今回は,このところ話題になることが多い反社会的勢力排除条項(「反社条項」)に基づく契約解除の注意点,および前号に引き続き下請法の解説をお送りします。
1 反社条項に基づく契約解約の注意点
暴力団などの反社会的勢力を社会から排除することは社会的な命題であり,近時,コンプライアンス重視の流れにおいて,反社会的勢力に対して屈することなく法律に則して対応することや,反社会的勢力に対して資金提供を行わないことは,コンプライアンスそのものと言えます。
そのような認識のもと,政府は,平成19年6月,「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」を作成し,公表しています。
当該指針は,反社会的勢力との「取引を含めた一切の関係遮断」を要求し,その具体化の一つとして,反社会的勢力排除条項(「反社条項」)を契約書や取引約款に盛り込むことを求めています。反社条項は,取引の相手方が「反社会的勢力」に該当する場合に,取引の開始を拒否したり,契約を解除できるようにする根拠となる条項であり,現在では,契約書や取引約款に記載されるケースが増えています。特に,株式上場を目指す会社にとっては,必須であるとも言えます。
ところで,反社条項に基づき,相手方が「反社会的勢力」であるとして,契約の解約に至った場合,特に継続的契約関係において「不当解約」による損害賠償責任というリスクが生じます。
通常,反社条項において反社会的勢力を「暴力団,右翼団体または総会屋等の反社会的勢力」などと定義します。相手方が指定暴力団のように明らかな場合には,この定義の問題は生じませんが,"反社会的勢力"は真実の姿を隠している場合が多く,この定義に該当するのか否か微妙なケースが多いことになります。あまり定義を限定・明確にしてしまうと,必要以上に「反社会的勢力」の範囲を狭めてしまいます。
したがって,定義付けが重要になりますので,自社や同業他社における過去の不当要求行為等,反社会的勢力との間で生じた問題の類例をできるだけ多く集め,その分析に基づいて各業界・業態に即した具体的な表現になるように工夫する必要があります。
なお,「反社会的勢力」に該当するとしても,判例は,継続的契約関係に対する相手方の信頼を保護し,取引関係が長期にわたる場合等,継続的契約の継続性に対する強い期待が相手方に存在する場合には,かかる期待は法的保護に値するとして,契約に基づく予告期間を満たした約定解除権の行使についても,取引関係の継続を期待し得ない不信行為等の「やむを得ない事由」が必要であるとしています。
反社条項に該当する一事をもって「やむを得ない事由」に当たるか否かについては,リーディングケースといえる先例がないため,果たして反社条項による契約解除が適法として損害賠償リスクを負わないかについては,不確実性が残ります。現時点では,相手方とのやり取りを証拠化し,「やむを得ない事由」の集積に努める必要があると思います(佐川)。
参考:企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針
(平成19年6月19日 犯罪対策閣僚会議幹事会)
http://www.moj.go.jp/KEIJI/keiji42-01.html
2 【解 説】下請代金支払遅延等防止法(下請法)〜その2
前回は,どのような場合に下請法の適用を受けるのかについて解説しました。
今回は,下請法に規定されている親事業者の遵守すべき事項について説明します。
下請法が親会社に課している義務・禁止している行為として以下のものがあります。
(1) 書面の交付及び書類の作成・保存義務(法3条,法5条)
親事業者は,下請事業者に物品の製造や修理,情報成果物の作成又は役務提供を委託する場合,直ちに注文の内容,下請代金の額,支払期日,支払方法等を明記した書面(注文書)を下請事業者に交付する義務があります。
また,親事業者は,注文の内容,物品等の受領日,下請代金の額,支払日等を記載した書類を作成し,これを2年間保存する義務があります。
(2) 下請代金の支払期日を定める義務及び遅延利息の支払義務(法2条の2,法4条の2)
親事業者は,発注した物品等を受領した日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で,下請代金の支払期日を定める義務があります。
