今回は,会社法務の手続に関する情報として,取締役会による承認を要する「利益相反取引」についての解説,株主総会決議を欠く役員報酬の支払を事後的に適法化できるかについて判断した裁判例,および事務所ホームページリニューアルとインド バンガロール見学旅行のご案内をお送りします。
1 取締役会による承認を要する「利益相反取引」とは?
会社法は,取締役が会社の犠牲において自己又は第三者の利益を図ることを防止する趣旨から,取締役が利益相反取引をしようとするときは,取締役会(取締役会設置会社以外では株主総会)において,当該取引につき重要な事実を開示し,その承認を受けなければならないとしています。
具体的には,自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき(356条1項2号 直接取引)および株式会社が取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとす
るとき(356条1項3号 間接取引)がこれにあたり,適用範囲は,取引の安全への配慮から形式的に判断する,とするのが通説です。
そごう元会長損害賠償査定異議訴訟事件(東京地裁平成17年6月14日判決)でも,「実質的な観点で商法265条1項(※注 会社法356条1項2号3号)の取引を解釈し,具体的事案に適用する場合には,判断基準がはなはだ不明確にならざるを得ない。したがって,兼任する取締役が取引行為を担当する場合はともかく,単に取引当事者の会社の取締役に兼任する者があるというだけでは,商法265条1項の利益相反取引には当たらないと解するのが相当である。」として,利益相反取引の適用範囲を形式的に定めるとしています。
但し,形式的に利益相反取引には当たらない場合でも,会社を代表する取締役が会社の犠牲において相手方の利益を図る行為をすれば,忠実義務違反の責任が生じます。
甲がA社及びB社の代表取締役又は取締役で,A社とB社が取引を行う場合を例に,各社における甲の立場と各社における利害関係の有無について判例・通説に従ってまとめると,以下のようになります。
A社代表取締役+B社代表取締役=A社B社ともに承認が必要
A社代表取締役+B社取締役 =B社のみ承認が必要
A社取締役 +B社代表取締役=A社のみ承認が必要
A社取締役 +B社取締役 =どちらの承認も不要
但し,会社が取締役から無利息・無担保の貸付を受ける場合(最判昭和38年12月6日判決)などの抽象的に見て会社に損害が生じない取引や,会社とその全株式を有する株主である取締役との取引(最判昭和45年8月20日判決)及び株主全員の同意がある会社・取締役間の取引では,承認は不要とされています。
なお,利益相反取引を行おうとする取締役は,当該利益相反取引に対する承認についての取締役会の「決議について特別の利害関係を有する取締役」に該当するため,取締役会の議決に加わることができません(会社法369条2項)。しかし,ここで気をつけたいのは,当該取締役は取締役会に出席して利益相反取引についての重要事実を開示する義務があり,また意見を述べることは許されるということです。このため,当該取締役に対して全く招集の通知がなされなかった場合,取締役会は無効となり,取締役会の承認を受けない事と同じになるとされています(佐藤)。
参考:
会社法356条1項2号3号,369条2項,旧商法265条1項
東京地裁平成17年6月14日判決
最判昭和38年12月6日判決
最判昭和45年8月20日判決
2 裁判例紹介−最高裁平成17年2月15日判決
当事務所は,投資会社や証券会社などから依頼を受けて,株式上場やM&Aの対象会社に法的な問題がないか調査するデュー・デリジェンス業務を日常的に行っています。
デューデリで判明する典型的な違法手続として,会社法361条や387条(旧商法269条や279条)で必要とされている株主総会の決議を経ずに,取締役や監査役などの役員に報酬を支払っていたというものがあります。
そこで,あらたに株主総会を開催して決議を行うことにより,この「違法」を事後的に適法化・治癒できないか,ということが課題になります。
この点について参考になるのが,平成17年2月15日に出された最高裁判例です。
この判例は,会社の設立時から約6年間,株主総会の決議を経ずに取締役や監査役に5850万円の役員報酬を支払っていた会社において,株主が,報酬を受けた役員に対し,役員報酬相当額の会社への返還を求めた事案で,(1)訴訟を提起された後に株主総会を開催し,設立時に遡って効力が生じる旨の決議を経たことをもって,過去の株主総会決議を経ない役員報酬の支払が適法有効となるか,(2)会社側としては,この訴訟で勝つために事後的に株主総会決議を行ったもので,これは訴訟上の信義に反し許されないのではないか,という点が争点になりました。
(1)については,「株主総会の決議を経ずに役員報酬が支払われた場合であっても,これについて後に株主総会の決議を経ることにより,事後的にせよ上記規定の趣旨目的は達せられるものということができるから,当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り,当該役員報酬の支払は株主総会の決議に基づく適法有効なものになるというべきである。」としています。この判例は,設立から約6年間も,株主総会決議を経ずに役員報酬を支給していた事案です。このような会社であっても,「特段の事情」は認められないとしていますので,事後的に株主総会決議を経ることにより適法有効となる報酬支給の範囲は,かなり広範に及ぶものと考えられます。
(2)については,「本件決議に本件訴訟を上告人らの勝訴に導く意図が認められるとしても,それだけでは上告人らにおいて本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると解することはできず,他に上告人らが本件決議の存在を主張することが訴訟上の信義に反すると認められるような事情はうかがわれない。」としています。適法有効となるだけでなく,これを訴訟において主張することも認められています。
この判例は,あくまで役員報酬に関してのみ判断していますので,他の株主総会決議事項についても同様に考えられるかについて,最高裁の立場は明らかではありません。
ただ,(1)のように判示した最大の根拠が「事後的にせよ上記規定の趣旨目的(取締役の報酬については「お手盛り防止」,監査役については「独立性確保」)は達せられるものということができる」としていることからすると,必ず事前に株主総会決議が必要とされている事項でない限り,事後的に株主総会決議を経ることで「違法」を治癒できる可能性は高いものと考えられます(佐川)。
参考:
会社法361条,387条
旧商法269条,279条
最判平成17年2月15日判決
3 お知らせ
□ 事務所ホームページをリニューアルしました! □
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