今回は,平成20年10月に施行された特定通常実施権制度,いわゆる「偽装請負」に関する裁判例のご紹介と,事務所ホームページリニューアル,およびインド バンガロール見学旅行のお知らせをお送りします。
1 「包括ライセンス契約」の登録が可能になりました
平成20年10月に施行された,いわゆる「包括ライセンス契約」の登録制度である特定通常実施権制度をご紹介します。
産業界のライセンス実務では,許諾対象である特許権等が特許番号等で特定されておらず,特定の製品や技術に関して実施する限りにおいて包括的な許諾を行う,いわゆる「包括ライセンス契約」が広く締結され,かつ,その契約内容には事業戦略や営業秘密に関する事項等が含まれているため,契約の内容について守秘義務が定められている場合があります。
特許の通常実施権は登録をすれば第三者への対抗力を有するようになりますが,従来の通常実施権登録制度では,特許番号等によって許諾対象を特定し,かつ,ライセンシーの名称・所在地及び通常実施権の内容等について全て開示しなければなりませんでした。
そのため,上記のような包括ライセンス契約を締結しているライセンシーは,登録制度を活用することが難しいとされていました。
しかし,通常実施権は登録をしていないと第三者に対抗することができないため,通常実施権を登録していないライセンシーは,ライセンサーより特許権を取得した第三者から使用差止請求を受けたり,ライセンサーが破産した場合に破産管財人から当該包括ライセンス契約を解除されたりするおそれがあります。
そこで,特許番号等を利用した許諾対象の特定を必要とせず,かつ,ライセンシーの名称や通常実施権の内容等の秘匿する必要性の高い事項については,一定の利害関係を有する者にのみ開示される「包括ライセンス契約」のための登録制度として設けられたのが,特定通常実施権制度です(産業活力再生特別措置法)。
特定通常実施権登録制度では,許諾対象となる特許等を特許番号等ではなく,以下の事項を契約書で定めることによって特定することとされています(産業活力再生特別措置法59条3項4号,特定通常実施権登録令施行規則13条1項)。
1 許諾の対象となる特許権等の権利の種類
2 許諾の対象となる特許権等の取得の時期
3 許諾の対象となる特許権等を実施する製品又は技術の種類
4 上記1〜3以外の事項であって,許諾の対象となる特許権等を特定するために有益な事項(当該事項がない場合においては,その旨)
これらの事項は契約書に自由に記載されるべきものですが,特定通常実施権登録制度においては特許番号の代替物となるものであるため,一定の客観性が必要となります。
そこで,平成20年9月に,経済産業省知的財産政策室から「特定通常実施権登録制度における通常実施権の特定方法に関するガイドライン」が公表されています。
同ガイドラインでは,例えば,「許諾の対象となる特許権等の取得の時期」について,「製品開発終了時までに有する」,「契約有効期間中に取得」などの客観的に識別できないものについては,特定として望ましくないものとしています。
また,「許諾の対象となる特許権等を実施する製品又は技術の種類」についても,「『次世代携帯電話』という記載では外延が不明確である」とか,「『半導体製品等』というように『等』を用いることによって外延が不明確となる場合や『半導体事業部門の管理』というように許諾者の意思に依存するような場合なども特定方法として望ましくない」としています。
このように,特定通常実施権登録制度を利用するためには,前提として,適切な「包括ライセンス契約」を締結する必要があります。「包括ライセンス契約」の締結や,特定通常実施権登録制度のご利用をご検討される場合には,契約草案の段階から弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします(鈴木理晶)。
参考:産業活力再生特別措置法59条3項4号,特定通常実施権登録令施行規則13条1項
「特定通常実施権登録制度における通常実施権の特定方法に関するガイドライン」
経済産業省知的財産政策室
http://www.jpo.go.jp/tetuzuki/touroku/pdf/tokuteitujyojissikenseido/07guideline.pdf
2 裁判例紹介−大阪高判平成20年4月25日判決
業務委託者と業務受託者間の業務委託契約及び業務受託者・労働者間の雇用契約を無効とし,業務委託者と労働者の間に黙示の労働契約の成立を認めたいわゆる「偽装請負」に関する裁判例を紹介します。
松下プラズマディスプレイ株式会社(以下「松下プラズマ」といいます。)は,A社との間で,プラズマディスプレイパネルの生産業務を委託する契約を結んでいました。
原告は,A社に雇用され,松下プラズマの工場内においてディスプレイパネルの封着工程の作業に従事していましたが,労働者派遣法違反などを主張したため,大阪労働局の是正指導もあって,一旦は,松下プラズマに採用されました。
松下プラズマは,平成17年12月28日に,翌年1月31日をもって上記原告と松下プラズマ間の雇用契約が終了する旨通知し,同日以降の原告の就労を拒否したため,原告は松下プラズマに対して雇用契約上の地位にあることの確認を求めて提訴したのが本件です。
主たる争点としては,原告が松下プラズマの工場で作業を始めた平成16年1月20日以降に当事者間で労働契約が締結されたといえるかどうかです。
大阪高裁は,松下プラズマとA社の業務委託契約及び原告とA社との雇用契約は,職業安定法44条,労働基準法6条,および労働者派遣法に違反するために,民法90条により無効であると判断しました。
次に,松下プラズマと原告との間に黙示の労働契約が締結されたかどうかについて検討し,「黙示の合意により労働契約が成立したかどうかは,当該労務供給形態の具体的実態により両者間に事実上の使用従属関係,労務提供関係,賃金支払関係があるかどうか,この関係から両者間に客観的に推認される黙示の意思の合致があるかどうかによって判断するのが相当である。」とした上で,松下プラズマの従業員が原告に対し直接指示をして指揮,命令,監督し,原告は松下プラズマの従業員と混在して作業に従事していたこと,1年半の間松下プラズマの工場以外で就業したことはないこと,労働時間についてA社が管理をしていたかどうか不明なこと,A社が給与等として支払っていた金員は,松下プラズマがA社に業務委託料として支払った金員を基礎とするもので,松下プラズマが給与等の額を実質的に決定する立場にあったといえること等の事実を認定し,平成16年1月20日以降の原告と松下プラズマとの間には黙示の労働契約の成立が認められ,労働条件については原告とA社との間の雇用契約と同様であるとしました。
本件は,社会問題化しているいわゆる「偽装請負」について,その就業実態を詳細に認定し黙示の労働契約が成立している旨判断した裁判例であり,いかなる場合が「偽装請負」に該当するかについて一定の判断基準を示す裁判例として意義を有すると思います(鈴木俊)。
参考:職業安定法44条 労働基準法6条 民法90条
大阪高判平成20年4月25日判決
3 お知らせ
□ 事務所ホームページをリニューアルしました! □
事務所ホームページをリニューアルしました。
当事務所のことをよりよく理解していただけるような内容になっていますので,ぜひ一度ご訪問ください。
【クレア法律事務所ホームページ】
https://www.clairlaw.jp/
□ TiE Entrepreneurial Summit 2008 のご案内 □
アントレプレナーシップのプロモーションを目的とする非営利のグローバル団体であるTiEは,本年12月16日から18日にかけてインドのバンガロールでTiE Entrepreneurial Summit 2008を開催します。
イベント概要はこちらに掲載しています。
当事務所の弁護士も参加します。
興味がある方はinfo@clairlaw.jpまでご連絡ください。