親事業者が,支払期日までに下請代金を支払わなかった場合,受領した日から起算して60日を経過した日から実際に支払いが行われる日までの期間,その日数に応じて下請事業者に対して年14.6%の遅延利息を支払う義務があります。当事者間でこの遅延利息と異なる約定利息を定めていても,その約定利息は排除されます。
(3) 受領拒否の禁止(法4条1項1号)
下請業者に責任がないのに,発注した部品等を受取らなかったり,正当な理由なく納期を延期することは禁止されています。
(4) 下請代金の支払遅延の禁止(法4条1項2号)
支払期日の経過後なお下請代金を支払わないことは禁止されています。例えば,受取った物品等の社内検査が済んでいないことを理由に下請代金の支払を遅延することは,禁止行為にあたります。
(5) 下請代金の減額の禁止(法4条1項3号)
下請事業者に責任がないのに,下請代金を減額することは禁止されています。減額の名目,方法,金額の多少,下請事業者との合意の有無を問いません。
(6) 返品の禁止(法4条1項4号)
下請事業者に責任がないのに,下請事業者から物品等を受領した後にその物品等を引き取らせることは禁止されています。
(7) 買いたたきの禁止(法4条1項5号)
同種・類似の委託取引の場に通常支払われる対価に比べて著しく低い下請代金の額を不当に定めることは禁止されています。
(8) 物の購入強制・役務の利用強制の禁止(法4条1項6号)
正当な理由がないのに,親事業者が指定する物品,役務などを強制して購入,利用させることは禁止されています。
(9) 報復措置の禁止(法4条1項7号)
下請事業者が,親事業者が禁止行為を行ったことについて公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由として,取引数量を削減したり,取引停止などの扱いをすることは禁止されています。
(10) 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止(法4条2項1号)
親事業者が原材料等を有償で支給した場合に,この原材料等を用いて下請事業者が製造又は修理した物品の下請代金の支払期日より早い時期に,この原材料等の代金を支払わせたり,下請代金から控除することは禁止されています。
(11) 割引困難な手形の交付の禁止(法4条2項2号)
下請代金を手形で支払う際に,一般の金融機関で割引を受けることが困難な手形を交付することにより,下請事業者の利益を不当に害することは禁止されています。
(12) 不当な経済上の利益の提供要請の禁止(法4条2項3号)
下請事業者に対して,自己のために現金やサービスその他の経済上の利益(協賛金や従業員の派遣など)を提供させ,下請事業者の利益を不当に害することは禁止されています。
(13) 不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(法4条2項4号)
下請事業者に責任がないのに,発注の取消や内容変更,やり直しをさせ,下請事業者の利益を不当に害することは禁止されています。
親事業者が下請法に違反した場合,公正取引委員会は,親事業者に対し違反行為を取り止めるよう勧告します(法7条)。勧告される内容は,違反行為の取り止めのほか,下請事業者の被った不利益の原状回復(減額分や遅延利息の支払等),再発防止措置の実施などです。また,勧告された場合は,原則として企業名,違反事実の概要,勧告の概要が公表されます。また,罰則も規定されています(法10条)。
親事業者から委託された業務が,前回解説した業務内容・資本金区分により下請法の適用をうける場合,下請法違反を理由として,親事業者による上記行為を拒むことができます。また,公正取引委員会に働きかけて,勧告等の措置を求めることも可能です。
親事業者との力関係から,親事業者に対して下請法違反を強く主張できないといった場合には,弁護士が下請事業者に代わって親事業者と交渉を行うことも効果的です(新妻)。
参考:下請法2条,2条の2,3条,4条,4条の2,5条,7条,10条
【解 説】下請代金支払遅延等防止法(下請法)〜その1
(当事務所News Letter vol38)
下請取引の適正化に係る通達の発出について(経済産業省)
下請取引の適正化について
(経済産業省)
(公正取引委員会)
ポイント解説下請法