今回は,株主による株主総会へのビデオカメラ等持込禁止を認めた裁判例と朝鮮民主主義人民共和国で製作された映画の無許諾放送に対する損害賠償請求が認められた裁判例のご紹介,前号記事「株券電子化と買収防衛策」についての補足説明をお送りします。
1 裁判例紹介−東京地裁平成20年6月5日決定
会社(以下「X社」といいます。)は,平成20年6月27日,東京都港区内において,株主総会(以下「本件株主総会」といいます。)を開催しましたが,本件株主総会に先立ち,一部の株主(以下「Yら」といいます。)のビデオカメラ等持込禁止仮処分申立てを行いました。
かかる申し立てに対して,東京地裁は以下のように判断しました。
まず,株主の議決権やその前提としての質疑討論の機会がいかに重要であるとしても,これらの権利等の行使は無制限に許されるというものではなく,その内容が株主平等原則に違反したり,その態様が他の株主による質疑討論の機会を奪うものであってはならないとし,株主総会の議長が有している「総会の秩序を維持し議事を整理する」権利(会社法315条1項)は,株主総会における議事を適正かつ円滑に運営する権利に由来するとともに,複数の株主に十分な質疑討論の機会を等しく保障し,その相互間の利益を調整することを目的としている,としました。
その上で,一部の株主が株主総会において自ら準備したビデオカメラ等を使用する行為が,議決権やその前提となる質疑討論を行なう機会を保障するものとして相当性を有するかどうかについて,X社はマイクを準備しており,一部の株主が自ら持ち込む必要性がないこと,一部の株主が自ら準備したマイクやスピーカーを使用して不規則発言を行なうと,他の株主の発言の機会を妨害する結果を招来すること,一部の株主による撮影が行なわれると他の株主の発言等を萎縮させる危険性があることを指摘しました。また,Yらが従前開催されたX社の株主総会において,自ら持ち込んだマイクやスピーカーで不規則発言を行なったり,自作の歌を録音したCDを再生したりして同株主総会を混乱させたこと,Yらがホームページ上に同株主総会に関する記載をしていることの事実を認定し,X社は,本件株主総会の議事を適正かつ円滑に運営する権利を保全するため,Yらに対しビデオカメラ等の使用行為等を排除する権利を有し,またビデオカメラ等の持ち込みを禁止することによりこれらの行為を排除する必要性が認められるとし,本件仮処分命令申立てを相当とする決定を出しました。
上記決定のように,株主総会の秩序を害し,他の株主の質疑討論の機会を妨害するような場合には,一部の株主のビデオカメラ等の持込を制限することもできると考えられますが,何らの合理的な理由もなく,形式的に持込を制限し,その株主の入場を拒絶すると,株主総会の決議上の瑕疵があると認定され,株主総会決議取消事由(会社法831条1項1号)にもなりかねないので気を付ける必要性があります(鈴木俊)。
参考:会社法315条1項,会社法831条1項1号
2 裁判例紹介−知財高裁平成20年12月24日判決
本件は,朝鮮民主主義人民共和国(以下「北朝鮮」といいます。)で,「密令027」と題する上映時間約1時間17分間の映画(以下「本件映画」といいます。)を製作した,北朝鮮文化省傘下の行政機関である朝鮮映画輸出入社(以下「輸出入社」といいます。)及び同社から日本国内における独占的な複製,頒布を許諾されている有限会社カナリオ企画(以下「カナリオ企画」といい,輸出入社とあわせて「控訴人ら」といいます。)が,本件映画を「ニュースプラス1」と題するテレビ番組内で2分11秒間にわたり無許諾で放映(以下「本件無許諾放映」といいます。)した日本テレビに対して,35万2000円の損害賠償等を求めた事案です。なお,原審での損害賠償請求額は550万円でしたが,控訴審において控訴人らは請求額を減縮しました。
まず,控訴人らは,原審での主張と同様に,北朝鮮が国際的な著作権保護を目的としたベルヌ条約に加盟していることを理由に,本件映画も「条約によりわが国が保護の義務を負う著作物」(著作権法6条3号)に該当し著作権の保護が及ぶため,著作権侵害を理由とする損害賠償等を請求しました。
しかし,知財高裁は,「国家承認をしない国家との間においては国際法上の主体である国家間の権利義務関係は認められない」,「北朝鮮がベルヌ条約の加盟国であったとしても,我が国が北朝鮮を国家承認していない以上,北朝鮮の国民を著作者とする著作物が,著作権法6条3号の『条約によりわが国が保護の義務を負う著作物』に当たると判断することはできない」として,控訴人らの著作権侵害を理由とする損害賠償請求等は認めませんでした。
他方,控訴人らは,控訴審において,仮に本件映画が著作権の保護を受けられないとしても,民法709条に基づく不法行為が成立するとの予備的主張を追加しました。
知財高裁は,この点について,「本件映画は相当の資金,労力,時間をかけて創作されたものといえるから,著作物それ自体として客観的な価値を有するものと認められる」とし,日本国内において本件映画の利用について独占的な管理支配をし得る地位を得ていたカナリオ企画の利益については,法律上の保護に値するものと認めるのが相当であるとしました(一方,日本国内における利用を専らカナリオ企画に委ねていた輸出入社については,法律上保護に値する利益を有するものとは認めませんでした。)。
