今回は,10年間を越えて保管されている取締役会議事録の閲覧・謄写に関する裁判例の紹介,および下請法の解説をお送りします。
1 裁判例紹介−東京地裁平成18年2月10日決定
監査役を設置している株式会社では,株主が取締役会議事録を閲覧・謄写するには裁判所の許可が必要となりますが(会社法371条第2項),この閲覧・謄写許可申請に関し,参考となる裁判例をご紹介します。
被申請人であるY社は,A社の発行済株式総数の40%強を有する株主でしたが,A社が民事再生の申立てをしたのに伴い,A社に対する取立不能見込額の総額が347億円であること,A社の再生手続に全面的に協力していくことを公表しました。そこで,Y社の株主であるXは,Y社の株主総会でA社に対する事項について質問を準備し,株主代表訴訟の提起の要否を検討するため必要があるとして,旧商法260条の4第6項前段(会社法371条第2項)に基づき,Y社のA社に対する出資等に関して開催された取締役会の議事録を閲覧・謄写することの許可を求めました。
この裁判においては,会社が備置期間経過後に保存している議事録は,閲覧・謄写の許可の対象となるかが問題となりましたが,旧商法260条の4第5項(会社法371条第1項)の「備置ク」とは,営業時間中いつでも裁判所の許可を得た株主の請求があれば閲覧・謄写に応じ得る状態に置くことを意味し,旧商法260条の4第6項前段(会社法371条第2項)の閲覧・謄写の請求の前提となっていると解するのが相当であり,同項1号の「前項ノ議事録」は,10年間本店に備え置かなければならない議事録を指すとして,本件申請にかかる議事録のうち,Y社が取締役会の日から10年を超えて保存しているものについては,閲覧・謄写の許可の対象とならないとしました。
本決定は,取締役会議事録の10年間の備置期間と閲覧・謄写請求権を行使しうる範囲について初めて明らかにしたものです。
また,本決定は,これまで公表された裁判例の少ない取締役会議事録の閲覧・謄写の許可申請事件について,請求の対象となる議事録の特定性等実務上問題となる論点についても論じており,事例判断としても参考になる裁判例です(佐藤)。
参考:東京地裁平成18年2月10日決定
旧商法260条の4第5項,第6項
会社法371条1項
2 【解 説】下請代金支払遅延等防止法(下請法)〜 その1
経済産業省・公正取引委員会は,近時の資源高や金融不安による厳しい状況の影響が下請企業に偏りがちであるという状況を踏まえ,親事業者等に対し,「下請取引の適正化」についての通達を発しました。通達では,「親事業者の遵守すべき事項」として,下請代金支払遅延等防止法(以下「下請法」といいます。)に定められた義務や禁止行為を列挙しています。
これらの義務や禁止行為についての解説は次回に譲り,今回はその前提として,下請法がどのような場合に適用されるかについて説明します。
下請法は,親事業者による下請事業者に対する優越的地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。下請法の適用を受けるか否かは,(1)取引内容と(2)資本金区分によって決まります。
(1)取引内容
下請法の規制対象となる取引は,委託される内容によって条件が定められています。取引内容は,「製造委託」「修理委託」「情報成果物委託」「役務提供委託」の4つに分けられます。
ア 製造委託
物品を販売し,または製造を請け負っている事業者が,規格,品質,形状,デザイン,ブランドなどを細かく指定して,他の事業者に物品の製造や加工などを委託することをいいます。ここでいう「物品」とは動産のことを意味しており,家屋などの建築物は対象に含まれません。
イ 修理委託
物品の修理を請け負っている事業者がその修理を他の事業者に委託したり,自社で使用する物品を自社で修理している場合に,その修理の一部を他の事業者に委託することなどをいいます。
ウ 情報成果物委託
ソフトウェア,映像コンテンツ,各種デザインなど,情報成果物の提供や作成を行う事業者が,他の事業者にその作成作業を委託することをいいます。
エ 役務提供委託
運送やビルメンテナンスをはじめ,各種サービスの提供を行う事業者が,請け負った役務の提供を他の事業者に委託することをいいます。ただし,建設業を営む事業者が請け負う建設工事は,役務には含まれません。
(2)資本金区分
次に,資本金区分ですが,チェックポイントが2種類あります。1つは,(A)物品の製造,(B)物品の修理,(C)プログラムの作成,(D)運送・物品の倉庫保管・情報処理を外注している事業者に関するもの(タイプ?),もう1つは,(A)プログラム以外の情報成果物の作成,(B)運送・物品の倉庫保管・情報処理以外の役務の提供を外注している事業者に関するもの(タイプ?)です。
ア タイプ?
自社の資本金が3億1円以上の場合
→ 資本金3億円以下の会社や個人事業者に外注していれば,下請法が適用されます。
自社の資本金が1千万1円以上3億円以下の場合
→ 資本金1千万円以下の会社や個人事業者に外注していれば,下請法が適用されます。
イ タイプ?
自社の資本金が5千万1円以上の場合
→ 資本金5千万円以下の会社や個人事業者に外注していれば,下請法が適用されます。
自社の資本金が1千万1円以上5千万円以下の場合
→ 資本金1千万円以下の会社や個人事業者に外注していれば,下請法が適用されます。
以上の観点から,下請法の適用を受ける取引を委託しており,資本金が上述の区分に該当する場合には,下請法の規制に服することになります。
次回は,具体的にどのような規制がなされているのかについて説明します(新妻)。
参考:下請法2条,2条の2,3条,4条,4条の2,5条
下請取引の適正化に係る通達の発出について(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/20081127002/20081127002.html
下請取引の適正化について
(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/press/20081127002/20081127002-2.pdf
(公正取引委員会)
http://www.jftc.go.jp/pressrelease/08.november/08112701.pdf
ポイント解説下請法
http://www.jftc.go.jp/sitauke/pointkaisetsu.pdf