年12月16日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081216142118.pdf