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1.裁判例紹介(東京地裁平成20年9月30日判決)
東急(東京急行電鉄)が,「TOKYU」「tokyu」という営業表示を用いている藤久建設株式会社(宮城県石巻市)に対して営業表示の差し止めを求めましたが,認められなかった事例を紹介します。
2.コース別人事制度における男女間の賃金格差について
コース別人事制度を採用する会社において,男女間での賃金格差が違法になる場合について,裁判例の紹介とともに説明します。
1.裁判例紹介(東京地裁平成20年9月30日判決)
今回は,東京急行電鉄株式会社(原告)が,宮城県石巻市の藤久建設株式会社(被告)に対して,「TOKYU」「tokyu」の営業表示の差し止めを請求しましたが,棄却された事例を紹介します(東京地裁平成20年9月30日判決)。
「自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似したものを使用等する行為」は,「不正競争」に該当し,使用差止請求や損害賠償請求の対象となります(不正競争防止法2条1項2号,3条,4条)。
本件では,原告の使用する「東急」の表示が「著名な商品等表示」に該当することを前提に,「東急」と,被告が使用する「TOKYU」や「tokyu」の表示が類似するものであるか否かが争点となりました。
類似性の判断基準については,「取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似するものとして受け取れるおそれがあるか否かを基準として判断すべき」とする最高裁の判例があります(最高裁昭和58年10月7日判決)。東京地方裁判所もこの基準を立てた上で,以下のように検討し,「東急」と「TOKYU」又は「tokyu」は称呼のみが共通するにすぎないため,「類似のもの」に当たるとは認められないとして原告の請求を棄却しました。
・外観
「東急」と「TOKYU」や「tokyu」の外観が異なることは明らかである。
・称呼
「東急」と「TOKYU」や「tokyu」は,「とうきゅう」の称呼が生じる点で共通する。
・観念
「東急」の表示は著名な営業表示であり,原告及び東急グループの観念が生じるものと認められるが,「東急」の表示が著名であるからといって,直ちに「TOKYU」や「tokyu」の語から,原告及び東急グループの観念が生じるということはできない。
また,全国には石巻市の被告(「藤久建設株式会社」)以外にも,大分市には「東九興産株式会社」,盛岡市には「株式会社とうきゅう商事」,倉敷市には「東久ストア」が存在するなど,「とうきゅう」という称呼に基づいて想起しうる営業主体は,原告及び東急グループに限られるものではなく,全国の各地域ごとの取引の実情に応じて,原告及び東急グループ以外の営業主体を想起しうるものである。
したがって,「東急」の営業表示と,「TOKYU」や「tokyu」の営業表示とが観念において共通するとまでは認めるに足りない。
東京地裁は上記のように判断しましたが,「TOKYU HANDS」などの表示を日ごろから目にしている東京在住の方の中には,「直ちに『TOKYU』や『tokyu』の語から,原告及び東急グループの観念が生じるということはできない。」という点には,疑問を感じる方もいらっしゃるかもしれません。知財高裁において,より詳細な類似性の検討がなされることが期待されます。
なお,東急は,「TOKYU」や「TOKYU CONSTRUCTION」を商標登録しているので,原則として商標権に基づき営業表示の使用を差し止めることができます。本件は,相手方に先使用権(商標法32条)が認められるため,商標権の主張をしなかったものと思われます。(鈴木理晶)
参照:不正競争防止法2条1項2号,3条,4条
商標法32条
最高裁昭和58年10月7日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/17D16AF173CCBADB49256A8500311F87.pdf
東京地裁平成20年9月30日判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20081001110947.pdf
2. コース別人事制度における男女間の賃金格差について
労働基準法は,男女同一賃金の原則として,使用者は,労働者が女性であることを理由として,賃金について,男性と差別的取扱いをしてはならない,と定めています。また,「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「均等法」といいます)は,募集,採用,配置,昇進,教育訓練,福利厚生,定年,退職,解雇の他,降格,職種・雇用形態の変更,退職勧奨,雇い止めに関する差別的取扱いを禁止しています。
コース別人事制度は,本来,労働者の意欲・能力,適正等を評価して処遇する制度ですが,実態は男女別雇用管理として機能しているケースもあり,そのような場合には,均等法5条・6条違反となります。この点について,厚生労働省は,「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」(平成19年1月22日 雇児発第022001号)を出し,均等法に違反する場合として以下のような場合をあげています。
(1)「総合職」は男性のみ,「準総合職」や「一般職」は女性のみといった制度を作るなど,一方の性の労働者のみを一定のコース等に分けるといった制度運営を行うこと。(2)コース等の各区分における募集,採用の際に,男女別で選考基準や採用基準に差を設けた上で行うこと。(3)「総合職」をはじめとするいずれのコース等についても男女とも配置することがあり得る制度とするなど,形式的には男女双方に開かれた制度になっているが,例えば「総合職」は男性のみとする慣行があるなど,実施の運用において男女異なる取扱いを行うこと。(4)コース等の各区分における配置,昇進,教育訓練等の雇用管理について,男女別で運用基準に差を設けた上で行うこと。(5)コース等で区分した雇用管理を導入,変更又は廃止するに当たって既存の労働者をコース等の各区分に分ける際に,性別を理由に一律に分けたり,一定のコース等に分ける場合に女性にのみ特別な要件を課す等,男女で異なる取扱いをすること。(6)コース等の変更に当たって,その対象から男女のいずれかを排除すること。(7)「総合職」の募集・採用に当たって,合理的な理由なく,転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること。
コース別人事制度における男女間の賃金格差について,参考になる近時の裁判例があります(東京高判平成20年1月31日)。
総合商社の社員と元社員の女性6人が「同期入社である一般職の男性との間に賃金格差があるのは,違法な男女差別である」などとして,会社に差額分の賃金や慰謝料を求めた事案で,判決は,「勤続期間が近似すると推認される同年齢の男女の社員間,あるいは,職務内容や困難度に同質性があり,一方の職務を他方が引き継ぐことが相互に繰り返し行われる男女の社員間において賃金について相当な格差がある場合には,その格差が生じたことについて合理的な理由が認められない限り,性の違いによって生じたものと推認することができる」とした上で,女性事務職が現に担当していた仕事の内容を個別に認定し,男性一般職の職務との比較,男女間の給与格差の程度,職掌転換制度の内容・実情,法律の改正状況等を検討し,一部の者について,一定時期以降の賃金格差には合理性がないと判示しました。
本判決は,コース別人事制度そのものを否定しているわけではありませんが,コースの異なる男女が,職務内容や困難度が同じような業務を行っているような場合には,コース別人事制度を採用していることが当然に男女間の賃金や処遇等の格差を正当化するものではないとしています。
会社としては,コース別人事制度を採用する場合には,同様の業務をコースが異なる男女に行わせないなど,事実上の男女別雇用管理にならないよう制度を設計する必要があります。(新妻)
参照:労働基準法4条
雇用の分野における男女の均等な機会及び
待遇の確保等に関する法律5条・6条
「コース等で区分した雇用管理についての留意事項」
(平成19年1月22日 雇児発第022001号)
東京高裁平成20年1月31日判決(判例時報2005号92頁)