その上で,本件無許諾放映は,朝鮮戦争勃発の日(1950年6月25日)に近接する6月28日に朝鮮中央テレビで同戦争を題材とした本件映画が放送されたこと及びその内容は北朝鮮の兵士が大韓民国の兵士よりも強く勇敢であることを強調するものであったということを,本件映画の映像とナレーションによって紹介する約2分20秒間のニュースであり,そのうち約2分強に本件映画の映像が使用されたものであり,「韓国軍をカンフーで」とのニュースにおける構成要素の一部という扱いではなく,同ニュースの大部分が本件映画の映像により構成されており,専ら本件映画の内容を紹介するという映画本来の利用方法による利用であるといえること等に照らし,「報道目的を考慮に入れたとしても本件無許諾放映は社会的相当性を欠いた行為であるとの評価を免れない」として,日本テレビのカナリオ企画に対する不法行為の成立を認めました。
ただし,カナリオ企画の主張する許諾料相当額の損害については,「著作権の認められる著作物と同様の損害を認めることは相当ではない」とする一方,「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるとき(民事訴訟法248条)に該当する」として,10万円と認定しました。
なお,知財高裁は,控訴人らと株式会社フジテレビジョンとの控訴事件についても,同日に,同趣旨の判決をしています。
本件のように,著作権法上保護に値しない表現物を利用する場合にも,民法709条に基づく損害賠償請求が認められる場合がありますので,他者の表現物を利用する場合には,その利用方法について十分な注意が必要です(鈴木理晶)。
参考:著作権法6条3号
民法709条
知財高裁平成20年12月24日判決
3 【補 足 解 説】株券電子化と買収防衛策
前号(vol.40)の記事「株券電子化と買収防衛策」に対して,ご質問をいただいたので,少し掘り下げてご説明します。
前号では,「全株主に取得条項付新株予約権の無償割当てを行い,取得条項に基づき会社が当該新株予約権を強制取得し,買収者以外の株主が保有する新株予約権についてその取得対価として株式を交付する方法」の買収防衛策を上場会社が採用した場合,防衛策発動の手続きを進める上で,株式等振替制度による影響を受けるか,について説明しました。その中で,手続は株式等振替制度によって影響を受けるものの,株式交付の方法として新株発行を採用するという点に留意すれば目的を達成できるとご説明しました。
1 これをもう少し掘り下げてご説明しますと,そもそもこの場合の新株予約権の割当手続は,株式等振替制度外で行われます。なぜなら,一般的に買収防衛のための取得条項付新株予約権には譲渡制限が付されますが,新株予約権は,譲渡制限が付されていると株式等振替制度の対象外になるからです(会社法236条1項6号,社債,株式等の振替に関する法律(以下「振替法」といいます。)163条)。したがって,発行会社は,従来どおり,新株予約権原簿に記録することによって新株予約権の割当手続を行うことになります(会社法249条)。
2 次に,「株式等振替制度の対象とならない新株予約権を有する者が,当該新株予約権を行使して振替株式の交付を請求する場合」と,今回のように,「会社が取得条項付新株予約権を取得条項に基づいて強制取得する対価として,新株予約権者に対して振替株式を交付する場合」との違いをご説明しましょう。
株式等振替制度の対象とならない新株予約権の行使の場合,新株予約権者は,発行会社に対して,行使の結果として取得する株式をどの口座に振り替えてほしいかを通知します(加入者口座コードの通知。法律上,新株予約権者が振替先口座を示すことは要求されていないのですが(会社法280条2項),通知しないと振替株式が口座に記録されず,第三者に譲渡ができないなどの不利益があるため,通知をするのが通常です。)。このため,発行会社は,新株予約権者の口座を把握できており,株式会社証券保管振替機構(以下「ほふり」といいます。)に対して,新規記録通知(振替法130条1項)をすることができます(新規記録通知は,振替先の加入者口座コード(振替法130条1項3号)がわかっていないと行うことができません。)。
その後,ほふりが口座管理機関に対して新規記録通知をして,新株予約権者(加入者)の口座に増加株式の記録がされることになります。したがって,新株予約権の行使の場合は,特に事務処理上の問題なく,新株予約権者の口座に株式が振り替えられることになります。
これに対して,会社が取得条項付新株予約権を取得条項に基づいて強制取得する対価として,新株予約権者に対して,自己株式の処分によって株式を交付する場合,新株を発行する場合と異なり,ほふりを介した株主名簿の記載・記録が必要であるにもかかわらず,発行会社は新株予約権者から加入者口座コードの通知を受けることなく自動的に新株予約権を取得してしまうため,発行会社は加入者口座コードを把握できず,ほふりに対して,新規記録通知をすることができないことになります。したがって,新株予約権者の口座に増加株式の記録をすることができない(新株予約権者の口座に株式を振り替えることができない)ことになり,この点が,事務処理上の問題になってくるのです。
他方,発行会社が新株を発行してその株式を新株予約権の取得対価として新株予約権者に対して交付するのであれば,ほふりを介した株主名簿の記載・記録が必要でないため,発行会社はその交付について株主名簿に記録することができるので,新株予約権者の口座に株式を振り替えることができないという事務処理上の問題点は依然残るにせよ,買収防衛策の発動手続の目的は達成できることになります。この点は,前号でご説明しました。
以上,少々細かい説明になってしまいました。最後までお読みくださった方,ありがとうございます!(田辺)
参考:振替法130条1項,163条
会社法236条1項6号,249条,280条2項
当事務所News Letter vol 40